台湾FPD(Flat Panel Display)メーカー大手5社(AUO、イノラックス、CPT、ハンスター、ジャイアントプラス)の2019年12月業績が出揃い、年間業績の暫定値が明らかになった。年間売上高は5社合計で前年比14%減の5474億台湾ドルとなり、2年連続で2桁のマイナス、過去10年で最低、ピークだった2010年からは半分の水準にとどまった。大型を中心とする液晶パネル価格の継続的な下落に加え、破産を決議した中華映管(CPT)の脱落などが影響した。また、年間を通じて、米中貿易摩擦の影響を回避するため、台湾へのUターン投資を積極化する動きもみられた。
AUOは2桁減収も首位守る
AUO(友達光電)の19年業績は、売上高が前年比12.6%減の2688億台湾ドル、出荷台数が大型パネルは同5.7%減の1億824万台、中小型パネルが同21.4%減の1億3102万台となった。マイナス幅はイノラックスよりも大きかったが、16年から4年連続で台湾FPD売上高トップの地位を守った。
AUOは現在、台湾経済部が主導している台湾へのUターン投資促進プランにおいて、台湾の桃園と台中の既存工場に407億台湾ドルを投資する計画を進めている。600人以上を新たに雇用してインテリジェントなハイエンド生産ラインを整備し、eスポーツ用ディスプレーなどの高付加価値な大型パネルや車載ディスプレーの生産を増やす。
イノラックスは9.8%の減収に
イノラックス(群創光電)の19年業績は、売上高が前年比9.8%減の2520億台湾ドル、出荷台数が大型は同3.2%減の1億2270万台、中小型が同5.5%減の2億5680万台となった。イノラックスもAUOと同様に、Uターン投資促進で701億台湾ドル以上の投資を推進している。新竹科学工業園区の苗栗にある工場へ投資し、AI(人工知能)を駆使した自動化などを導入して製造の競争力を高める。
中国のテレビ組立ラインの一部を台湾に戻して強化するほか、「ゼロタッチ」と呼ぶ照明製品の自動生産ラインを短期間で構築する。また、狭額縁製品、高コントラストかつ高リフレッシュレートのeスポーツ用やハイエンドノートPC用の液晶パネルを強化し、ミニLED製品、車載用の曲面・異形対応、指紋認証技術、スマートホームやAR/VR関連といった高付加価値品の生産を強化。台湾でのサプライチェーン競争力を再構築し、米中貿易摩擦の影響を回避していく考え。
CPTは売上高94%減
CPTは、18年12月に民事再生法を申請し、19年9月に破産を決議した。台湾の大手総合電機「大同公司(TATUNG)」の関連企業として1971年5月に設立され、もともとブラウン管の製造を主力に展開してきたが、90年代半ばからアモルファスシリコンTFT液晶へ事業をシフト。三菱電機と旭硝子の合弁会社ADI(Advanced Display Inc.)から技術を導入して量産展開を加速させ、2000年代前半には台湾液晶メーカーの「5匹の虎」の1社に数えられるなど急成長を遂げたが、中国・韓国メーカーとの競争が激しさを増した2000年代後半から収益が悪化していた。
16年にはグループ会社の中小型液晶パネルメーカー、ジャイアントプラス(凌巨科技)を凸版印刷グループに売却する一方、中国・福建省に新工場を稼働させて巻き返しを図ったが、この中国工場の債務返済が滞ったことが破綻につながった。19年は、出荷台数として大型が前年比62%減の48.1万台、中小型が同92%減の2013.5万台にとどまり、売上高は同94%減の15億台湾ドルしか上げられなかった。
ハンスターは転注獲得で3%減収にとどめる
ハンスターディスプレーの19年業績は、売上高が前年比3.1%減の163億台湾ドル、出荷台数が大型は同22.7%減の168万台、中小型が同16.3%減の3億9253万台となった。減収幅が5社で最も小さかったのは、破産したCPTからの転注を最も多く受けたからだと想定される。だが、それでも主力のスマートフォン分野で液晶パネルが有機ELへシフトしている影響などをカバーすることができず、出荷台数は伸びなかった。
ハンスターも台南科学工業園区の工場にUターン投資を実施中だ。台南工場に車載用や産業用、スマート家電向けの液晶パネル、折りたたみ式のタッチモジュール、電子タグ、マイクロLEDなどハイエンド製品の生産ラインを設置する。投資総額は79.1億台湾ドルを見込んでおり、これにより935人の雇用が創出できるという。
ジャイアントプラスも2桁の減収
ジャイアントプラスの19年業績は、売上高が前年比10.9%減の88億台湾ドルにとどまった。出荷実績は非公表。凸版印刷グループ傘下に入って丸3年が経過したことになるが、19年は1~9月までの9カ月業績で営業赤字に陥っており、液晶パネル価格の低迷に大きく影響を受けたとみられる。
20年は黒字化が期待されるが…
近年の台湾FPD業界は、国からの補助金政策などを受けて積極的な増産を続けてきた中国メーカーの猛烈な追撃を受けてきた。かつて中国市場は台湾FPDメーカーにとって最大の売り先だったが、中国メーカーの台頭によって市場を奪われた。液晶の次世代FPDとしてスマートフォンなどでは有機ELの採用が伸びているが、量産に巨額の設備投資を要するため台湾メーカーは有機ELの大規模量産に消極的。有機ELの次と期待されるマイクロLEDディスプレーの研究開発を活発化させつつ、主力の液晶パネルの価格が上昇に転ずるのをひたすら耐えて待つ戦略を採っている。
20年は、韓国メーカーのライン転換(液晶パネル生産能力の削減)によってパネル価格が本格的な上昇に転じてくると予測されており、これによって下期にはパネル各社が黒字に転換すると期待されている。しかし、いずれにせよ韓国や中国のFPDメーカーと差別化した戦略を打ち出していかなければ、台湾メーカーが売り上げやシェアを維持・拡大していくのは今後ますます難しくなるだろう。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏