なぜ株式市場で再生医療が注目されるのか

2012年に山中伸弥京都大学教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、iPS細胞による再生医療への関心が一段と高まったことは記憶に新しいと思います。その後、2014年11月に「医薬品医療機器法」(旧薬事法)と、「再生医療安全性確保法」の2つの法律が成立し、再生医療の早期実用化に向けた下地ができ上がりました。

同年9月には、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーによって、加齢黄斑変性という目の難病患者に対してiPS細胞から作られた上皮細胞を移植する世界初の手術が実施されています。

このように、従来の医療技術では難しかった病気の治療に、再生医療技術の応用が期待されています。心臓移植が必要な重症の心不全、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー型認知症、脊髄損傷などの根本治療に希望が持てるようになったのです。

また、細胞の大量培養技術の進歩により、インシュリンを分泌する膵臓、解毒作用を持つ肝臓などの臓器培養も夢ではなくなりつつあります。

企業も再生医療技術に具体的なアクションを取り始めています。2015年春に武田薬品工業(4502)と京都大学iPS細胞研究所との間で10年間の共同研究開発契約が行われ、富士フィルムホールディングス(4901)はiPS細胞製造で先行する米国のCDI(セルラー・ダイナミクス・インターナショナル)社の買収を決めました。

さらに、アイロムグループ(2372)、ヘリオス(4593)といった上場バイオベンチャー企業が独自の技術で存在感を示すなど企業の動きは加速する一方で、今や日本の再生医療技術は世界をリードする存在になりつつあると考えられます。

アナリストが注目する再生医療のポイントは

視点1:市場のポテンシャル

経済産業省の再生医療関連市場予測(装置、関連資材、サービスなど周辺産業)によれば、2012年に170億円であった国内市場が2020年には950億円、2030年には1兆円になるとされています。また、世界市場は2030年に5.2兆円になるという、非常に高いポテンシャルを持つ市場であると見込まれています。

視点2:iPS細胞は臨床研究のステージへ

京都大学iPS細胞研究所の山中教授は、「iPS細胞の舞台は研究所から病院へ移行する第2ステージに入る」(日経新聞、2016年3月24日)と述べています。これは、既に部位別・用途別のiPS細胞の作製に自信を深め、これからは臨床研究のステージに入ることを意味しています。

糖尿病、神経細胞、ガン免疫療法、肝臓、パーキンソン病などへの臨床応用は、早ければ2017年から2020年までに開始されそうです。

視点3:まずは創薬支援から

2015年に武田薬品工業がiPS細胞研究所と10年間で総額320億円の共同研究契約を締結したのは、高いポテンシャルを持つとされる創薬分野での応用に狙いがあると言われます。

製薬企業は膨大な化合物ライブラリー(リスト)を持ちますが、その中で薬として有効な物質を見つけ出す効率は非常に低いのです。仮にヒトの臓器細胞を再生技術を使って作製できれば、使われていないライブラリーの中から有効な薬が再発見される可能性が高まります。

加えて、心臓、肝臓などへの毒性・安全性試験も、この万能細胞によって行えばコスト面を含めて効率性が飛躍的に高まります。

実際、すでに欧米の大手製薬メーカーはES細胞やiPS細胞を使って、こうした新薬の発見・安全性テストを行っています。富士フィルムホールディングスが2015年に買収した米国のCDI社は、iPS細胞を大量培養して製薬メーカーに供給する世界的企業です。また、同年にニコン(7731)が提携したスイスのロンザ社もそうした細胞を供給する創薬支援企業です。

このような動きから見ると、今後10年間の再生医療市場の大きな流れは、製薬メーカーによる創薬支援(新薬探索)や、細胞の大量培養に関連する材料やバイオリアクターなど装置の市場拡大が期待できると考えられるでしょう。

 

LIMO編集部