重視すべき新しいトレンドとして、英国政府は金融政策と財政政策の発表を連携させる異例の対応を見せ、政策が総需要に与える効果の最大化を目指している。直近では先進7ヶ国(G7)首脳が協力して対応することを約束し、国際協調への取り組みも進展している。

アジア地域では、政府当局が直接的に株式市場に介入し、市場での株価変動が家計資産に与える打撃を緩和しようとしている。例えば中国政府は中国本土市場の株式を買い支え、日銀はETFの買入額を増加させている。

4. 新型コロナウイルスが供給サイド全般に与える影響の抑制

直近の政策方針は、新型コロナウイルスが供給サイドに与える影響を抑制することに主眼が置かれている。経済への影響を抑える最も効率的な方法は感染を早期に沈静化し、感染拡大を最小限に抑制することである。また感染拡大抑止策が経済にさらに大きく長期にわたって悪影響を与える事態を回避することである。

韓国では財政対応策の大半を医療支出に振り向けた結果、国内での感染拡大が抑制されつつある。対照的に新型コロナウイルスの検査の実施率の低い米国は感染者の確認数が実際よりも少ないと考えられるため、米国政府も欧州のような一段と厳格な感染抑制策を打ち出すことが必要になるとみられる。

供給サイドへの悪影響を抑制するその他の対策としては、金融の安定を維持するために市中銀行へ十分な流動性を供給することが実施されている。市場の変動性が拡大する中で、中国や日本、米国は流動性の増加に取り組んでいる。

また米FRBは他国の中銀に対して「通貨スワップ協定」の締結を呼びかけ、他国の企業や銀行が十分な米ドルを調達できる体制を担保しようとしている。

一段の対策が求められる可能性

主要国の多くが前例のない危機に対応し大規模な政策を打ち出している。世界各国の政策当局は金融政策に大きな役割を求めてきたが、経済見通しが悪化すれば一段の政策対応を求められよう。

最悪のシナリオとして、各国政府が「最後の買い手」となることが考えられる。その場合には政府は国内全般の事業支出を肩代わりして企業に従業員の維持を促し、倒産を回避することになる。世界的に超低金利でありインフレ率も低いため、多くの国には財政拡大を打ち出す余地があるが、中銀からの支援も必要とみられる。

HSBC投信の投資戦略

世界各国の政策当局が、感染拡大が経済に与える打撃を和らげる対策を強化している。しかし、かつてないほど緩和的な政策が広がる時代となった現在においても、経済見通しがなお極めて厳しく、不透明感の強い状況が続く中で金融市場の変動性は高まっている。当面はこれまで以上に慎重な投資戦略が必要と考えられる。

投資家心理は、新型コロナウイルスが企業経営の基盤に与える打撃への懸念と、財政・金融両面からの対応策が経済コストを抑制する期待感との間で板挟みの状態にある。

HSBC投信は、積極的かつ革新的な総合的政策によって新型コロナウイルスによる経済への悪影響についての恐怖心はある程度緩和され、感染が沈静化した後に経済活動が反発すると確信している。また直近の市場変動によりリスク資産のバリュエーションは大幅に改善したことから、6ヶ月以上を想定期間とする投資戦略においてリスク選好の投資方針を維持したいと考えている。