5. 医療費の自己負担が3割になると高額療養費はどう変わる?3割になると外来の上限(外来特例)がなくなる
厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」によると、70歳以上の1か月の自己負担の上限は、負担割合の区分によって次のように分かれます。
- 【現役並み所得Ⅰ(課税所得145万円以上)】8万5800円+(医療費−28万6000円)×1%(世帯ごと)
- 【一般(1割・2割の人)】外来は個人ごとに2万2000円(年21万6000円まで)、入院を含む世帯ごとの上限は6万1500円
外来だけの月では、1割・2割の人は個人ごとに2万2000円が上限ですが、3割の人には外来の上限(外来特例)がありません。医療費5万円の外来なら、3割で1万5000円、2割で1万円、1割で5000円を払います。
医療費が100万円かかった入院の月で比べると、窓口での自己負担は3割なら30万円、2割なら20万円、1割なら10万円です。高額療養費の上限は、3割の人は9万2940円、1割・2割の人は6万1500円で、差は3万1440円です。
年間上限は区分ごとに決まっていて、現役並み所得Ⅰと一般はどちらも年53万円です(一般のうち、所得が一定以下の区分に当たると確認できた人は年41万円)。現役並み所得Ⅱ・Ⅲは、年111万円・年168万円です。
※試算の前提:同じ月・同じ世帯で、ほかに自己負担がない場合。現役並み所得Ⅰの上限は、8万5800円+(100万円−28万6000円)×1%=9万2940円。課税所得380万円以上の人は、さらに上の区分(現役並み所得Ⅱ・Ⅲ)になります。
6. 申請で医療費の自己負担が下がるのはどんな人?年金だけで年約374万〜383万円の単身の人、1945年1月1日以前に生まれた人、会社の健康保険の70〜74歳など
年金と給与のある人は、210万円の特例で先に判定がつくことが多く、基準収入額適用申請が効く場面は限られます。申請が効きやすいのは、収入に比べて控除が小さく、所得が大きくなりやすい人です。
- 【年金だけの単身の人】年金収入が年約374万円を超えると43万円を引いた所得の合計が210万円を超えるが、383万円未満なら申請で一般(2割)になる
- 【1945年1月1日以前に生まれた人】210万円の特例がなく、課税所得145万円以上なら、収入383万円・520万円の基準で判定される
- 【会社の健康保険の70〜74歳】標準報酬月額28万円以上で3割になり、収入が基準未満なら申請で2割になる
- 【不動産や事業の収入がある人】必要経費を引いた所得が収入に近く、43万円を引いた所得の合計が210万円を超えやすい
1945年1月1日以前に生まれた単身の人で、厚生年金の男性の平均年金と給与がある場合を試算すると、給与が年約211万円で課税所得145万円に届き、収入の合計は約415万円です。383万円以上のため、この時点で3割になります。
協会けんぽ「健康保険高齢受給者基準収入額適用申請書」とその記入の手引きによると、会社の健康保険では、70歳以上の被扶養者がいる場合は合わせて520万円未満、いない場合は383万円未満が基準です。申請は3割の高齢受給者証の交付日から14日以内で、遅れると申請した月の翌月からの適用になります。
※試算の前提:年金だけの単身の人は、東京都大田区で年金以外の収入がない場合。年金収入の約374万円は、公的年金等控除を引いた所得から43万円を引いた額が210万円を超える年金額です。
ここからは、編集者の視点と、まとめを見ていきます。
著者
株式会社モニクルリサーチ メディア編集本部
元・厚生労働省担当記者(社会保障専門紙)
中央大学法学部を卒業後、東証プライム上場IT企業での法人営業を経て、厚生労働省記者クラブに所属する行政・自治体向けの社会保障専門紙記者として活動。
現在は「公的社会保障制度(年金・医療・介護)」の仕組みと、「私的資産形成(NISA・iDeCo)」の税制優遇制度を横断的に分析し、生活者のための家計防衛術を提供する編集者として活動している。
各省庁が公表する難解な一次情報(e-Gov法令検索の条文データや、総務省統計局の家計調査など)を読み解き、現役世代からシニア層までを対象に、事実に基づいた実用的な解説記事を継続的に執筆している。
このほか、専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト『LIMO&ファイナンス』でも情報を発信している。
【経歴・専門性】
前職の専門紙記者時代には、厚生労働省本省および各地方自治体(保険者)を直接取材対象とし、現場の最前線で以下の重要政策の決定プロセスと一次情報に触れてきた。
これらの政策取材を通じ、「制度の複雑化が引き起こす、生活者のサイレントな不利益(申請漏れや制度の不知による経済的損失)」の構造を実務レベルで把握。役所の論理で構築された難解な制度設計を、IT企業時代に培ったデータ分析手法と掛け合わせることで、客観的指標(平均値ではなく中央値を用いた実態把握など)に基づく解説記事を執筆している。
【具体的な実績・保有資格・メディア掲載歴】
公的機関の一次データに依拠した客観的な記事執筆により、Yahoo!ニュース「経済ランキング」において多数の1位を獲得。具体的な執筆・担当領域における実績は以下の通りである。
- 公的年金・給付金領域:日本年金機構の公表資料に基づく「在職老齢年金による支給停止基準」や「年金生活者支援給付金の受給要件」の解説。また、国税庁のガイドラインに沿った定額減税や各種給付金の対象者判定フローの実務的整理。
- 医療・介護保険領域:高額療養費制度などの自己負担限度額の算出方法や、公的保障のセーフティネット範囲の図解解説。
- 資産運用領域:金融庁のNISA特設サイトや、iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)のデータに基づく税制優遇メリットの数値化。特定の金融商品の購入推奨は行わず、公的年金の不足分を補うための長期積立投資の制度整理に特化。
- 貯蓄・家計管理領域:家計調査などの官公庁統計データに基づいた、年代別・世帯年収別の貯蓄実態の論理的解説、およびインフレ時代におけるリスク管理手法の情報提供。
- 保有資格・実務知見:東京商工会議所 ビジネスマネジャー検定試験®合格。上場企業での実務経験と当資格で培った「組織マネジメント」や「コンプライアンス・リスク管理」の視点を個人の家計防衛に転用し、ビジネスパーソンが納得できる論理的な解説の裏付けとしている。
【読者へ提供する価値と発信理念】
「役所の論理ではなく、生活者の視点で制度を翻訳する」ことを発信の基本理念としている。
複雑怪奇な社会保障制度においては、制度を知らないこと自体が直接的な経済的損失に直結する。この情報非対称性を是正し、「知っていれば救われたはずの人が損をする現状をゼロにする」ことが現在の活動における最大のミッションである。
そのため、記事執筆にあたっては個人の主観や推測、投資推奨は避ける。
そのうえで、読者の生活や資産に影響を与える領域であることを自覚し、読者が「国に頼りすぎず、国を賢く利用する」ための正確で安全な判断材料を提供し、生活者とその家族を守るための実用的な知見を届け続けている。