みなさんは、日本全国の歯医者さんに1日に訪れる患者の数はどれくらいだと思われますか? 厚生労働省が2017年に行った調査によると、国内の歯科の外来患者の数は、1日あたり134万人にものぼると推計されています。イメージでいえば、日本人の100人に1人くらいが毎日、どこかの歯医者さんに治療に訪れていることになります。

 そうした患者さんの中で、特に虫歯や歯周病やケガなど何かの理由で自分の歯をなくしたときに、日本では「入れ歯」や「差し歯」、あるいは「ブリッジ」を選ぶ人が多いといわれています。ただ、歯科医師の滝澤聡明さんは、「歯科の技術でいえば、日本は世界でもトップクラスなんですが、実は先進国では、多くの国でインプラント治療が中心になっているんです」と話します。国内のクリニックが通常行うインプラント手術の平均本数が月に2~3本とされる中、月に約100本もの治療を行っている、インプラントの専門医です。

 歯を失ったときに、代わりに人工の歯根を埋めることで、自分の歯に近い機能を取り戻すのがインプラント治療です。ただ、そう聞いても、「どんなものかよくわからない」という人も多いのではないでしょうか。この記事では、『切らない! 縫わない! 怖くない! フラップレスインプラント』という著書もある滝澤先生に、基礎知識として、インプラントにはどんな種類があるのかを聞きました。

数多くの種類から「自分に合うもの」を選ぶのが重要

 インプラントの治療に使われる人工歯根である「インプラント体」を製造しているメーカーは世界中にたくさんあり、インプラント体の種類はなんと100種類以上もあるんです。それぞれ構造や材質、価格などに違いがあり、利用できる症例も異なります。

 それほど種類が多いだけに、自分に合ったインプラントの「種類」を選ぶことは、治療を受ける際に大切な要素のひとつともいえます。たとえば、金属アレルギーを持っている方は、金属を使用しない「ノンメタル」のインプラントでなくてはなりませんし、骨粗しょう症の方は、骨との結合がいいものを選ぶ必要があります。

 材質だけでなく、インプラントの「サイズ」にも注意が必要です。この点をおざなりにしたために、後々、不具合が出てしまうというケースがあるのです。

 インプラントのサイズが合わないと、自分の骨を合わせていく必要が生じてしまいますが、その場合、人工骨で足りない箇所を補わなければなりません。人工骨の手術を行えば、費用や時間だけでなく「痛み」もその分増えてしまいますし、人工骨による感染症のリスクなども高まってしまいます。

 たとえば、カメラを買おうと家電量販店に訪れたとき、ひとつのメーカーの1種類のカメラしか選択肢がないのは寂しいと思いませんか(というか、あり得ないですよね)。しかも、カメラは気に入らなかったら買い替えることもできますが、インプラントは簡単に付け替え、というわけにはいきません。

「体に入れるもの」だけに最低限の知識は押さえたい

 自分の体に入れるものだからこそ、最低限、どんなインプラントなのかを理解した上で、事前に担当歯科医師とよく相談して決めることが大切です。

 ここでは、私のクリニックでも扱っており、国内で比較的よく使われるインプラントの種類を一部ご紹介します。

世界/国内シェアナンバーワン……「ストローマン」

 ストローマンは、国内外で人気の高いインプラントです。親水性が高いため血液との吸着がよく、骨との結合が表面だけでなくインプラント体の内側から始まるため、「骨と結合するのに時間がかからない」ことが特徴です〈別図版参照〉。最短で上あご6週間、下あご4週間と、従来の3分の1程度の時間で治療が可能です。抜歯と同時に埋入する抜歯即時インプラントや、骨が柔らかい方、骨結合が悪いケースなどに向いています。

ラグビー選手の劣化してしまった差し歯をストローマンで治療した例

<特徴>
・世界ナンバーワンシェア
・骨と結合するまでの期間が短く済む

価格重視派の方なら……「オステム」

 近年、日本でも広く使われるようになったインプラント体が「オステム」です。ほかのインプラント体の優れた部分を取り入れた構造となっており、サイズのバリエーションも豊富で幅広い症例で利用できます。価格を抑えられるという利点もあります。

<特徴>
・既存品の優れた点を取り入れている
・価格が安価
・サイズが豊富で、幅広い症例に使える

歯周病に効果あり……「バイオホライズン・レーザーロック」

 独自の特許技術によって、歯肉(粘膜)との結合力を高めたインプラント体です。開発の過程で多数の臨床実験が行われていて、安全性も高くなっています。歯肉との結合の高さから、細菌侵入を防ぎ、歯周病などにも効果があります。

<特徴>
・歯肉との結合力が高く、歯周病に効果あり
・安全性が高い

骨粗しょう症の方でも使える……「ジンマー(カルシテック スプライン)」

 インプラント体の表面に、「ハイドロキシアパタイト」と呼ばれる素材をコーティングしているのが特徴。ハイドロキシアパタイトは、骨と同じ生体材料なので、あごの骨とより強固に結合します。もともと骨が柔らかい方や、骨粗しょう症の方に向いています。抜歯してすぐにインプラント体を埋め込む「抜歯即時インプラント」で多く使用されています。

<特徴>
・骨と同じ生体材料を使用しており、強固に結合する
・骨粗しょう症や骨が柔らかい人にも使える
・抜歯即時インプラントに適している

多数の実績あり……「ノーベルバイオケア」

 ノーベルバイオケア社は、世界ではじめてネジタイプのインプラント体を開発したメーカーです。数多くの実績があり、信頼性も十分。インプラント埋入と同時に仮歯を入れられる「即時荷重インプラント」に数多く使用され、最も進化したインプラントといえます。中でも、その製品「ノーベルアクティブ」は、先端が鋭い刃物状のドリルになっているため、小さい穴に簡単に挿入でき、骨を削る量も最小限で済みます。

<特徴>
・ネジタイプを世界で初めて開発したメーカーで信頼度が高い
・最も進化したインプラント
・骨を削る量が最小限で済む

筆者の滝澤聡明氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

 このように、インプラント体にはさまざまな種類があるのですが、治療の仕方も患者さんの口腔内の状態やニーズによって多様な方法が採用されます。

 中には、「このインプラント体しかない」というように選択肢のない、あるいは選択肢の少ないクリニックもあります。クリニック側の意見だけでなく、患者さんの側でも、こうした基礎知識をもとに、ぜひご自身に合うインプラントを選んでもらいたいと思います。

 

■ 滝澤聡明(たきざわ・としあき)
 医療法人社団明敬会理事長。歯学博士。神奈川歯科大学卒。1996年に東京都江東区にタキザワ歯科クリニック、2006年に湘南藤沢歯科、2019年に東京日本橋デンタルクリニックを開院。インプラント治療に注力し、「インプラント専門外来」や「インプラントセンター」、インプラントのセカンドオピニオンとリカバリーをメインとする「リカバリーセンター」を設けている。ICOI(国際口腔インプラント学会)日本支部役員、ICOI指導医、ICOI認定医、iACD(国際コンテンポラリー歯科学会)国際理事会理事、UCLAインプラントアソシエーションジャパン理事、厚生労働省認定臨床研修指導医。

滝澤氏の著書:
切らない! 縫わない! 怖くない! フラップレスインプラント

滝澤 聡明