最近は、どこの会社でも経営層から「現場の生産性を上げろ!」と大号令が響いています。とくにワークライフバランスが唱えられ、思うように残業ができなくなってきた現在、ビジネスパーソンの置かれた立場は、ある意味で昔より厳しいともいえるかもしれません。『科学的にラクして達成する技術』の著者・永谷研一さんはこう話します。
「好きなだけ働けた時代は、多少、実力が足りなくても、それを『時間』でカバーすることができました。若いときに必死に(ときには終電帰りや徹夜が続いても)仕事をする中で、いつしか本当の実力を身につけてきたという人も多かったでしょう。ただ、さすがに今の時代にそのやり方は通用しません」
この記事では、行動科学のエキスパートである永谷さんに、ビジネスパーソンの基本スキルとして知っておきたい「仕事の生産性を上げる技術」を教えてもらいました。
そもそも「生産性」って何?
昔と今で、仕事を取り巻く環境は大きく変わりましたが、ビジネスパーソンに対する期待は変わっていません。時間に制限がある分、発揮しなければならないパフォーマンスも低く設定されている……というわけでもなく、昔と変わらず、高いパフォーマンスが求められています。そんな中で、「生産性を上げる」ことは、死活問題になってきているのです。
もちろん「生産性を上げろ!」と声高に叫んで生産性が上がるのであれば、苦労はありません。しかし、工場労働者とは違って、いまや多くのビジネスパーソンが知的労働者/ホワイトカラーですので、「生産性を下げている原因」が隠れて見えないことが多いのも現実。だからこそ、いま「仕事の生産性を上げる技術」を身につけることは有益なのです。
では、まず「生産性」とは何でしょうか? 生産性を算式に置き換えると、
・生産性=成果/時間
となります。要は、「仕事の成果」を「その仕事にかけた時間」で割れば、それがすなわち生産性となるのです。
生産性を高めるための2つの着目点
では次に、この生産性を「最も高い状態」にするにはどうしたらいいでしょうか? 一緒に考えてみましょう。
▼ 1.「時間」に着目する
まずは「生産性=成果/時間」という計算式の分母の「時間」に着目します。時間を短くすればするほど、生産性は高まります。そして時間をゼロにすれば、生産性は最も高い「無限大」となります。つまり、「仕事の生産性」を一番高くする方法は「その仕事をしない」こと。より正確に言うと、「その仕事をしないでも、成果を出す」ことです。
ここで一つ質問です。
「あなたが設定した目標は、本当にあなたの仕事なのですか?」
限られた時間の中で目標を達成するために、仕事のムダをなくし、生産性を上げることは重要です。そのためには、次の3つの点で、あなたの仕事をチェックするとよいでしょう。
・その仕事と別の仕事を、一緒にできないか考える(合併)
・その仕事を、ほかの人に任せられないか考える(委譲)
・その仕事をしなくても、成果が出せないか考える(中止)
この3つは、いずれも「仕事の時間」をゼロにしています。先ほどお話ししたように、時間がゼロになるということは、仕事の生産性は無限大となるということ。仕事が発生したら、まず「合併・委譲・中止」の3点でその仕事を見直し、別の方法で成果を出せないかを考えることが大切なのです。
▼ 2.「成果」に着目する
生産性を上げる別の手段として、先ほどの式の分子である「成果」に着目します。
仕事の生産性が低い場合、実は「成果の設定」に誤りがあるということがよくあります。これは要するに、方向性のずれたトンチンカンなことを目指してしまっているということです。
そんなときは一度、仕事の目的に立ち返って、「そもそも何のためにこの仕事をやっているのか?」と目的思考で仕事を捉え直すといいでしょう。
生産性を上げた実例
わかりやすように、事例で説明しましょう。時間(合併・委譲・中止)の視点と成果の設定のズレを見直して生産性を上げた例で、私が20代のころ、システムエンジニアをしていたときの話です。
当時、私が勤務していた会社で、ある経理システムを、大手企業の関連会社200社に導入する仕事を、別の担当者から引き継いで担当することになりました。
前任者は、1社あたりの導入に1週間かけていました。自分でやってみると、サーバーにシステムをインストールするのに2日かかっていることがわかりました。
サーバーはアメリカからの船便で、大きな段ボール箱に入って届きます。それを開けてハードディスクにOSやアプリケーションソフトをインストールしたあと、また段ボール箱にしまって各地に輸送していました。
何が大変かというと、その段ボール箱の開け閉めなのです。複雑な部品が多いので、わかりやすくきれいに開梱・梱包するのに、とても手間がかかります。
なんとかラクできないか?
私はなんとかラクできないかと、そのサーバーがどのような物流に乗っているのかを調べてみました。すると、船積みから降ろされて保管される場所は、東京・大田区の平和島というところにある倉庫でした。そこでは検査員が、いったん段ボール箱の中身を開けて、サーバーの電源が入るかどうかをチェックしていました。
そこで私は検査の担当者に会いに行き、とても簡略化したインストール手順書を手に、「ついで」の作業をお願いしたのです。
「電源のチェックのとき、このテープを入れて、リターンキーを押してください(当時の記録用メディアはDVDではなく、テープでした)。30分待てば、『End』と表示されますので、簡単です。よろしくお願いします」
最初は協力的でなかった検査員も、何度も足を運ぶことで了承してくれました。ソフトがインストールされたサーバーは、その平和島の倉庫から、直接、顧客企業に輸送されるようにしたので、私は現地での設置指示をするだけでよくなったのです。
これで、1週間のうち、2日分の仕事を浮かすことができました。検査員の30分の作業で、システムエンジニアの2日間の仕事を削減することができたのです。もちろん会社全体としても、利益になっています。
「成果の捉え方」で生産性は激変する
これは、成果設定を変えることで、生産性が上がったという事例です。つまり、
[以前の成果設定]
・毎週、サーバーにソフトウエアをインストールして輸送する
[変更した成果設定]
・毎週、お客さまに、ソフトがすでにインストールされたサーバーを届ける
というように、成果設定を変えたということです。
人は、ひとたび手段が目的になると、黙々と作業することに何の疑問も持たなくなってしまいます。たとえ多くの時間が使われていても、「これはムダではないか?」と気づけないわけです。
以前は「サーバーへのインストール作業」という手段を仕事の目的にしてしまっていました。一方で、変更後は、成果設定における目的を「お客さまに届けること」にしたので、インストール作業自体は目標達成のための単なる手段となり、他者に30分だけ仕事を任せることで、2日間の仕事を削減するという大きな改善ができたのです。
このように、「成果をどう捉えるか」によって、時間の使い方が変わり、仕事の生産性は大きく変わります。もしも成果の設定を誤ると、ムダな仕事につながってしまうこともある一方で、正しい成果設定をすれば、生産性が高まります。結果、ラクして達成するための近道となるのです。
■ 永谷 研一(ながや・けんいち)
発明家/行動科学専門家。株式会社ネットマン 代表取締役社長。1966年静岡県生まれ。1999年ネットマン設立。学校や企業の教育の場にITを活用するサービスのパイオニア。行動変容を促進するITシステムを考案・開発し、日米で特許を取得。アメリカでO-1ビザ(卓越能力者ビザ)が認められた。行動科学や認知心理学をベースに、1万5000人の行動変容データを検証・分析し、目標達成メソッド「PDCFAサイクル」を開発。三菱UFJ銀行、ダイキン工業、シミックHD、トリドールHD、日立グループなど130社の人材育成プログラムに導入される。また子供たちの自己肯定感を高める社会活動を行っている。4人の子の父。著書に『1日5分「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
永谷氏の著書:
『科学的にラクして達成する技術』
永谷 研一