本記事の3つのポイント

  •   CESでもマイクロLEDの展示に注目が集まる。価格はまだ高価だが、参入企業の拡大でコストダウンや技術力の向上に期待
  •  サムスン電子は家庭用にマイクロLEDテレビを発売すると発表。2020年下期に商品化する予定で最大150インチまで対応
  •  日本企業では、ガラス基板加工メーカーの倉元製作所がマイクロLEDディスプレーのコンセプトモデルを出展

 

 1月7~10日に米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES 2020」では、次世代ディスプレー技術として期待を集めるミニ/マイクロLEDディスプレーに関する発表が相次いだ。

 ミニ/マイクロLEDディスプレーとは、既存の液晶や有機ELと異なり、画素に発光する半導体であるLEDを採用したもので、高い輝度とコントラスト(明暗比)、低消費電力や広い視野角が実現できる。効率のよい量産技術の確立が難しく、価格は液晶や有機ELに比べてまだまだ高価だが、世界中のメーカーの参入によって、さらなる低コスト化や技術力の向上が加速しそうだ。各社の発表内容をまとめた。

サムスンが家庭用に商品展開へ

 韓国のサムスン電子は、家庭用に「モジュラー型マイクロLEDテレビ」を発売すると発表した。2020年下期に商品化する予定で、75インチ、88インチ、93インチ、110インチ、150インチをラインアップする。ピーク輝度は5000ニットと明るく、赤緑青(RGB)のLEDを搭載したモジュールをタイリングして画面を構成するため、ユーザーの要望に応じてサイズや縦横比をカスタマイズすることもできるという。映像ソースを問わず、ディープラーニングによるアップスケーリング機能を活用して、最高品質のコンテンツを提供していく方針だ。

 同社はCES 2018で146インチの4KマイクロLEDテレビ「The Wall」を初公開し、「世界初のコンシューマー用モジュラーテレビ」として紹介した。この際に使用したLEDチップのサイズは「マイクロ」ではなく「ミニ」だったが、CES 2019で75インチのマイクロLEDディスプレーを披露。19年には商業用の「The Wall Professional」、家庭用ホームシネマ市場を狙った「The Wall Luxury」を発売してきたが、いよいよ一般民生用にも商品を投入することになった。

サムスン電子のマイクロLEDテレビ

ソウルセミコンは量産準備を完了

 韓国のLEDチップ/パッケージングメーカーであるソウルセミコンダクターと子会社のソウルバイオシスも、42~220インチの4Kテレビを実現できるマイクロLED技術「Micro Clean LED」を発表した。発表によると、両社はRGBのLEDチップ形成から、チップを基板に転写する実装ソリューションまでをすべて自社内で構築し、大画面化するためのタイリング技術や基板の接続技術も有しているという。「大量生産の準備ができている」とコメントしており、このほかに特定の戦略パートナー顧客に対してスマートウオッチ用マイクロLEDディスプレーのデモを実施した。

ソウルセミコンダクターのマイクロLED商品化計画

康佳は北米市場参入の起爆剤に

 中国の大手テレビメーカーである康佳(コンカ)グループは、20年に北米の家電市場に本格参入することを表明しており、これに向けてモジュールタイリング方式のマイクロLEDテレビ「APHAEA Smart Wall」を公開した。同社が第3世代と呼ぶLEDチップ技術と、独自開発の8Kプロセッサーを搭載しており、4Kの118インチ、5Kの147インチ、6Kの177インチ、7Kの206インチ、8Kの236インチをラインアップする予定。タイリング方式であるため、画面の縦横比を16対9、21対9、1対1などにパーソナライズすることもできる。

 康佳グループは、マイクロLEDの研究開発に15億元(2億1500万ドル)を投資する計画を発表済み。重慶市の投資会社「重慶良山工業投資有限公司(Chongqing Liangshan Industrial Investment)」とオプトエレクトロニクスを研究する合弁会社を設立する予定で、マイクロLED関連製品の生産・販売拡大に充てる一連の投資額は25.5億元(3億6500万ドル)にのぼるという。

TCLは液晶テレビの高性能化に活用

 中国テレビ大手のTCL集団は、液晶テレビ用ミニLEDバックライト技術「Vidrian」を出展した。Vidrianは、LED駆動用半導体回路とミニLEDをガラス基板に直接埋め込んだ。2万5000個以上のLEDを搭載し、同社の8K液晶パネルと組み合わせると、格別な高輝度・高コントラストを実現できる。先ごろ80億ドルを投じて開設した自社工場で設計・生産を自社内で管理できるという。なお、同社はすでに、19年に75インチのRoku TV 8シリーズにミニLEDバックライトを搭載し販売している。

ITRIもタイリングモジュールを開発

 台湾工業技術研究院(ITRI)は、プリント配線板にマイクロLEDチップを直接実装したフルカラーディスプレーモジュールを展示した。LEDチップサイズは100μm未満、チップ間ピッチは700μm未満で、モジュール1枚あたり480×480ピクセルの解像度を実現した。タイリングによって任意のディスプレーサイズを実現できるモジュラー方式を採用し、eスポーツ用や車載用のモニターとしての利用も見込む。

 ITRIは、台湾におけるマイクロLED国家プロジェクトを主導しており、LEDチップベンチャーのプレイナイトライド、プリント配線板大手のユニマイクロン、LEDドライバーIC大手のマクロブロックらと共同開発を進めている。

ITRIのマイクロLEDモジュール

倉元製作所が独自ブランド立ち上げ

 日本企業では、ガラス基板加工メーカーの倉元製作所がマイクロLEDディスプレーのコンセプトモデルを出展した。また、次世代型をブランド名「FINE-EX(ファイン-エックス)」として、21年に発売する予定であることも明らかにした。

 展示したコンセプトモデルは、丸い柱への設置を提案し、曲率半径R650のディスプレーとして製作した。同社独自の加工技術とタイリング技術で、ピクセルピッチ0.8mmのマイクロLEDモジュールを凹凸や隙間が無いようにつないで曲面形状にした。

 LEDモジュールの基本サイズは96mm角。これにピッチ0.8mmで1万4400ドットのLEDを実装した。加工技術とタイリング技術によって、凹凸や継ぎ目が見えない曲面状態でつなぎ合わせる。平面の壁や円柱などの曲面への設置にも適している。

 また、フレキシブルLEDディスプレーモジュールも開発中だ。基本仕様は、モジュールサイズ480×160mm、LED間ピッチ2.5mm、ドット数1万2288で、片面での使用に加え、両面に貼り合わせて使用することも可能。軽量であるため、吊り下げ設置もできるという。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

まとめにかえて

 半導体・FPD業界にとって、マイクロLEDは新たな事業機会の到来です。現状でマイクロLEDのアプリケーションはウエアラブルデバイスなどの小型ディスプレー用途に限られていますが、こうした大型テレビ用途への展開が進めば、関連k業にとっても、潜在的なマーケットはさらに拡大する見通しです。

電子デバイス産業新聞