厚生労働省が令和8年7月15日に公表した令和7年度の「過労死等の労災補償状況」によると、仕事によるストレスが原因の精神障害での労災請求は4958件で、前年度より1178件増えました。支給決定は1082件で、前年度より26件の増加です。

請求が増える中で、「もし自分が適応障害と診断されて、仕事が原因だと思ったら、労災は認められるのか」と気になる方もいるでしょう。別添資料の認定率は28.2%ですが、この割合は、請求した人のうち認められた人の割合ではありません。

この記事では、前半でこの疑問に、厚生労働省の公表資料(2026年10月時点)と編集部の試算で答えます。後半では、答えの前提になる認定の要件、強い心理的負荷の判断、認定事例、請求の相談先を整理します。認定は個別の事情で判断されるため、具体的な案件は、労働基準監督署に相談してください。

1. 残業が月20時間もなくても、適応障害は労災になるの?認定率28%は低すぎる?

「上司に毎日きつく叱られて、朝になると動悸がして、適応障害と診断されました。残業は月に20時間もありません。それでも労災になるものでしょうか。認定率が28%と聞いて、申請しても無駄に終わりそうで、夜も考え込んでしまいます」。

この疑問は、一人の事情に見えますが、同じ思いを抱える人は少なくありません。厚生労働省の令和7年度の状況では、精神障害の労災請求は4958件で、前年度より1178件増えました。同じ仕組みは、仕事のストレスで不調になった人にも当てはまりえます。

結論から言うと、認められるかどうかは、個別の事情を調べた上で労働基準監督署が判断します。そのため、厚生労働省の資料から「認められる」「認められない」と断言することはできません。

ただし、判断の物差しは公表されていて、統計から分かることもあります。答えを3点にまとめると、次のとおりです。

  • 認定率28.2%は、請求した人が認められる確率ではありません。5年累計で見ても、支給決定は請求の約25.1%、決定の約31.5%です(編集部試算)
  • 認定は、診断名だけでなく、発病前おおむね6か月の業務による強い心理的負荷などの3要件で判断されます
  • 時間外労働が少なくても、支給決定になっている件数があります。令和7年度は、時間外労働が「20時間未満」の件数が最も多くなっています

以下、1点ずつ確認します。

2. 令和7年度の精神障害の労災請求は4958件、支給決定は1082件。認定率は28.2%

厚生労働省の報道発表資料によると、業務災害に係る精神障害の請求件数は4958件で、前年度比1178件の増加です。うち、未遂を含む自殺の件数は215件で、前年度比13件の増加です。

支給決定件数は1082件で、前年度比26件の増加です。うち、未遂を含む自殺の件数は76件で、前年度比12件の減少です。支給決定件数は、その年度中に「業務災害」または「複数業務要因災害」と認定した件数で、前年度以前に請求があったものを含みます。

別添資料2の表2-1には、令和3年度から令和7年度までの推移が載っています。認定率は、決定件数に占める支給決定件数の割合と定義されています。令和7年度は、決定件数3839件に対して、支給決定件数が1082件で、認定率は28.2%です。

編集部の試算では、請求件数は令和3年度の2346件から令和7年度の4958件へ、約2.1倍に増えました。支給決定件数は629件から1082件へ、約1.7倍です。認定率は32.2%から28.2%へ、4.0ポイント下がっています。請求の増え方が、支給決定の増え方より大きい形です。

2.1 【精神障害の労災請求・決定・支給決定件数と認定率の推移(令和3年度から令和7年度)】

前提条件:厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」別添資料2の表2-1による。業務災害に係る精神障害の件数。決定件数は前年度以前に請求されたものを含む。認定率は決定件数に占める支給決定件数の割合1/2

前提条件:厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」別添資料2の表2-1による。業務災害に係る精神障害の件数。決定件数は前年度以前に請求されたものを含む。認定率は決定件数に占める支給決定件数の割合

出所:厚生労働省「業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況」(令和7年度)

  • 令和3年度:請求2346件、決定1953件、支給決定629件、認定率32.2%です。
  • 令和4年度:請求2683件、決定1986件、支給決定710件、認定率35.8%です。
  • 令和5年度:請求3575件、決定2583件、支給決定883件、認定率34.2%です。
  • 令和6年度:請求3780件、決定3496件、支給決定1056件、認定率30.2%です。
  • 令和7年度:請求4958件、決定3839件、支給決定1082件、認定率28.2%です。

3. 5年累計で見ると、支給決定は請求の約25.1%、決定の約31.5%(編集部試算)

認定率は、その年度に決定された件数が分母で、同じ年度の請求とは対応していません。そこで編集部は、令和3年度から令和7年度の5年分を合計して、比率を試算しました。

5年累計では、請求が17342件、決定が13857件、支給決定が4360件です。支給決定は、請求の約25.1%(4360÷17342)、決定の約31.5%(4360÷13857)にあたります。

この比率も、認められる確率ではありません。請求と決定の差は3485件ありますが、その内訳は、資料から確認できませんでした。決定が翌年度以降になった分なども含まれるとみられますが、確かなことは言えません。

読み取れるのは、請求の件数が増える中で、決定された件数のうち支給決定になった割合が、3割前後だということです。ご自身の請求が認められるかどうかは、件数からは分かりません。

4. 適応障害の労災認定はどう判断される?4つの場合を認定基準で確認

ここからは、読者の方が気にしそうな4つの「もし」を、厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」と統計で確認します。いずれも、認められるかどうかを予測するものではありません。

4.1 【認定基準と統計ではどうなるか(4つの場合)】

前提条件:厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」(令和5年9月改正の認定基準)と、令和7年度「過労死等の労災補償状況」の報道発表資料による。いずれも、認められるかどうかを予測するものではない2/2

前提条件:厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」(令和5年9月改正の認定基準)と、令和7年度「過労死等の労災補償状況」の報道発表資料による。いずれも、認められるかどうかを予測するものではない

出所:厚生労働省「精神障害の労災認定」、厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」

  • 発病直前の連続した3か月間、毎月おおむね100時間以上の時間外労働があったら:パンフレットで、心理的負荷が「強」になる例に挙げられています。ただし、対象となる精神障害の発病や、業務以外の負荷や個体側要因も、あわせて判断されます。
  • 時間外労働が月20時間未満だったら:「強」になる例の数字には届きません。ただし、令和7年度の支給決定は、時間外労働が「20時間未満」の件数が57件で最も多く、出来事の内容や状況の全体で評価されます。
  • 私生活でも離婚や身内の不幸などの出来事が重なっていたら:別表2で業務以外の心理的負荷も評価され、どれが発病の原因かを慎重に判断します。私生活の出来事があるだけで、認められないわけではありません。
  • 会社が事業主の証明を拒否したら:事業主証明が得られなくても、労災請求はできます。最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署に相談します。

適応障害の場合は、パンフレットの認定事例に、「適応障害」と診断された人の例が載っていて、「対象疾病に該当する」と書かれています。ただし、個別の診断が認定基準の対象に当たるかどうかは、主治医に確認してください。

ここからは、この答えの前提になる制度を順に確認します。令和7年度の出来事別の件数、認定の3要件、強い心理的負荷の判断、認定事例、請求の相談先の順です。

齊藤 慧
仕事でつらい思いをされている方にとって、認定率という数字は、気持ちが重くなるものかもしれません。ただ、この数字は、ご自身の状況が認められるかどうかを示すものではありません。まずは、体調を最優先にして、必要なときは、医療機関や相談窓口に、早めに相談してみてください。

5. 支給決定の出来事で多いのは、パワーハラスメントの222件。長時間労働だけが認定の理由ではない

厚生労働省の報道発表資料には、令和7年度の精神障害の支給決定件数を、出来事別に見た傾向が載っています。最も多いのは、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の222件です。

次いで、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」が、いずれも127件です。「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」は、113件でした。

時間外労働時間別の支給決定件数では、「20時間未満」が57件で最も多く、次いで「40時間以上60時間未満」が55件です。長時間の時間外労働がなくても、支給決定に至っている件数が多いことが、統計から分かります。

業種別(大分類)では、請求件数は「医療、福祉」が1288件、「製造業」が720件、「卸売業、小売業」が645件の順に多いです。支給決定件数は、「医療、福祉」が292件、「製造業」が158件、「卸売業、小売業」が116件の順です。

6. 労災と認められる3つの要件。発病前おおむね6か月の業務による強い心理的負荷が軸

厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」によると、認定基準は「心理的負荷による精神障害の認定基準」で、令和5年9月に改正されました。認定要件は、次の3つです。

1つ目は、認定基準の対象となる精神障害を発病していることです。2つ目は、その発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることです。3つ目は、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことです。

パンフレットは、精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限る、としています。仕事のストレスが強かった場合でも、私生活のストレスが強かったり、重度のアルコール依存のようなストレスへの反応しやすさに顕著なものがある場合は、どれが発病の原因なのかを、医学的に慎重に判断します。

「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、業務による具体的な出来事があり、その出来事と出来事後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。判断は、労働基準監督署の調査に基づいて行われます。

7. 対象になる精神障害は、ICD-10の分類で決まる。うつ病や適応障害の認定事例もある

認定基準の対象となる精神障害は、疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改訂版(ICD-10)第Ⅴ章の「精神及び行動の障害」に分類される精神障害です。ただし、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)と、アルコールや薬物による障害(F1)は除かれます。

パンフレットには、業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)などである、と書かれています。F3は気分[感情]障害、F4は神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害です。

パンフレットの労災認定事例には、「適応障害」と診断された人の例と、「うつ病」と診断された人の例が載っていて、いずれも「対象疾病に該当する」と書かれています。診断名が、認定基準の対象に当たるかどうかは、主治医の診断をもとに判断されます。

診断名や分類コードについては、主治医に確認してください。認定基準の対象に当たるかどうかの最終的な判断は、労働基準監督署が行います。

8. 強い心理的負荷かどうかは、「同種の労働者」が一般的にどう受け止めるかで評価される

パンフレットによると、心理的負荷の強度は、精神障害を発病した本人が、その出来事を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。同種の労働者とは、発病した労働者と、職種、職場での立場や職責、年齢、経験などが類似する人です。

評価の手順は、次のとおりです。別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があれば、総合評価は「強」になります。該当する出来事がない場合は、別表1の「具体的出来事」に当てはめ、出来事と出来事後の状況の全体を検討して、「強」「中」「弱」と評価します。

出来事が複数ある場合は、関連して生じたものは全体を1つの出来事として評価します。関連しない出来事が複数ある場合は、出来事の近接の程度、発病との時間的な近接の程度、継続期間、内容、数などを考慮して、全体を総合的に評価します。

心理的負荷の評価期間は、発病前おおむね6か月です。ただし、ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものは、一体のものとして評価されます。発病の6か月よりも前に始まり、発病まで継続していたときは、それが始まった時点からの心理的負荷を評価する、とされています。

パワーハラスメントについては、別表1の「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」で評価されます。「強」になる例として、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない、または業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃を、反復・継続して執拗に受けた場合などが挙げられています。

8.1 【長時間労働で心理的負荷が「強」になる例(認定基準のパンフレット)】

  • 特別な出来事(極度の長時間労働):発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働を行った場合です。
  • 特別な出来事(極度の長時間労働):1か月に満たない期間でこれと同程度(例えば発病直前の3週間におおむね120時間以上)の時間外労働を行った場合です。
  • 具体的出来事「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」:発病直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合です。
  • 具体的出来事「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」:発病直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合です。
  • 具体的出来事「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」:仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(おおむね倍以上に増加し1か月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況で、業務に多大な労力を費やした場合です。
齊藤 慧
時間外労働の時間が表の数字に届かないと、自分は対象にならないと感じてしまう方もいらっしゃると思います。ただ、この表は、あくまで「強」になる例です。出来事や状況の全体で判断されるため、数字だけで諦めずに、一度、労働基準監督署に相談してみてください。

9. 【編集者の視点】

認定の仕組みを読むと、時間外労働の時間だけでなく、出来事の中身が、大きく関わっていることが分かります。統計でも、支給決定の出来事として最も多いのは、長時間労働ではなく、パワーハラスメントでした。数字に届くかどうかだけで、判断できる制度ではありません。

一方で、認定率が28.2%という数字は、請求した人にとって、厳しい数字に見えるかもしれません。ただし、認定率の分母は、その年度に決定された件数で、請求した人の数ではありません。数字の意味を正しく読むことが、不安を減らす第一歩だと、編集部は考えます。

また、認定は、個別の事情で判断されます。この記事の内容は、あくまで一般的な枠組みで、ご自身のケースが認定されるかどうかを、予測するものではありません。迷ったときは、労働基準監督署か、都道府県労働局に、相談してください。

10. 認定事例:上司からのパワーハラスメントによるうつ病と、新規事業の担当による適応障害

パンフレットには、2つの認定事例が載っています。1つ目は、係長に昇格した人が、新しい部署の上司から、連日のように叱責を受けた事例です。「辞めてしまえ」「死ね」といった発言や、書類を投げつける行為が、度々あった、とされています。

昇格から3か月後に、抑うつ気分や睡眠障害が生じて、精神科で「うつ病」と診断されました。上司の言動には、人格や人間性を否定するものが含まれ、執拗に行われていたため、心理的負荷は「強」と判断されました。業務以外の負荷や個体側要因に顕著なものはなく、労災認定されています。

2つ目は、設計技師が、プロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発を担当した事例です。会社からの特段の支援がないまま、1か月当たりの時間外労働が90時間から120時間で推移した、とされています。

約4か月後に、抑うつ気分や食欲低下が生じて、「適応障害」と診断されました。新規事業の担当になったことは、心理的負荷「中」の例に当たりますが、その後に恒常的長時間労働が認められるため、総合評価は「強」とされ、労災認定されています。

この2つは、厚生労働省が示した事例です。実際の認定は、個別の事情で判断されるため、同じ状況でも、結論が同じになるとは限りません。事例は、判断の考え方を知るための参考として、読んでください。

11. 業務以外の心理的負荷や、個体側要因も、あわせて見られる

認定要件の3つ目は、業務以外の心理的負荷や、個体側要因により発病したとは認められないことです。パンフレットの別表2「業務以外の心理的負荷評価表」には、自分の出来事、家族・親族の出来事、金銭関係、事件・事故・災害の体験などの項目があります。

たとえば、離婚や配偶者との別居、配偶者や子供、親、兄弟姉妹の死亡、収入の減少、借金返済の遅れなどが、項目として載っています。心理的負荷の強度は、別表1と同程度の3段階で評価されます。

強度が「Ⅲ」に該当する出来事が複数ある場合などは、それが発病の原因といえるかどうかを、慎重に判断する、とされています。個体側要因は、精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがある場合に、その内容を確認し、顕著な個体側要因があるときは、それが発病の原因といえるかを、慎重に判断します。

つまり、仕事の負荷が強くても、私生活での出来事が重なっている場合は、どちらが原因なのかを、慎重に調べる、という仕組みです。私生活の出来事があるだけで、労災が認められないというわけではありません。

12. 請求は、事業主の証明が得られなくてもできる。相談先は労働局・労働基準監督署

パンフレットの表紙には、労災請求には所定の請求書の提出が必要で、請求書には事業主の証明欄がある、と書かれています。一方で、働いていた会社が廃止されている場合や、会社が事業主証明を拒否するなど、事業主証明が得られない場合でも、労災請求はできる、とされています。

その場合は、最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署に相談するよう、案内されています。パンフレットの裏表紙には、都道府県労働局の電話番号と所在地の一覧と、請求書のダウンロードページが載っています。

この記事では、認定の考え方に絞って整理しました。請求の前に、どの様式が必要か、事業主の証明をどう扱うかは、労働基準監督署で確認してください。

相談のときに、どのような資料があると判断の助けになるかは、労働基準監督署に確認してください。通院の記録や、勤務の状況が分かる資料などが、話の材料になる場合があります。

13. 自殺、発病後の悪化、治ゆ(症状固定)の取扱い

パンフレットには、業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が、自殺を図った場合の取扱いも載っています。精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定され、原則として、その死亡は労災認定される、とされています。

業務以外の心理的負荷により発病していた精神障害が、悪化した場合は、悪化する前に業務による心理的負荷があっても、直ちにそれが悪化の原因とは判断できない、とされています。ただし、別表1の「特別な出来事」があり、その後おおむね6か月以内に、自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合などは、悪化した部分が労災補償の対象になります。

労災保険の「治ゆ」とは、健康時の状態に完全に回復した状態だけを指すのではなく、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その効果が期待できなくなった状態です。「治ゆ」(症状固定)となった後は、療養補償給付や休業補償給付は支給されません。

治ゆ後に、症状の増悪を予防するために診察や投薬が必要な場合は「アフターケア」を、一定の障害が残った場合は障害補償給付などを、受けることができる、とされています。個別の扱いは、労働基準監督署に確認してください。

齊藤 慧
心の不調と向き合いながら、制度を調べるのは、とても大変なことだと思います。一人で抱え込まずに、主治医や、家族、労働基準監督署などに、気軽に相談してみてください。手続きや認定の判断は、個別の事情で変わります。必ず、労働基準監督署に確認してください。※本記事は、編集部が厚生労働省が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

14. 【編集者の視点】

うつ病や適応障害は、仕事が原因なのか、そうでないのかが、本人にも周囲にも分かりにくい病気です。認定基準は、その判断を、できるだけ客観的に行うための枠組みだと、編集部は読みました。出来事の評価、業務以外の負荷、個体側要因という3つの視点があります。

この枠組みは、一見すると細かくて難しいのですが、見るべき点は、実はシンプルです。発病前の約6か月に、どんな出来事があったか。それは、同じような立場の人が見ても、強い負荷といえるか。私生活の出来事は、どの程度あったか。この3点です。

ご自身の状況を振り返るときは、この3点を、メモにしておくと整理しやすくなります。ただし、判断するのは労働基準監督署です。メモは、相談のときの材料として、使ってください。

15. まとめ

令和7年度の精神障害の労災請求は4958件、支給決定は1082件で、認定率は28.2%です。認定率は、決定件数に占める支給決定件数の割合で、請求した人のうち認められた割合ではありません。編集部の試算では、請求は5年間で約2.1倍、支給決定は約1.7倍です。5年累計で、支給決定は請求の約25.1%、決定の約31.5%ですが、いずれも認められる確率ではありません。

労災と認められるには、認定基準の対象となる精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の負荷や個体側要因により発病したとは認められないことの3つが必要です。強度は、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかで評価されます。

事業主の証明が得られなくても、労災請求はできます。認定は個別の事情で判断されるため、具体的な案件は、労働基準監督署か都道府県労働局に相談してください。

16. よくある質問

16.1 Q. うつ病や適応障害は、労災と認められますか?

認定基準の対象となる精神障害で、業務による強い心理的負荷などの要件を満たせば、認められることがあります。パンフレットには、うつ病と適応障害の認定事例が載っています。個別の判断は、労働基準監督署が行います(厚生労働省)。

16.2 Q. 労災と認められる要件は、何ですか?

対象となる精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の負荷や個体側要因により発病したとは認められないことの3つです(厚生労働省)。

16.3 Q. 認定率28.2%は、請求した人の28.2%が認められた、という意味ですか?

違います。認定率は、その年度に決定された件数に占める支給決定件数の割合です。決定件数には、前年度以前に請求されたものが含まれます(厚生労働省)。

16.4 Q. 長時間労働がないと、認められませんか?

そうとは限りません。令和7年度の支給決定件数は、時間外労働が「20時間未満」の件数が最も多くなっています。パワーハラスメントなどの出来事で認定される場合もあります(厚生労働省)。

16.5 Q. 心理的負荷の強さは、誰の基準で判断されますか?

本人の主観ではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかで評価されます。同種の労働者とは、職種、立場や職責、年齢、経験などが類似する人です(厚生労働省)。

16.6 Q. 私生活で大きな出来事があった場合は、認められませんか?

業務以外の心理的負荷も評価されますが、それだけで認められないとは限りません。どれが発病の原因かを、医学的に慎重に判断します(厚生労働省)。

16.7 Q. 会社が証明を拒否した場合は、請求できませんか?

事業主の証明が得られない場合でも、労災請求はできます。最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署に相談してください(厚生労働省)。

16.8 Q. 診断名が適応障害の場合も、対象になりますか?

パンフレットの認定事例には、適応障害が「対象疾病に該当する」と書かれています。診断名と分類コードは、主治医に確認してください(厚生労働省)。

16.9 Q. どこに相談すればよいですか?

最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署です。パンフレットの裏表紙に、都道府県労働局の電話番号と所在地が載っています(厚生労働省)。

参考資料

齊藤 慧