法務省によると、令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものは、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。2026年10月13日から数えて、残りは169日です。
登録免許税の免税措置(相続登記の促進のため、一定の土地が対象)も、令和9年3月31日までです。令和8年2月2日には、特定の被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧にする「所有不動産記録証明制度」が、始まっています。
この記事では、前半でこの疑問に、法務省の公表資料(2026年10月時点)と編集部の試算で答えます。後半では、過料の流れ、正当な理由、相続人申告登記、免税措置を確認します。個別の判断は、管轄の法務局や司法書士に確認してください。
1. 実家は父の名義のまま。兄と姉が揉めて遺産分割をしていない。相続する気のない私にも、相続登記の義務はある?
「実家の土地と建物は、5年前に亡くなった父の名義のままです。兄と姉が揉めていて、遺産分割の話が進みません。私は、実家を相続するつもりはありません。それでも、相続登記の義務は、私にもあるのでしょうか。令和9年3月31日が期限と聞いて、焦る気持ちがあります。過料も心配です」。
この疑問は、一人の事情に見えますが、同じ仕組みは、遺産分割が進まない人にも当てはまりえます。答えは、次の3点です。
- 令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものは、令和9年3月31日までに登記が必要です。それ以後に知った場合は、知った日から3年以内です(法務省)
- 遺産分割をしていない場合は、全員が法定相続分で不動産を取得(共有)した状態になるため、相続する気がなくても、義務があります。遺産分割が調い、所有者が自分以外になれば、義務はなくなります(法務省)
- 3年以内に遺産分割の結果に基づく登記が難しければ、単独でできる相続人申告登記で、義務が履行されたとみなされます。ただし、申出をした人についてのみで、遺産分割後の登記や、売却・抵当権の設定には、相続登記が必要です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です(法務省)
2. 相続登記の義務化は誰が・いつまで?遺産分割が進まない・兄が相続した・不動産を知らないなど4つの場合を法務省のQ&Aで確認
読者の方が気にしそうな「もし」を、法務省のQ&Aで確認します。いずれも、ご自身の義務の有無や期限を確定するものではありません。
- もし、遺産分割をしていないなら:全員が法定相続分で取得した状態のため、相続する気がなくても義務があります。単独でできる相続人申告登記で、義務を履行できます
- もし、兄が遺産分割で相続した不動産なら:相続登記の義務は、不動産を相続で取得した方が対象です。取得していないあなたには、義務はありません
- もし、親が不動産を持っていたか分からないなら:義務は、その不動産を相続で取得したことを「知った日」から始まります。具体的に知るまでは、義務はありません
- もし、登記官から催告が来たら:登記官は、義務違反を把握した場合に催告します。期限内に登記がされない場合に、裁判所へ通知し、過料は10万円以下の範囲で決まります
ここからは、この答えの前提になる制度を順に確認します。義務の内容、誰に義務があるか、過料の流れ、正当な理由、相続人申告登記、免税措置、新しい制度の順です。
3. 相続登記の義務とは:知った日から3年以内。遺産分割が成立したら、さらに3年以内
法務省のQ&Aによると、相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をすることが、法律上の義務になりました。正当な理由がないのに相続登記をしない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
遺産分割(相続人間の話合い)で不動産を取得した場合は、別に、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要があります。法務省のページでは、これを「遺産分割成立時の追加的義務」と呼び、最初の義務を「基本的義務」と呼んでいます。
義務化は、令和6年4月1日から始まりました。ただし、令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産も、相続登記がされていないものは、義務化の対象です。その場合の期限は、令和9年3月31日です。
義務化の背景は、所有者不明土地の増加です。法務省のページによると、全国の所有者不明土地の発生原因の約3分の2を、相続登記の未了が占めています。そこで、これまで任意だった相続登記が、令和3年の法律改正で義務化されました。
4. 誰に義務があるか:遺産分割をしていない場合は、相続する気がなくても義務がある
法務省のQ&Aには、迷いやすい4つのケースが示されています。1つ目は、遺産分割の結果、兄が相続した不動産です。この場合、相続登記の義務は、不動産を相続で取得した方が対象のため、取得していないあなたには、義務はありません。
2つ目は、兄と姉が揉めて、遺産分割をしていない場合です。あなたが、その不動産を相続する気がなくても、あなたにも義務があります。遺産分割をしていない場合は、すべての相続人が、法定相続分の割合で不動産を取得(共有)した状態になるためです。
ただし、遺産分割が調い、その不動産の所有者があなた以外の人になった場合は、あなたの義務はなくなります。3年以内に遺産分割の結果に基づく登記をすることが難しそうなら、あなたが単独でできる相続人申告登記をすることで、義務が履行されたとみなされます。
3つ目は、亡くなった親が不動産を所有していたかもしれないが、よく分からない場合です。相続登記の義務は、特定の不動産を相続で取得したことを「知った日」から始まるため、取得した不動産を具体的に知るまでは、義務はありません。
5. 過料の流れ:催告、裁判所への通知、過料の裁判。10万円以下の範囲で決まる
法務省のQ&Aによると、過料が科される場合の流れは、3つの段階です。1つ目は、登記官が、義務違反を把握した場合に、義務違反者に登記をするよう催告します。催告書が送られます。
2つ目は、催告書に書かれた期限内に登記がされない場合に、登記官が、裁判所に対して、申請義務違反を通知します。ただし、催告を受けた相続人から説明を受けて、登記官が「正当な理由」があると認めた場合は、この通知は行いません。
3つ目は、通知を受けた裁判所が、要件に当たるかどうかを判断して、過料を科す旨の裁判を行います。過料は、10万円以下の範囲で、裁判所が決定します。つまり、期限を過ぎたからといって、すぐに過料が科されるわけではありません。
登記官が催告を行うのは、義務に違反したと認められる者がいることを、職務上知ったときに限られます。法務省は、その端緒を2つ挙げています。
1つ目は、ある不動産について、遺言の内容に基づく所有権移転登記の申請があったが、その遺言書に、別の不動産も登記申請した相続人に相続させる旨が書かれていたときです。2つ目は、遺産分割の結果に基づく相続登記の申請があったが、その遺産分割協議書に、別の不動産も登記申請した相続人が相続する旨の記載があったときです。
6. 正当な理由があれば過料は科されない:法務省が示す5つの事情
法務省のQ&Aによると、相続登記の義務の履行期間内に、次の5つのような事情が認められる場合は、一般に「正当な理由」があると認められます。これらに該当しなくても、個別の事案の具体的な事情に応じて、登記をしないことに理由があり、その理由に正当性が認められる場合は、「正当な理由」があると認められます。
6.1 【相続登記をしないことの「正当な理由」として法務省が示す事情】
前提条件:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(令和7年3月27日現在)の記載による整理。これらに該当しない場合でも、個別の事情に応じて正当な理由と認められる場合がある。実際の判断は、登記官や裁判所が行う1/2
出所:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」を基にLIMO編集部作成
- 相続人が極めて多数:戸籍関係書類等の収集や、他の相続人の把握等に、多くの時間を要する場合です。
- 遺言の有効性や遺産の範囲を争っている:相続人等の間で争われているために、相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合です。
- 義務を負う者に重病などがある:重病その他これに準ずる事情がある場合です。
- 配偶者からの暴力の被害者など:生命・心身に危害が及ぶおそれがあり、避難を余儀なくされている場合です。
- 経済的に困窮している:登記の申請に要する費用を負担する能力がない場合です。
ここで挙がっている事情は、いずれも、登記ができないことに、やむを得ない理由がある場合です。「兄姉が揉めているから」という事情だけで、正当な理由になるかは、個別の判断になります。遺産の範囲や遺言の有効性が争われている場合は、2つ目の事情に当たる可能性があります。判断に迷うときは、法務局や司法書士に相談してください。
7. 相続人申告登記:単独でできるが、申出をした人の義務だけを果たす簡易な方法
法務省のQ&Aによると、相続人申告登記は、相続登記の義務を履行するための簡易な方法として新設された制度で、令和6年4月1日から始まっています。自らが登記簿上の所有者の相続人であることなどを、期限内(3年以内)に登記官に申し出ることで、義務を履行できます。特定の相続人が単独で申し出ることができ、他の相続人の分を含めた代理申出もできます。
方法は、必要な戸籍の証明書(戸除籍謄本等)などを添付して、登記簿上の所有者が亡くなって相続が開始したこと、自らが登記簿上の所有者の相続人であることなどを、不動産を管轄する登記所に申し出ます。
ただし、限界があります。相続人申告登記は、申出をした相続人についてのみ、義務を履行したものとみなされます。相続人全員が義務を履行したとみなされるには、全員がそれぞれ申出をする必要があります。複数の相続人が連名で申出書を作成して、まとめて申出をすることもできます。
また、遺産分割がされたあとに、その内容に基づく登記をする義務は、相続人申告登記では履行できません。不動産の権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりする場合には、相続登記が必要です。法務省は、できるだけ早めに遺産分割の話合いを行い、その結果に基づく相続登記をするよう、案内しています。
8. 状況別の選択肢:遺産分割が済んだか、決まらないか、売却するかで、とる手続きが変わる
ここまでの内容を、状況別に整理しました。法務省のQ&Aとページをもとに、遺産分割が済んだ場合、決まらない場合、売却や抵当権の設定を予定している場合を、並べています。
8.1 【状況別にとる手続き:相続登記と相続人申告登記】
前提条件:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」と「相続登記の申請義務化について」の記載による整理。実際の手続きは、管轄の法務局や司法書士に確認する2/2
出所:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」を基にLIMO編集部作成
- 遺産分割が済み、不動産を取得した:遺産分割の内容に応じた相続登記をします。遺産分割の成立から3年以内に、登記が必要です。
- 遺産分割が決まらない:単独でできる相続人申告登記をします。申出をした人の義務のみ履行され、遺産分割後の登記は別に必要です。
- 売却や抵当権の設定を予定している:相続登記をします。相続人申告登記は権利関係を公示しないため、使えません。
表のとおり、遺産分割が決まらない間は、相続人申告登記で、期限までの義務を履行できます。ただし、それは、あくまで一時的な手当てです。最終的には、遺産分割をして、その結果に基づく相続登記をすることが、法務省の案内する流れです。
9. 【編集者の視点】
今回の整理で、いちばん大切だと感じたのは、「相続する気がなくても義務がある場合がある」点です。遺産分割をしていない間は、全員が法定相続分で取得した状態になります。他の相続人が動かなくても、自分の義務は、自分で果たす必要があります。
もうひとつは、過料の手続きです。期限を過ぎても、すぐに過料が科されるわけではなく、催告と、説明の機会があります。ただし、それを前提に、先延ばしにするのは、勧められません。令和9年3月31日という期限が、決まっています。
この記事は、個別の義務の有無を判断するものではありません。相続の状況は、人によって違います。管轄の法務局や、司法書士に、早めに相談してください。
10. 登録免許税の免税措置:令和9年3月31日までの2つの場合
法務省のページによると、相続登記を促進するため、2つの場合に当たる土地の相続登記について、登録免許税の免税措置が設けられています。免税期間は、令和9年3月31日までです。
10.1 【相続登記の登録免許税の免税措置:対象となる土地(令和9年3月31日まで)】
- 相続登記をせずに亡くなった場合:相続により土地を取得した者が、相続登記をせずに亡くなった場合の相続登記が対象です。
- 価額が100万円以下の土地:不動産の価額が100万円以下の土地に係る相続登記が対象です。
この免税措置は、土地が対象で、令和9年3月31日までの期間限定です。ご自身の相続する土地が、対象に当たるかどうかは、法務局のページや、司法書士に確認してください。
11. 新しい制度:所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行)と、符号の表示の制度
法務省のページによると、相続登記が必要な不動産を容易に把握できるように、所有不動産記録証明制度が新設されました。令和8年2月2日の施行です。登記官が、特定の被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を、一覧的にリスト化して証明する制度です。
親がどこに不動産を持っていたか分からない場合に、役立つ可能性があります。取得した不動産を具体的に知った日から、3年の義務が始まるため、不動産の把握は、手続きの最初の一歩になります。
もうひとつ、所有権の登記名義人への符号の表示の制度があります。登記官が、他の公的機関から取得した死亡情報に基づいて、不動産登記に死亡の事実を符号によって表示します。登記を見れば、その不動産の所有権の登記名義人が亡くなったことを、確認できます。
12. 残り169日の準備:相続人の確認、不動産の把握、相談先の4つ
令和9年3月31日まで、2026年10月13日からは、169日です。準備を、4つに分けます。1つ目は、相続人の確認です。戸籍をたどって、誰が相続人かを確認します。戸籍の収集には、時間がかかることがあります。
2つ目は、不動産の把握です。固定資産税の通知書や、所有不動産記録証明制度を使って、相続する不動産を、確認します。3つ目は、遺産分割の話合いです。早めに行うことが、法務省の案内です。難しければ、相続人申告登記を、選択肢に入れます。
4つ目は、相談先の確認です。法務省のQ&Aによると、お近くの法務局(登記手続案内、予約制)や、司法書士・司法書士会に相談できます。相続登記相談センター(予約受付フリーダイヤル 0120-13-7832)は、平日10時から16時(年末年始・お盆期間を除く)に受け付けています。
13. 【編集者の視点】
相続登記の話は、「期限が近い」「過料がある」という点ばかりが、強調されがちです。ただ、法務省の案内を読むと、催告や説明の機会があり、正当な理由が認められる場合もあります。期限を知り、慌てずに、順番に手続きを進めることが大切だと感じます。
もうひとつは、きょうだいとの関係です。遺産分割が進まない背景には、感情の行き違いがあることも多いと思います。相続人申告登記は、そうした状況でも、自分の義務だけは果たせる手続きです。揉めている間も、期限は進みます。
ただし、相続人申告登記は、一時的な手当てです。最終的には、遺産分割をして、その結果に基づく相続登記をすることが、法務省の案内する流れです。専門家に相談しながら、無理のない順番で、進めてください。
14. 義務の対象範囲:遺産分割や遺贈で取得した場合も対象になる
法務省のQ&Aによると、義務の対象となる不動産は、相続により取得したことを知った不動産(土地・建物)です。遺産分割が成立した場合や、亡くなった方から相続人に対して遺贈をした場合なども、対象になります。
土地だけでなく、建物も対象です。建物の登記(表題登記)については、土地家屋調査士に相談できると、法務省のQ&Aに案内されています。実家に、未登記の建物や、増築した部分がある場合は、建物の登記の状況も、あわせて確認しておくと安心です。
相続登記の申請先は、不動産を管轄する法務局です。管轄の法務局は、法務局のホームページ「管轄の御案内」で探せます。登記手続の案内を受けたい場合は、「法務局手続案内予約サービス」で、予約ができます。
15. まとめ
令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものは、令和9年3月31日までに登記が必要です。それ以後に知った場合は、知った日から3年以内です。
遺産分割をしていない場合は、相続する気がなくても、義務があります。単独でできる相続人申告登記で、申出をした人の義務を履行できますが、遺産分割後の登記や、売却・抵当権の設定には、相続登記が必要です。
正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です。登記官の催告や、説明の機会があります。個別の判断は、管轄の法務局や司法書士に確認してください。
16. よくある質問
16.1 Q. 相続登記の期限は、いつまでですか?
令和6年4月1日以降に知った場合は、知った日から3年以内です。令和6年4月1日より前に知った不動産で、登記がされていないものは、令和9年3月31日までです(法務省)。
16.2 Q. 相続する気がなくても、義務はありますか?
遺産分割をしていない場合は、あります。全員が法定相続分で取得した状態になるためです。遺産分割が調い、所有者が自分以外になれば、義務はなくなります(法務省)。
16.3 Q. 兄が相続した不動産について、私にも義務はありますか?
ありません。相続登記の義務は、不動産を相続で取得した方が対象です(法務省)。
16.4 Q. 過料は、いくらですか?
10万円以下の範囲で、裁判所が決定します。登記官の催告、裁判所への通知を経て、決まります(法務省)。
16.5 Q. 相続人申告登記は、誰かひとりがすればよいですか?
申出をした相続人についてのみ、義務を履行したとみなされます。全員が義務を履行するには、全員が申出をします。連名で、まとめて申出もできます(法務省)。
16.6 Q. 相続人申告登記をすれば、売却できますか?
できません。相続人申告登記は、権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権の設定には、相続登記が必要です(法務省)。
16.7 Q. 親が不動産を持っていたか分からないときは、どうしますか?
取得した不動産を具体的に知るまでは、義務はありません。所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行)で、被相続人名義の不動産を、一覧で確認できます(法務省)。
16.8 Q. 登録免許税の免税措置は、いつまでですか?
令和9年3月31日までです。相続登記をせずに亡くなった場合と、不動産の価額が100万円以下の土地が対象です(法務省)。
16.9 Q. 遺言や遺贈で取得した場合も、義務の対象ですか?
対象です。遺産分割が成立した場合や、遺贈を受けた場合なども、義務の対象になります(法務省)。
16.10 Q. 登記官は、どんなときに催告しますか?
義務違反を職務上知ったときに限られます。遺言書や遺産分割協議書に、別の不動産も登記申請した相続人が相続する旨が書かれていた場合などが、端緒です(法務省)。
参考資料
齊藤 慧
