7. 【行政の現場を取材してきた視点】検証:公営住宅の承継は「相続」ではなく、待っている人との公平で線が引かれている
公営住宅は、預貯金や家のように「家族が引き継ぐもの」と考えると、手続きを取り違えやすくなります。公営住宅は、住宅に困っている世帯に低い家賃で貸す住宅で、入居を待っている世帯もいます。国の通知が承継の範囲を配偶者と高齢者・障害者などに絞ったのは、この公平のためです。
そのため、承継の条件は「親子かどうか」よりも、「その人がいま住まいを失うと生活が立ち行かなくなるか」で線が引かれています。60歳以上や障害者手帳の有無、同居の期間、収入の基準が並ぶのはそのためです。
行政の制度を取材してきた立場から見ると、同じ公営住宅法のもとでも、子を対象に入れるかどうかは事業主体によって違う、ということは知っておきたい点です。東京都・西宮市は子なら60歳以上などの条件付きで、大阪府営住宅は子・孫も対象にしています。近所の別の団地でも、都道府県営か市営かで条件が変わります。
試算では、承継が認められずに民間の賃貸住宅へ移ると、家賃は公営の借家と民営借家の平均家賃の差(2023年・全国)で月約2.9万〜4.4万円高くなり、初期費用も約16.9万〜21.2万円かかります。退去までの猶予は6か月〜1年ほどなので、承継できるかどうかを早めに確かめると、次の住まいを探す時間も取りやすくなります。
承継が認められない場合でも、公営住宅の募集にあらためて申し込む方法はあります。ただし、入居は抽選や選考によるため、猶予の期間内に決まるとは限りません。
8. まとめ
公営住宅の名義人が亡くなったとき、同居していた家族が住み続けるには、事業主体の承継の承認が要ります。承継できる範囲は原則として配偶者と高齢者・障害者などで、子の扱いや申請の期限、退去までの猶予は、住んでいる住宅の事業主体によって違います。
名義人が亡くなったら、まずは住んでいる公営住宅の管理者(自治体の住宅の担当課や住宅供給公社)に届け出て、承継できるか、期限はいつかを確かめておきましょう。明け渡しを求められたときの対応などで迷うときは、法テラスに相談する方法もあります。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。承継の条件・期限・家賃は事業主体ごとに異なり、改定されることがあります。実際の手続きは、住んでいる公営住宅の管理者(自治体の住宅の担当課・住宅供給公社)でご確認ください。
参考資料
- e-Gov法令検索「公営住宅法」
- e-Gov法令検索「公営住宅法施行規則」
- 東京都住宅政策本部「使用承継制度(平成19年8月25日から)」
- 西宮市「普通市営住宅における入居承継基準の変更とQ&Aについて」
- 函館市「函館市営住宅における入居承継の承認に関する取扱要綱」
- 大阪府「大阪府営住宅条例施行規則」
- 千葉県「許可・承認を必要とする手続」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果」
- 国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査の結果をとりまとめ」
- 東大阪市「家賃の計算方法」
齊藤 慧