発達障害の診断を受けて、障害年金は自分の場合も対象になるのか、働いていると難しいのかと迷う方もいると考えられます。令和8年4月分からの障害基礎年金は、2級が年84万7300円、1級が年105万9125円です(昭和31年4月2日以後生まれ)。
ただ発達障害では、診断名ではなく、診断書に書かれる日常生活の制限の程度で等級の目安が決まります。
日本年金機構の障害認定基準と厚生労働省のガイドライン、令和6年度の調査報告書をもとに整理します。個別の判断は年金事務所で確認してください。
1. 発達障害は障害年金の対象になるが、等級は診断名でなく日常生活の制限で決まる
認定基準は、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義しています。
認定で見るのは診断名ではありません。「たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けること」に着目して認定する、と書かれています。
等級の例示は、1級が「常時援助を必要とする」状態、2級が「日常生活への適応にあたって援助が必要」な状態、3級が「労働が著しい制限を受ける」状態です。
2. 初診日の時期で年金の種類が分かれ、障害基礎年金に3級はない
初診日が20歳前、または国民年金の加入期間にあれば障害基礎年金(1級・2級)、厚生年金の加入期間にあれば障害厚生年金(1級〜3級)です。20歳前に初診日がある場合は、保険料の納付要件は不要です。
知的障害を伴わない発達障害では、初めて受診した日が20歳以降なら、その受診日が初診日になります(認定基準)。大人になってから診断を受けた人も、その受診日が厚生年金の加入期間にあれば、障害厚生年金の対象です。障害認定日の考え方は、初診日から1年6か月待たないと請求できない?「原則」と「例外」障害認定日による請求・事後重症による請求の違いを整理した記事で確認できます。
障害厚生年金の3級の最低保障額は63万5500円です(令和8年4月分から)。障害基礎年金の等級は1級と2級だけで、ガイドラインは目安表の「3級」を、障害基礎年金では「2級非該当」と置き換えると定めています。
3. 等級の目安は、診断書の「判定」7項目の平均と「程度」で引く
診断書の「日常生活能力の判定」は、食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、意思伝達と対人関係、安全保持と危機対応、社会性の7場面を、単身で生活するとしたら可能かどうかで評価します。
各項目は4段階(「できる」から「助言や指導をしてもできない若しくは行わない」まで)で、軽い方から1〜4に置き換えて平均を出します。もう1つの「日常生活能力の程度」は5段階の全体評価で、記載要領は「精神障害」か「知的障害」のどちらかの文言を使うとしています。発達障害専用の欄はありません。
4. 目安表の「2級又は3級」の帯に入ると、障害基礎年金は2級か非該当か
ガイドラインの表1は、「程度」と「判定平均」の組み合わせで等級の目安を示します。次の表は、程度が(3)から(5)の列です。
等級の目安(程度と判定平均の組み合わせ)
| 判定平均 | 程度が(3) | 程度が(4) | 程度が(5) |
|---|---|---|---|
| 3.5以上 | - | (4)1級又は2級 | (5)1級 |
| 3.0以上3.5未満 | (3)2級 | (4)2級 | (5)1級又は2級 |
| 2.5以上3.0未満 | (3)2級又は3級 | (4)2級 | - |
| 2.0以上2.5未満 | (3)2級又は3級 | (4)2級 | - |
| 1.5以上2.0未満 | (3)3級 | - | - |
出所:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施等について」の表1などを基にLIMO編集部作成
4.1 【等級の目安(程度と判定平均の組み合わせ)】
判定平均が高い順(目安の記載がない欄は省略)
- 判定平均3.5以上:(4)1級又は2級、(5)1級
- 判定平均3.0以上3.5未満:(3)2級、(4)2級、(5)1級又は2級
- 判定平均2.5以上3.0未満:(3)2級又は3級、(4)2級
- 判定平均2.0以上2.5未満:(3)2級又は3級、(4)2級
- 判定平均1.5以上2.0未満:(3)3級
程度が(3)で判定平均が2.0以上3.0未満なら目安は「2級又は3級」で、障害基礎年金では2級か2級非該当のどちらかです。ガイドラインは、目安が複数の等級にまたがるときは慎重に判定するとし、目安と異なる等級になることもあり得ると書いています。
5. 【編集者の視点】
「2級又は3級」の帯が広く、驚いた方もいると思います。ただ表1は総合評価の参考で、診断書の他の記載も合わせて見られます。審査の側から見えるのは、診断書や病歴・就労状況等申立書に載った内容だけです。
診察の前に、7場面を「単身で暮らすとしたらどうか」で書き出しておくと、医師に具体的に伝えられます。家族が担っている場面や、声かけがないと止まる場面は、頻度も添えてください。支援が常態化した環境でも、単身で必要となる支援を考慮するとガイドラインに書かれています。
成育歴や教育歴、感覚過敏、仕事の内容と受けている援助も、ガイドラインが考慮要素に挙げています。
6. 合計点に直すと、平均の境界は11点・14点・18点・21点・25点
判定は7項目で各1〜4です。1項目が1段階変わると、平均は約0.14動きます(編集部試算)。平均3.0以上は合計21点以上で、7項目すべてが「助言や指導があればできる」(3)以上の評価です。
判定平均の境界に届く7項目の合計点
| 判定平均の境界 | 届く合計点 | 1点下の合計点の平均 |
|---|---|---|
| 3.5以上 | 25点以上 | 24点は約3.43 |
| 3.0以上 | 21点以上 | 20点は約2.86 |
| 2.5以上 | 18点以上 | 17点は約2.43 |
| 2.0以上 | 14点以上 | 13点は約1.86 |
| 1.5以上 | 11点以上 | 10点は約1.43 |
出所:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施等について」の表1などを基にLIMO編集部試算
6.1 【判定平均の境界に届く7項目の合計点】
境界ごとの合計点と、1点下の平均
- 3.5以上:25点以上(24点は約3.43)
- 3.0以上:21点以上(20点は約2.86)
- 2.5以上:18点以上(17点は約2.43)
- 2.0以上:14点以上(13点は約1.86)
- 1.5以上:11点以上(10点は約1.43)
7. 令和6年度の調査では、精神障害の不支給の75.3%が目安より下位か2等級にまたがる帯だった
厚生労働省年金局の調査(令和7年6月11日公表)は、令和6年度に決定した新規裁定から1000件を無作為に抽出しています。精神障害の診断書703件のうち85件(12.1%)が等級非該当で、令和5年度の6.4%から上がりました。区分は精神障害、外部障害、内部障害で、発達障害だけの数字は出ていません。
精神障害の不支給85件を、障害等級の目安との関係で分けると、次のとおりです。
- 目安より下位等級に認定され不支給:32件
- 目安が2つの等級にまたがるもの(「2級又は3級」など)で下位等級に認定され不支給:32件
- 目安どおりの不支給:11件
- その他(てんかんなど):10件
上の2つを合わせると64件で、85件の75.3%です。標本の精神障害全体の数字で、全件の統計ではありません。
8. 【編集者の視点】
75.3%を見て不安になる方もいると思います。ただ、発達障害に絞った数字ではありません。見出しの数字を自分の状況にそのまま重ねて読むことは、避けたいところです。
読み取れるのは、機構が目安を審査の軸にしていることと、2等級にまたがる帯で下位に寄った認定が多かったことです。ガイドラインは、「程度」と「判定平均」の整合性が低いときは、診断書を作成した医師に内容を確認するとしています。診察で、7場面の評価と全体の程度が同じ暮らしを指しているか、医師と確認しておくことは、取りやすい備えです。
不支給や等級に納得できないときの手続きは、年金事務所や街角の年金相談センターで確認してください。
※本記事は、編集部が日本年金機構と厚生労働省が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 発達障害は対象ですが、診断名では決まらず、日常生活の制限の程度で認定されます
- 知的障害を伴わない場合、初めて受診した日が20歳以降なら、その受診日が初診日です
- 障害基礎年金に3級はなく、目安の「3級」は「2級非該当」に置き換わります
- 判定平均3.0以上は合計21点以上、2.5以上は18点以上、2.0以上は14点以上です
等級の目安は、診断書の数字がすべてを決める仕組みではなく、他の記載とあわせて総合的に見られる参考値です。
診察の前に、単身で生活するとしたらという視点で7場面を書き出しておく。それが次の一歩です。受給の可否や等級は個別の事情で変わるため、年金事務所や街角の年金相談センターで確認してください。
10. 働いている場合も、労働していること自体で日常生活能力が高いとは見なされない
認定基準は、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず」、仕事の種類、内容、受けている援助、他の従業員との意思疎通の状況などを確認して判断するとしています。
ガイドラインの表2は、一般企業(障害者雇用制度を含む)でも、保護的な環境での単純反復業務や、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討するとしています。ただ、例示だけが2級の条件ではなく、複数当てはまっても一律に上位等級にはなりません。就労と受給の関係は、障害年金は「働くと受け取れない」は誤解? 就労時の認定・所得制限・税金の注意点を公的資料で整理した記事でも解説しています。
11. 20歳前の傷病は、前年所得が491万8000円を超えると全額停止になる
令和8年10月は、この支給の判定期間が切り替わる月です。
日本年金機構のページによると、20歳前の傷病による障害基礎年金は、前年の所得額が491万8000円を超えると全額、385万8000円を超えると2分の1が支給停止になります。扶養親族がいる場合は、1人につき38万円が加算されます。
前年所得に基づく支給対象期間は10月分から翌年9月分までで、毎年10月に切り替わります。
12. 【編集者の視点】
診断名がついたのに、それだけでは決まらないと言われると、拍子抜けする方もいるはずです。決め手は、診断書に書かれる日々の暮らしの具体的な中身です。診察の前の整理は、いまの暮らしをそのまま伝えるための準備です。
大人になってから診断を受けた方は、初診日の扱いで引っかかると思います。長く困りごとを抱えてきた時間が、制度の上では初めて受診した日から数えられます。働けているのに支援は要る、その両方が成り立つ状況を、認定基準は見ようとしています。
13. よくある質問
13.1 Q. 障害者手帳がないと請求できませんか?
A. 日本年金機構のページが障害基礎年金の受給要件として示しているのは、初診日、障害の程度、保険料納付要件の3つです。療育手帳は、知的障害を伴う発達障害の場合に、ガイドラインが総合評価で考慮する要素の1つとして挙げています。手帳がない場合の扱いは、窓口で確認してください。
13.2 Q. 大人になってから診断を受けた場合も請求できますか?
A. 知的障害を伴わない場合、初めて受診した日が20歳以降なら、その受診日が初診日です。青年期以降に判明した発達障害は、幼少期の状況や特別支援教育に相当する支援の教育歴が考慮されると、ガイドラインに書かれています。
参考資料
- 日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第8節 精神の障害」(令和4年4月1日改正版)
- 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施等について」(平成28年7月15日)
- 日本年金機構「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」
- 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
- 日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」(2026年10月1日更新)
- 厚生労働省年金局「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」(令和7年6月11日)
齊藤 慧