成長している会社は、事業規模を拡大する。この「拡大」とは、社員数を増やし、大きなオフィスへ移転していくものと思われがちですが、それは誤った思い込みかもしれません。スモールカンパニー(小さな会社)が成長しようとするとき、その思い込みが命取りになることもあります。

 この記事では、小さな会社のオフィスに対する考え方の鉄則について、『スモールカンパニー 本気の経営加速ノート』の著者で、経営コンサルタントの原田将司氏に教えてもらいました。

儲からない会社にはモノがあふれている

 まず、儲からない会社の特徴として、「モノが多いこと」が挙げられます。

 筆者は経営コンサルタントとしていくつもの会社を見てきましたが、儲かってない会社ほどモノが溢れていて雑然としていました。

 多くの場合、モノを整理整頓できていない会社の社員は、頭の中も整理できていません。その時々で目先の関心事を追いかけているだけなので、大した成果は出せませんし、たまに出た成果を再現することもできません。多くの場合、仕事の段取りは悪いし、エラーも多く、ただ突っ走っているだけという状態です。

 たとえ整理整頓が行き届いていたとしても、モノがたくさんあって良いことは何もありません。モノが多いということは、「管理対象が多い」ということです。管理対象が多ければ、社員がモノを管理する負担が大きくなり、エラーの原因も多くなるということ。そもそも、モノがなければ、整理も整頓も必要ないのです。

ゴミの量は、会社が捨てたお金の量

 昨年末の大掃除でモノを捨てまくって片づけたはずなのに、今年の大掃除でも昨年と同じくらいの量のゴミが出たという経験をした会社は多いのではないでしょうか?

 そのゴミは、もとはすべて「お金」だったものです。つまり、ゴミをたくさん出した会社というのは、たくさんのお金をゴミに変えた会社なのです。

 裏を返せば、モノが少ない会社とは、お金を節約し、モノの整理整頓や管理にかかるコストを節約できている会社です。会社の規模が小さくなればなるほど、「モノがないことで得られる効用」は大きくなります。多少の不便を感じるくらいが、実はちょうどよいのです。

 モノを買うと、お金が減り、管理が増え、エラーが増え、ゴミが増えます。「モノが増えても良いことは何もない」ということを、スモールカンパニーこそ意識しておくべきです。

オフィス機能をダウンサイジングしよう

 では、具体的にどのようなモノを減らせばよいのでしょうか?

 すぐに思いつくのは、社内備品や書類でしょう。また、資産計上はされているものの稼働率の低い設備や装置、不良在庫も一掃したいところです。

 筆者が特におすすめするのは、「オフィス機能のダウンサイジング」。つまり、狭いオフィスに移転しようということです。これは、当社でも支援先でも効果抜群でした。固定支出が減り、組織もマインドからコミュニケーション形態まで刷新されました。普段なかなかできない物品の処分が、オフィス移転という一大イベントをきっかけに一気に進むのです。

 移転先が今より狭くなるとなれば、持って行くものを厳選する必要があります。かなりの量のモノを処分しつつ、整理をつけておかなければならなくなり、物理的にも精神的にも心機一転することになります。その効果は絶大です。

「規模の拡大こそ成長の証」という思い込み

 ここで少し筆者の話をさせてください。経営コンサルティング会社を立ち上げた当初、私は「規模の拡大こそが成長」と思い込んでいました。無理して社員数を増やし、そのたびにオフィスを拡張して、地獄を見ることになりました。七転八倒の末に得た気付きは「小さな経営こそがスモールカンパニーを強くする」ということでした。

 ここで言うスモールカンパニーとは、社員数100名以下、売上数億円規模の会社のことです。筆者もスモールカンパニーの経営者ですが、創業から最初の10年間で4回のオフィス移転を繰り返し、社員1人当たり2000万円の生産性を実現するまでになりました。それを実現した時は、規模が最大だった時と比べて、オフィス面積は3分の1、物品は5分の1になっていました。

 一般的な世の中の考え方では、「会社を強くするためにはあれが足りない、これが必要! あれをしろ、これもしろ!」と、たくさんの難事遂行を急き立てます。しかし、筆者がたどり着いたのは、「スモールカンパニーは余計なことをするな」という経営の真理です。

筆者の原田将司人氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

社内の「移動距離」もコストになる

 オフィス機能のダウンサイジングによるメリットは、直接的にも間接的にもたくさんありますが、最もわかりやすいのはやはりコスト削減効果です。オフィス賃料は下がり、前述のとおり物品が減ることで管理対象が減り、清掃箇所が減り、社内の移動距離も減りました。実はこの「社内の移動距離(歩数)」はとても大きなコストなのですが、気づいている人は多くありません。

 次に示す表(別図版)は、支援先でのコスト削減事例です。移転前後を比較すると、社員数28名で年間平均470万4000円の削減効果です。社員の努力ではなく、構造的に削減できているところがポイントです。

移転の前と後でコストは大きく変わった

 この取り組みによって社員が運動不足になる、といったデメリットもありませんでした。勤務時間中の社内移動時間が減った分、社員のパフォーマンスは上がり、退社時間が早くなりました。オフィスでは仕事に集中し、さっさと終わらせて退社後にジムに通ったり、家族や友人と出かけたりするようになり、社員満足度は大きく向上しました。

 

電子データも「断捨離」しよう

 モノがあふれるとよくないのは、電子データも同じです。社内の共有フォルダには、何だかよく分からない電子データが散乱していないでしょうか? 担当者以外には何のファイルかわからないデータで共有フォルダがいっぱいになっているとしたら、すぐに対策が必要です。

 まず、「今使うデータ」と「過去の記録」を分けましょう。膨大なデータが混沌とする社内の共有フォルダにアクセスして、担当者が、自身の勘を頼りにお目当てのデータにたどり着く、というようなことをやめなければなりません。

 同じ共有フォルダ内でさらにフォルダを分けるのではなく、物理的に保管場所を分けてしまいましょう。たとえば、今使うデータは社内サーバーの共有フォルダに、「記録」として残すデータは外付けHDDに、という具合です。日常的に使う共有フォルダには、いつも必要なデータのみが保管・更新されることになり、検索がスピードアップし、削除ミスや上書きといったエラーが減ります。

 必要になったらいつでも気軽に「過去のものを参照できる状態」にしておくと、フォーマット化が進みません。以前に作成したA社向けの提案資料を毎回引っ張り出して、次に商談するB社向けに書き換えたりしていませんか? それではダメ。そうすると、「場当たり的な資料」が量産されることになります。

 本当に必要なものはフォーマット化して、資料作成スピードを上げる。それ以外は手書きのメモのみにする。そのくらいのメリハリをつけることは、スモールカンパニーにこそ重要なのです。

 

■ 原田 将司(はらだ しょうじ)
 兵庫県芦屋市出身。リソースアクティベーション株式会社および株式会社ことぷろの両社の代表取締役。中京大学経営学部を卒業後、証券会社を経て渡米。プロ格闘家とビジネスの両立を目指す中、米国同時多発テロに遭遇し、発生当初からレスキューチームに参加。帰国後、2006年に経営コンサルティングのリソースアクティベーション株式会社を設立。数々の販路開拓・新規事業プロジェクトを成功させている。

原田氏の著書:
スモールカンパニー 本気の経営加速ノート

原田 将司