過失10対0の事故で車を壊されたのに、修理代の全額は払えないと言われることがあります。相手の保険会社が示す額が「時価額」までにとどまり、修理代との差が残るケースです。
保険金の案内は、「何を上限に払われるお金か」から読むと整理しやすくなります。ここでは、最高裁判所の判決と保険会社の公表している特約の内容をもとに、時価額が上限になる仕組みと、差額を埋める手段を整理します。
あわせて、修理代と時価額の3つの組み合わせで、相手の特約の有無と自分の車両保険によって、受け取れる額と自己負担がどう変わるかを試算します。
※修理代約33.8万円は、損害保険料率算出機構「自動車保険の概況 2025年度版」第27表の、対物賠償で認定された修理費(2024年度)の1件あたり平均(代車料などの間接損害を除く)をもとにしています。
1. 過失10対0でも修理代は全額出ない?修理代が時価額を超えると、賠償は時価額(と買替えの諸費用)が上限
e-Gov法令検索「民法」の709条は、故意または過失で他人の権利を侵害した人は、それによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。過失10対0の事故で、壊された車の修理代を相手に請求できるのはこの規定によるものです。
ただし、賠償されるのは「事故と相当因果関係のある損害」です。最高裁判所の昭和49年4月15日判決(昭和48年(オ)第349号)は、車が事故によって「物理的又は経済的に修理不能」と認められる状態になったときは、事故当時の車の価格と売却代金との差額を損害として請求できるとしています。
修理代が車の価値を上回る場合は、修理するより同じような車を買い直すほうが安く済むため、「経済的全損」と呼ばれます。この場合、相手が賠償するのは修理代ではなく、時価額(と、認められれば買替えの諸費用)が上限になるのが一般的な扱いです。
- 【修理代が時価額以下】修理代が賠償の対象
- 【修理代が時価額を超える(経済的全損)】時価額(と買替えの諸費用)が上限
三井住友海上火災保険の案内でも、対物賠償保険で支払う対象は、相手の車の時価額までとされています。
2. 時価額はどう決まる?同じ車種・年式・型で、使用状態・走行距離が同程度の車を中古車市場で買う価格
前の章の最高裁判決は、事故当時の中古車の価格について、原則として「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」で決めるべきとしています。
また、税金や会計で使う減価償却(定率法・定額法)で時価額を決めることは、加害者と被害者の双方に異議がないなどの特段の事情がないかぎり許されない、とも述べています。提示された時価額に納得できないときは、同じ条件の車が中古車市場でいくらで売られているかが確かめどころになります。
自動車検査登録情報協会「平均車齢」によると、2026年3月末の乗用車(軽自動車を除く)の平均車齢は9.59年で、32年連続で最も高くなりました。年数がたった車ほど中古車市場の価格は下がりやすく、修理代が時価額を上回る組み合わせも起こりやすくなります。