豪ドル市場への影響は?
オーストラリア政府としては、黒字化した財政の紐を今緩めるよりは、財政規律を保ち、政策カードを温存する腹積もりのようです。
しかし、オーストラリア経済の足元は、政府の主張ほど堅調かどうかは心もとない状況です。RBAが注目している家計所得の伸びは低水準にとどまっています。
9月の賃金伸び率は前年比2.3%と、インフレ率の目標値2.0%をわずかに上回りましたが、RBAが望んでいる賃金の伸び率は3.5%ですから、これを大幅に下回っている状態です。雇用市場の引き締まりにより、賃金の伸びが高く、消費も旺盛さを保っている米国市場とは大きな違いがあると言わざるを得ません。
このように足元の経済状況が芳しくない中で、RBAは今年、6月・7月・10月と3回の利下げを実施して、政策金利を過去最低水準である0.75%に引き下げました。いち早く、景気のてこ入れを図る行動に出るほど危機感が強かったとも言えます。米FRBの金融緩和を先取りするような政策変更・金融緩和を実施してきました。
現在、市場では、RBAによる追加利下げを見通して、金利低下を織り込んできています。豪ドル金利の利回り曲線から読み取れば、来年2月時点では0.25%の利下げを半分程度織り込んでいますし、来年5月時点では、0.25%の利下げをほぼ織り込んでいる状態です。
為替市場では、2019年を通して豪ドルには厳しい年でした。年初は、中国経済減速への懸念から豪ドルも対米ドルで低下して、一時的に対米ドルで約10年ぶりの安値となる0.67米ドル水準をつけた後、8-9月には米中貿易摩擦の激化の影響を受け、0.66米ドル台まで売り込まれることもありました。
ただ、RBAの金融緩和の効果や、不動産価格の下落にも落ち着きが見られること、政府の政策の安定や財政基盤の改善など長期的な政策への堅実さも評価され、下値を固める動きが出始めています。
世界的に各国の中央銀行が、同調するように実行した金融緩和政策により2020年の世界経済の成長が支えられる可能性に加えて、財政政策の余力のあるオーストラリアに関する見通しは(従来予想より)肯定的に見直される可能性は十分にあり、豪ドルの反転には注目しておきたいところです。
ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一