社会人になった子どもが奨学金を毎月返している姿を見て、残りを親が肩代わりして一括で返そうと考える方もいるかもしれません。子どもの教育のためのお金なのだから、奨学金の肩代わりに贈与税はかからないはず、と思われがちです。

銀行で住宅ローンのご相談をお受けしていた経験からお伝えすると、借入れの名義人は借りたご本人で、誰のお金で返しても、減るのはご本人の借金です。ここでは、奨学金の肩代わりが法律でどう扱われるかを、相続税法と国税庁の通達で確かめます。

あわせて、日本学生支援機構の第一種奨学金の返還例をもとに、返還を始めてからの年数ごとに、残りを一括で返したときの贈与税を試算します。記事後半では、肩代わりを毎年110万円以内に分ける場合の注意点と、連帯保証人の親が払った場合の扱いも確かめます。

※返還額は日本学生支援機構「大学・返還例」の第一種奨学金(私立・自宅通学・4年制)、贈与税は国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」の特例税率をもとにしています。

1. 奨学金を親が肩代わりすると贈与税の対象?子どもの借金を返したことになり、相続税法第8条で贈与とみなされる

奨学金を借りて返す義務を負っているのは、奨学生だった子ども本人です。親が残りを肩代わりして返すと、子どもは自分の借金が減るという利益を、対価を払わずに受けることになります。

相続税法第8条は、対価を支払わないで、第三者による債務の弁済などで利益を受けた場合、その債務の金額に相当する額を、弁済をした人から贈与で受け取ったものとみなすと定めています。

  • 【親が日本学生支援機構に残りを返した場合】子どもの債務が親の弁済で減るため、その額を親から贈与されたとみなす(相続税法第8条)
  • 【親が子どもの口座にお金を入れ、子どもが返した場合】お金そのものを親から贈与されたことになる
  • 【贈与税がかかる人】お金を出した親ではなく、利益を受けた子ども

日本学生支援機構「繰上返還申込み」によると、残りの全額や一部を前倒しで返す繰上返還は、登録している振替口座からの振替で行います。親のお金を使う場合も、登録された振替口座から引き落とされる形になります。

2. 奨学金の肩代わりはなぜ教育費の非課税にあたらない?非課税は「必要な都度直接」充てる教育費に限られる

相続税法第21条の3は、扶養義務者のあいだで生活費や教育費に充てるためにした贈与のうち、通常必要と認められるものは、贈与税の課税価格に入れないと定めています。親子は扶養義務者にあたります。

ただし、非課税になる範囲は、国税庁の相続税法基本通達で次のように示されています。

  • 【教育費の範囲】被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費など。義務教育費に限らない(21の3-4)
  • 【非課税になる渡し方】教育費として必要な都度、直接これらの用に充てるために受け取った財産(21の3-5)
  • 【非課税にならない例】教育費の名目で受け取ったお金を預貯金にしたり、株式や家屋の購入代金に充てたりした場合(21の3-5)

国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」でも、生活費や教育費は必要な都度直接充てるためのものに限られると書かれています。

在学中に親が授業料を払っていれば、教育費として非課税で済んだはずのお金です。一方、奨学金の肩代わりは、学費の支払いが終わったあとで、子どもが負っている借金を返すものです。教育費の名目でも、相続税法第8条の債務の弁済にあたると考えられます。