会社の退職金とiDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金は、どちらも「退職所得」として税金を計算します。受け取る年をずらすと税金が軽くなる、という話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
ただし、2026年1月からは、iDeCoの一時金を先に受け取ったときの調整のルールが変わりました。元公務員として国民健康保険を担当していた経験からお伝えすると、受け取り方は税金だけでなく、退職後の保険料にも関わります。ここでは、退職金が平均的な金額の会社員を例に、60歳と65歳で退職する場合の受け取り方ごとの税金を比べます。
試算するのは、同じ年に両方を一時金で受け取る場合と、年をずらして受け取る場合の所得税・住民税です。
※退職金1822万円は、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で、退職一時金制度のみの企業の勤続35年以上の定年退職者の平均退職給付額です。iDeCoの552万円は、企業年金のない会社員の掛金の上限(月2.3万円)で20年間積み立てた元本です。
1. 2026年1月から何が変わった?iDeCoの一時金を先に受け取ると、9年内の退職金は控除が調整される
財務省「令和7年度税制改正の大綱」によると、退職金を受け取る年の前年以前9年内にiDeCoなどの老齢一時金を受け取っている場合、退職所得控除の計算で勤続期間の重なりを差し引く特例の対象になります。改正前は「前年以前4年内」でした。
この改正は、2026年1月1日以後に老齢一時金を受け取った場合で、同日以後に受け取る退職金に適用されます。
- 【改正前】iDeCoの一時金を受け取った年から5年以上あけて退職金を受け取れば、控除の調整はなし
- 【2026年1月から】iDeCoの一時金を受け取った年から10年以上あけないと、退職金の控除が調整される
iDeCoの一時金は、原則として60歳から75歳までの間に受け取ります。60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る「5年ずらし」は、2026年からは調整の対象です。
退職所得控除は、勤続20年以下なら1年40万円(最低80万円)、20年を超えると800万円に、20年を超えた1年ごとに70万円を足した額です。iDeCoでは、加入していた期間を勤続年数として数えます。
2. 60歳定年で同じ年に受け取ると?退職金1822万円とiDeCo552万円なら税金は約24万円
同じ年に退職金とiDeCoの一時金を受け取ると、2つを合わせた金額から退職所得控除を差し引きます。勤続期間が重なっている場合、勤続年数は長い方の期間で数え、2つを足すことはしません。
- 【受け取る合計】約2374万円(退職金1822万円+iDeCo552万円)
- 【退職所得控除】2060万円(勤続38年)
- 【課税される退職所得】約157万円(控除を超えた約314万円の2分の1)
- 【税金】約24万円(所得税・復興特別所得税 約8万円、住民税 約16万円)
退職金だけなら控除の2060万円に収まるため、税金はかかりません。iDeCoを足すと控除を約314万円超え、その2分の1に税金がかかります。
※試算の前提:22歳で入社して60歳で定年退職(勤続38年)。iDeCoには40歳から60歳まで20年間加入し、加入期間はすべて会社の勤続期間と重なる。iDeCoの運用益はないものとし、ほかの所得や控除は考えない。
3. 65歳で退職なら?60歳でiDeCo・65歳で退職金の順では約16万円、同じ年なら0円
65歳まで勤めて退職金を受け取る場合(勤続43年)、退職所得控除は2410万円です。受け取り方によって、税金は次のように変わります。
- 【65歳で同じ年に両方を受け取る】0円(合計約2374万円が控除の2410万円に収まる)
- 【60歳でiDeCo、65歳で退職金(2026年からのルール)】約16万円
- 【60歳でiDeCo、65歳で退職金(改正前のルール)】0円
2026年からのルールでは、iDeCoの加入期間20年分の控除(800万円)が、65歳で受け取る退職金の控除から差し引かれます。退職金の控除は1610万円になり、退職金1822万円との差の約212万円の2分の1、約106万円に税金がかかります。
iDeCo側は控除800万円の範囲内で税金はかかりません。それでも合計では、同じ年に受け取るより約16万円多くなります。
※試算の前提:22歳で入社して65歳で退職(勤続43年)。退職金は60歳定年の場合と同じ1822万円、iDeCoの条件も同じ。税金は所得税・復興特別所得税と住民税の合計。
例)退職金1822万円・iDeCo552万円の会社員の場合 受け取り方別の税金(2026年1月から)1/1
出所:財務省「令和7年度税制改正の大綱」、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」、国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」をもとにLIMO編集部作成
受け取る年をずらすかどうかで、65歳退職の例では税金が0円にも約16万円にもなります。iDeCoの一時金を先に受け取るなら、2026年からの「9年内」の調整を前提に考える必要があります。
ここからは、退職金を先に受け取る場合の調整と、受け取り方を決める前に確かめたい点を見ていきます。