実家の片付けや相続の手続きのなかで、固定電話の「電話加入権」をどう扱えばよいか迷う方は少なくありません。昔は電話を引くのに7万円以上を払っていたため、解約するのはもったいないと感じる方もいるでしょう。

総務省の最新の集計では、NTT東西の加入電話は2026年6月末で1027万契約と、1年前より8.6%減りました。相続診断士の立場から、ここでは「払ったお金」と「いまの評価」を分けてみていきます。

施設設置負担金は解約で戻るのか、相続税の評価ではいくらとされてきたのかを一次資料で確かめ、基本料と比べた試算も示します。

※1027万契約は、総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(令和8年度第1四半期(6月末))」のNTT東西加入電話(ISDNを含む)の契約数です。
 

※掲載している料金や手続きはNTT東日本の例ですが、NTT西日本でも同様の料金体系・ルールが適用されます。また、2024年1月に固定電話網(PSTN)からIP網への設備切替が完了しており、従来の電話機や番号はそのまま利用可能です。

1. 電話加入権の代金は解約で戻る?施設設置負担金は「初期インフラ費用の負担」であり、解約しても返還されない

電話加入権を買ったつもりで払ったお金は、正確には「施設設置負担金」です。NTT東日本「施設設置負担金の見直しについてのお知らせ」によると、施設設置負担金は回線の建設費用の一部を負担してもらうものです。

同じ資料でNTT東日本は、施設設置負担金を解約時などにも返還していないと説明しています。また、施設設置負担金はNTTが電話加入権の財産的な価値を保証するものではない、としています。

電話加入権とは何かについては、政府も国会の答弁書で触れています。「参議院議員須藤元気君提出固定電話加入権販売時の説明に関する質問に対する答弁書」(2024年3月)では、次のように整理されています。

  • 【電話加入権】約款上、加入電話の提供を受ける権利で、金銭債権とは解されていない
  • 【施設設置負担金の返還】約款で返還が定められているのは、工事が終わる前に契約が解除された場合

つまり、電話加入権は「お金を預けている権利」ではなく、「電話を使える権利」です。固定電話を解約しても、払った施設設置負担金が戻ってくる仕組みにはなっていません。

2. 電話加入権は相続でいくらと評価される?国の目安は2014年から1回線1500円、2021年からは目安そのものがなくなった

電話加入権は相続財産の一つです。国税庁「『財産評価基本通達の一部改正について』通達のあらましについて(情報)」によると、取引相場のない電話加入権は、かつて国税局長が電話取扱局ごとに定める「標準価額」で評価していました。

その標準価額は、2014年(平成26年)以降、1回線あたり1500円でした。国税庁は同じ資料で、電話加入権の取引相場が存在していないこと、標準価額が非常に低い金額になっていることなどを理由に、標準価額を定める必要性が乏しくなったと説明しています。

国税庁「電話加入権の評価」(質疑応答事例)によると、2021年1月1日以後に相続などで取得した電話加入権の評価は、次のとおりです。

  • 【評価の方法】売買実例価額、精通者意見価格などを参考にして評価する
  • 【申告のとき】家財道具などと一括して評価する「家庭用財産」に、電話加入権を含めてよい

電話加入権だけを取り出して、昔払った金額で財産に計上する必要はない、ということです。

3. 電話加入権の価値を数字で比べると?払った7万2000円に対し、国の評価の目安1500円は約2%

施設設置負担金は時期によって金額が変わっています。NTT東日本の資料と料金表、国税庁の資料から、電話加入権にかかわる金額を並べると次のとおりです。

  • 【2005年3月の見直し前の施設設置負担金】7万2000円(税込7万5600円)
  • 【2005年3月からの施設設置負担金】3万6000円(税込3万7800円)
  • 【いまNTT東日本で加入電話を新しく引く場合】3万9600円(税込)
  • 【相続税の評価で国が示していた目安(2014〜2020年)】1回線1500円

7万2000円を払った電話加入権でも、国の評価の目安は約2%にあたる1500円でした。2005年3月以降の3万6000円と比べても、約4%です。

※試算の前提:施設設置負担金は加入電話(単独電話)の1契約あたりの額。7万2000円・3万6000円は税抜の額で、割合は税抜の額をもとに計算しています。

4. 電話加入権を残すと費用はかかる?使わない回線の基本料は約3年で約7万1000円

電話加入権を「もったいない」と残しておく場合、使っていなくても毎月の基本料がかかります。NTT東日本「毎月の基本料金」によると、住宅用の加入電話(プッシュ回線用)の回線使用料は、1級取扱所と2級取扱所で月1980円、3級取扱所で月2090円です。

  • 【1年間】月1980円なら約2万4000円、月2090円なら約2万5000円
  • 【3年間】月1980円なら約7万1000円

月1980円の回線を使わずに3年残すと、基本料の合計は約7万1000円です。施設設置負担金は解約時にも返還していないと説明しています。

※試算の前提:NTT東日本の住宅用の加入電話(プッシュ回線用)の回線使用料(税込)。電話ユニバーサルサービス料などは含みません。

5. 固定電話を使わなくなったら電話加入権はどうする?解約・利用休止・承継の3つ

固定電話を使わなくなったときや、契約者が亡くなったときの扱いは、主に次の3つです。

  • 【解約】契約が終わり、電話加入権もなくなる。施設設置負担金は戻らない
  • 【利用休止】電話の権利を5年間預ける。期間中は回線使用料がかからない
  • 【承継(名義変更)】契約者が亡くなったとき、家族などが契約を引き継ぐ

NTT東日本「電話等の『利用休止のお知らせ』は大切に保管ください」(2009年)によると、利用休止の期間は申し出により5年単位で更新できます。更新や再取り付けの申し出がないまま、さらに5年たつと契約は解除されたものとして扱われます。再び取り付けるときは工事費がかかり、原則として電話番号も変わります。

なお、施設設置負担金を払わずに基本料へ上乗せする「加入電話・ライトプラン」には、利用休止の扱いがありません。

承継は、NTT東日本「電話回線の契約者が亡くなったため、名義を変更したいのですが、どのような手続が必要でしょうか?」によると、Webか郵送で申し込みます。死亡診断書または戸籍謄本のコピーと、新しい契約者の本人確認書類が必要です。

6. 検証:電話加入権は「財産」より「手続き」として見る

電話加入権には、性質の違う3つの金額が重なっています。昔払った施設設置負担金、相続税の評価、そして毎月の基本料です。7万円以上払ったという記憶は、このうち1つ目の金額だけを見ているように思います。

払った施設設置負担金は解約しても戻らず、国の評価の目安も1500円まで下がっていました。電話加入権を財産として残すかどうかで悩むより、固定電話をこれからも使うかどうかで決めるほうが、判断を誤りにくいでしょう。

相続の場面では、電話加入権は家財道具と一緒に家庭用財産として扱えます。そのため、気をつけたいのは評価額よりも、名義と基本料の行方です。解約か承継の手続きをしない限り回線の契約は続き、使っていなくても基本料がかかります。

実家の固定電話は、親族や近所の方が連絡に使っていることもあります。すぐに解約するか迷うときは、承継していったん名義を整え、使い道を家族で話し合ってから決めるのも一つの方法です。

相続税の申告が必要になる場合、財産の評価は税務署や税理士に確かめていただくのが確かです。電話加入権は小さな金額ですが、手続きを後回しにしやすいものなので、相続の手続きの一覧に加えておくとよいように思います。

7. まとめ

電話加入権のために払った施設設置負担金は、通信設備を整備するための費用負担という位置づけであり、固定電話を解約しても返還されません。相続税の評価でも、国の目安は2014年から1回線1500円で、2021年からは目安そのものがなくなりました。

使わない回線を残すと、住宅用の基本料だけで約3年で約7万1000円になり、昔払った7万2000円とほぼ同じ額です。固定電話を使うかどうかで解約・利用休止・承継を選び、相続の手続きの一覧にも入れておきましょう。

※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。料金や手続きは契約の内容や地域、改定などにより異なります。具体的な料金や手続きはNTT東日本・NTT西日本に、相続税の評価や申告は税務署や税理士にご確認ください。

参考資料

池上 翠