ダイエット中にもかかわらず、デザートを我慢できなかったり、翌日のことが気になるものの、つい酒を飲み過ぎてしまったり……「誘惑に弱い」自分に嫌気が差した経験はないだろうか。

 スイーツやファストフード、アルコール、タバコ、スマホゲーム、ネットサーフィン……現代生活にはつきものの「誘惑」に打ち勝つにはどうすればいいのか? 明治大学の人気教授であり、文系・理系の垣根を越えた研究を展開する堀田秀吾氏に、新刊『科学的に自分を変える39の方法』をもとに、私たちが「つい誘惑に負けてしまう理由」と、それを克服するのに役立つ「強力な方法」を解説してもらった。

多すぎる誘惑に打ち勝つのは至難のワザ

 きっかけが何だったか忘れちゃったけど、データをまとめている最中にスマホを見始めたらあっという間に時間が経って、仕事が終わらず。仕方なく残業しようかと思っていたら、今日は課の飲み会。アルコールは控えて、自宅に持ち帰って仕事しようと思っていたのに、ついつい飲み過ぎ。さらには場の雰囲気にのまれて、禁煙したはずのタバコも吸っちゃったし、当然のことながら持ち帰った仕事もしないまま寝てしまった……。

 こんな経験、ありませんか?

 ダイエットしようと決めたはずなのに、ランチを買いに入ったコンビニでデザートのシュークリームを買っている。やるべき仕事は山ほどあるのについSNSのチェックをしてしまう、ちょっと1杯のつもりがいつの間にやらハシゴ酒……などなど、日常生活にはなんと誘惑の多いこと! その多すぎる誘惑に打ち勝つのは、至難のワザかもしれません。

誘惑に負けるとき、脳では何が起こっているのか

 私たちが「誘惑」という刺激に触れるとき、脳内では、「大脳辺縁系」と「大脳新皮質」という2つの部位が働きます。

 大脳辺縁系は、その誘惑を受け入れるか拒否するかを決める部位。ここで行われる意思決定は、デザートを食べるかといった小さなことから、生きるために不可欠な行動の選択まで、すべて決定するという強力なものです。そのため、大脳辺縁系で一度でも受け入れてしまった選択は、簡単にやめることができません。

 一方の大脳新皮質は、誘惑に直面しても、抑えるかどうか、思慮深く対処しようとします。大脳辺縁系とは相反する機能を持っているのです。

 だったら、大脳新皮質にしっかり働いてもらえれば、誘惑に簡単に打ち勝てそうなものですが……この大脳新皮質はストレスにとても弱く、ちょっとでも負荷がかかると、意思決定の機能を大脳辺縁系にまるっと渡してしまうのです。

 たとえば、忙しさをストレスに感じているなら、仕事はさておきスマホへ。ダイエットをしていて飢餓感を感じているなら、ついスイーツを食べてしまう……など。ストレス下においては、大脳新皮質の「思慮深さ」はアテにならず、ついつい心の欲するままの選択をしてしまうのです。

「もし〇〇したくなったら、そのときは△△する!」で誘惑に勝つ

 そんな大脳辺縁系に負けがちな大脳新皮質ですが、少し「クールダウン」すれば、冷静な判断をすることができるようになります。

 ニューヨーク大学のピーター・ゴルウィッツアー氏は、さまざまな誘惑に打ち勝つためには「イフ・ゼン・プランニング」という方法が有効だと提唱しています。これは、「もし(if)〇〇になったら、そのときは(then)△△する」とあらかじめ決めておくというものです。

 たとえば、「スイーツが食べたくなったら、その場でスクワットを10回」「仕事中にスマホを見たくなったら、深呼吸を5回」「タバコを吸ってしまいそうになったら、コップ1杯の水を一気飲み」など、抗いがたい誘惑に直面したとき、「クールダウンさせる行動」を設定しておくのです。

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イフ・ゼン・プランニングの強力な効果

 同じくゴルウィッツアー氏らが94人の学生を対象に行った実験では、「もし私が選んだ〇〇(高カロリー食)を食べたくなったら、そのことを忘れる!」と3回唱えるように頼み、1週間後にどれくらい食べたかを尋ねました。結果、イフ・ゼン・プランニングを実践した被験者は消費量が半分近くまで減っていたのです。

 また、107人のテニス選手を対象にした実験では、

(1)試合の当日に「試合に勝つために一球入魂でプレーをする」と目標を書いた紙に下線を引かせて署名してもらったグループ
(2)同じ目的を目指すが、イフ・ゼン・プランニング(たとえば、「集中力が足りない」などネガティブな気持ちが起こったら「落ち着くようにする」のようにどう対処するかを述べる)をするグループ
(3)同じ目的を目指すが、特に何もしないグループ

に分け、本人に加えてトレーナーやチームメイトにパフォーマンスなどを評価してもらいました。結果、イフ・ゼン・プランニングをしたグループの評価が劇的によかったのです。

 このイフ・ゼン・プランニングは、大脳新皮質に機能障害をきたしている患者さんにも有効だったというほど強力ですから、ついつい誘惑に負けがちな人にもうってつけ。こうして「誘惑に打ち勝った実績」を自分の中に積み上げていくことで、あらゆる誘惑、たとえばスイーツやアルコール、ついつい見過ぎてしまうスマホなどとも、ほどよい距離感で付き合っていける自分をつくっていきましょう。


■ 堀田 秀吾(ほった・しゅうご)
 明治大学教授。言語学博士。熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了。言葉とコミュニケーションをテーマに、言語学、法学、社会心理学、脳科学などのさまざまな分野を融合した研究を展開。熱血指導と画期的な授業スタイルが支持され、「明治一受けたい授業」にも選出される。研究の一方で「学びとエンターテインメントの融合」をライフワークとし、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書等を多数執筆、テレビ番組「ワイド!スクランブル」のレギュラー・コメンテーター、「世界一受けたい授業」「Rの法則」などにも出演する等、多岐にわたる活動を展開している。

堀田氏の著書:
科学的に自分を変える39の方法

堀田 秀吾