「うちは、金や債券を持っているの?」——ニュースを見た妻にそう聞かれ、答えに詰まったのが50歳の会社員Dさんです。NISAと企業型DCで毎月10万円を、S&P500と全世界株式のインデックスファンドに積み立てています。子どもの教育費はかからなくなり、住宅ローンも残り5年です。
金価格は2025年に過去最高値を更新し続け、10年国債の利回りは年3%を超えました。「株式だけでいいのか」という迷いは自然なものです。ただし、「上がったものを後から足す」だけでは、分散になるとは限りません。
本記事では、指数の公表資料や公的年金の運用方針をもとに、Dさんの積立の中身と分散の考え方を整理します。そのうえで、専門分野の異なるLIMO編集部メンバーと、監修者の泉田良輔が解説します。
※実際のご相談をもとに、一部内容を変更しています。
「本当に株式だけでいいのか」50歳会社員Dさんのご相談
Dさん(50歳)は会社員です。毎月、NISAのつみたて投資枠と勤務先の企業型DC(確定拠出年金)で、合わせて10万円を積み立てています。子どもの教育費はもうかからず、住宅ローンも残り5年と、家計は落ち着いてきた段階です。
Dさん世帯の状況
• 家族:本人50歳(会社員)、妻、子ども2人
• 教育費:もうかからない。学生の子は地方の国立大学に在学し、学費は安く、生活費はアルバイトで賄えている
• 住宅ローン:残り5年
• 積立投資:毎月10万円(NISAのつみたて投資枠と企業型DC)
• 投資先:S&P500と全世界株式(MSCIオール・カントリー)のインデックスファンド
Dさんが気になっているのは、株式の投資信託だけで運用していることです。
「毎月、S&P500と全世界株式のインデックスファンドを積み立てています。でも、本当にそれだけでいいのでしょうか」
きっかけは、金や金利のニュースでした。
「昨年は金(ゴールド)が上がり、今年は金利が上がっているとニュースで聞きます。これまでメディアでさんざん言われてきたように、株式だけでいいのか悩んでいます。妻もニュースを見て、『うちの資産運用は、金や債券を持っているの?』と聞いてきます」
定年まではまだ時間があると感じている一方で、ほかの資産にどの程度分散すればよいのか、答えが出せずにいます。
Dさんのご相談は、次の2つに整理できます。
- 株式の投資信託(S&P500と全世界株式)だけの積立でよいのか
- 金や債券など、ほかの資産にどの程度分散すればよいのか
全世界株式の約64%は米国株。S&P500と合わせると米国は約8割に
まずは、Dさんがいま持っている2本の中身です。実は、「2本に分けているから分散している」とは限りません。
MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)の中身は、次のとおりです(2026年9月30日時点、MSCI「MSCI ACWI Index(USD)ファクトシート」)。
- 構成銘柄数:2414銘柄
- 国別の比率:米国64.21%、日本5.2%、台湾3.46%、英国3%、カナダ2.9%、その他21.22%
- 上位10銘柄の合計:25.40%(うち9銘柄が米国企業)
S&P500は、米国の主要企業だけで構成される指数です。仮にDさんが2本を半分ずつ買っているとすると、積立全体に占める米国株の比率は次のとおりです。
(100%+64.21%)÷2=約82%
つまり、Dさんの積立は「世界に分散した株式」というより、「米国株を中心にした株式」です。米国の中でも、上位には大型のテクノロジー企業が並んでいます。
もう一つの特徴は、どちらも外国株式であることです。円高になれば、株価が変わらなくても円でみた資産は減ります。株式の値動きに加えて、為替の影響も受けることになります。
ただし、これは「だから悪い」という話ではありません。世界の株式市場の中で米国企業の時価総額が大きいことの反映です。大切なのは、自分が何にどれだけ投資しているのかを知っておくことです。
金は2025年に53回最高値を更新、金利は3%台。ただし株式も上がっていた
Dさんの妻がニュースで見たとおり、金と金利はいずれも大きく上がっています。
- 金価格:2025年にLBMA金価格は53回、過去最高値を更新。年平均は1トロイオンス当3431ドルで、前年比44%上昇(ワールドゴールドカウンシル「Gold Demand Trends: Q4 and Full Year 2025」)
- 10年国債の利回り:年3.089%(2026年10月8日、財務省「国債金利情報」)
- 世界株式:MSCI ACWIは2025年に22.34%上昇(ドル建て、配当込み。MSCI「MSCI ACWI Index(USD)ファクトシート」)
金も債券も注目されていますが、Dさんが持つ世界株式も大きく上がっていました。「株式だけだったから損をした」わけではありません。
金、債券、株式は役割が違う
以下、資産ごとの特徴をまとめておきます。
株式
- 企業の利益の成長に合わせて、長期で増えることが期待できる
- 配当を生む。一方で、景気後退局面では大きく下落することがある
債券
- 利子を生む。満期まで持てば額面で戻る
- 金利が上がると、すでに持っている債券の価格は下がる
- 株式が下がる局面で、値動きをやわらげる役割を期待されることが多い
金(ゴールド)
- 利息も配当も生まない。利益は価格の上昇だけ
- 紛争や通貨不安のときに買われやすく、「保険」に近い役割
- 価格の変動は大きく、円建てでは為替の影響も受ける
上がったものを後から買い足すと、高値で買うことになりがちです。金や債券を加えるかどうかは、「最近上がったから」ではなく、「資産全体でどういう役割を持たせるか」で決めることが大切です。
分散の度合いは「定年までの時間」と「家計全体」で決める
参考になるのが、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の配分です。2025年4月から適用されている基本ポートフォリオは、次のとおりです(GPIF「基本ポートフォリオの考え方」)。
- 国内債券:25%
- 外国債券:25%
- 国内株式:25%
- 外国株式:25%
Dさんの積立は、このうち「外国株式」がほとんどを占め、債券は含まれていません。ただし、GPIFは数十年先の年金給付に備えるための配分であり、そのまま個人の正解になるわけではありません。
「積立」だけでなく、家計全体で見る
分散を考えるときは、積立の中身だけでなく、家計の資産全体で見ることが大切です。
- 預貯金:元本が変動しない「安全資産」。役割としては債券に近い
- 公的年金:将来、毎月一定額が入ってくる収入。これも債券に近い性質を持つ
- 企業型DC:運用商品の中に、元本確保型や債券のファンドが用意されていることが多い
たとえば、積立は株式だけでも、まとまった預貯金があれば、家計全体では「株式+安全資産」に分散されていることになります。
Dさんの場合、家計にはもう2つの変化があります。
- 教育費:すでにかからなくなっている
- 住宅ローン:残り5年。完済すれば、毎月の返済分を老後資金に回せるようになる
つまり、55歳前後から定年までの約10年は、積み立てられる額が増える可能性があります。増えた分を株式に回すのか、安全資産に回すのか。そこが、分散を調整する自然なタイミングになります。
「どれだけ下がったら耐えられないか」を金額で考える
株式は、大きな下落局面では短期間に数十%下がることがあります。仮に株式で運用している額が1000万円で、4割下落すれば、次のようになります。
1000万円×40%=400万円の減少
定年まで約15年あれば、積立を続けながら回復を待つ時間があります。一方で、定年が近づき、取り崩しが始まる直前に同じ下落が起きると、影響は大きくなります。
そのため、分散の度合いは「いま何%にするか」よりも、「定年に向けて、いつから安全資産を増やしていくか」を決めるほうが、実践しやすいといえます。
企業型DCは「配分を変えやすい口座」。NISAと役割を分ける
Dさんは、NISAと企業型DCの2つの口座で積み立てています。分散を考えるときは、それぞれの口座でできることを知っておくと便利です。
企業型DCでできること
- 運用商品:勤務先が用意した商品の中から選ぶ。株式のファンドのほか、債券のファンドや元本確保型が含まれることが多い
- 配分の変更:毎月の掛金の配分を変えたり、保有している商品を入れ替えたりできる
- 引き出し:原則として60歳まで引き出せない。その分、長い時間軸で運用できる
- 制度の変更:2026年12月1日から、企業年金等と合計した拠出限度額が月額6.2万円に引き上げられる予定(厚生労働省「2025年の制度改正」)
定年に向けて安全資産を少しずつ増やすなら、企業型DCの配分を変えるのが、手順としてはもっとも簡単です。まずは、勤務先の商品一覧にどんな債券のファンドがあるかを確かめてみてください。
NISAでできること
- つみたて投資枠:年120万円。長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託が対象。株式と債券を組み合わせたバランス型の投資信託も含まれる
- 成長投資枠:年240万円。上場株式、ETF、REIT、公募株式投資信託が対象。国債などの公社債や公社債投資信託は対象外
- 生涯の非課税保有限度額:1800万円(うち成長投資枠1200万円)
NISAは売却しても、その年の投資枠は復活しません(金融庁「NISAを利用する皆さまへ」)。NISAは株式を長く持つ口座、企業型DCは配分を調整する口座、と役割を分けると管理しやすくなります。
編集部のアドバイザーはこう見る
LIMO編集部には、実務経験や専門分野の異なる6人のメンバーが在籍しています。宮野茉莉子、村岸理美、太田彩子、中本智恵、安達さやか、和田直子です。証券会社や銀行、信託銀行、生命保険会社、自治体での実務経験を持ち、CFP®や1級・2級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員などの資格を保有しています。
本企画では、ご相談のテーマに専門が合うメンバーが輪番でコメントします。Dさんのご相談は「資産の分散」と「企業型DCを含む老後資金づくり」が論点のため、今回は証券会社で個人や法人の資産運用を担当したメンバーと、企業型DCや老後資金を専門に執筆してきたメンバーが担当しました。
資産運用の専門から
「複数のファンドを持っているのに、中身はほとんど同じ」というケースはよくあります。Dさんの2本も、実際には米国株が大部分を占めています。
ただし、米国に偏っていること自体が問題なのではありません。大切なのは、偏りを知ったうえで持つことです。金や債券を加える場合も、「最近上がったから」ではなく、全体の何割までと決めてから少しずつ加えるのが運用の基本です。
企業型DC・老後資金の専門から
企業型DCの商品一覧を、加入したとき以来見ていないという方は少なくありません。しかし、定年まで15年という時期は、「増やす」と同時に「どう守るか」を考え始めるタイミングです。Dさんの場合、住宅ローンが終わる5年後は、毎月の返済分を老後資金に回せる節目にもなります。
勤務先のDCにどんな債券のファンドがあるかを確かめ、定年の何年前から配分を変え始めるかを、奥さまと一緒に決めておくと安心です。「うちは金や債券を持っているの?」という奥さまの問いは、家計全体を見直すよいきっかけです。
監修者・泉田良輔の視点
「金も金利も上がっているのに、株式だけでいいのだろうか」——皆さんも、そんな不安を感じたことはないでしょうか。これまでさんざんメディアでも「株式のインデックスファンドを積み立てるだけでよい」と繰り返し言われてきただけに、なおさらでしょう。
余談ですが、投資信託はオルカン一択でいいといわれているものの、パフォーマンス的には、先進国に特化した「ワールド」の方がパフォーマンスはよかったりします。
株式は、企業が将来稼ぐ利益をもとに値段がつきますが、債券には約束された利子があります。では、金はどうでしょうか。金は利息も配当も生まないため、値段は「ほしい人がどれだけいるか」つまり需給とインフレ率で決まります。
つまり、金は「稼ぐ資産」ではなく、いざというときの「保険」として持つものということになります。保険であれば、大きく賭けるものではありません。
もう一つ、全世界株式の約64%が米国なのは、世界の投資家が米国企業の稼ぐ力をそれだけ高く値決めしている結果です。その判断に乗るのがインデックス投資だといえるでしょう。
「戦略とは何をしないかを決めること」とよくいわれます。上がったものを追いかけない。その代わりに、定年までの15年をどう使うかを先に決める。私は、Dさんにとっての分散は「何を買い足すか」よりも、「いつから守りを増やすか」で設計するものだと考えています。
まとめ:分散は「何を足すか」より「いつから守りを増やすか」
Dさんの積立は、全世界株式とS&P500の2本でも、米国株が約8割を占める「米国中心の株式」です。金や金利は上がっていますが、後から追いかけて買うより、家計全体と定年までの時間軸で分散を設計することが大切です。
まず取り組めることは次の3つです。
- NISAと企業型DCの残高、預貯金、住宅ローンの残高を書き出し、家計全体で株式と安全資産の割合を確かめる
- 勤務先の企業型DCの商品一覧で、債券のファンドや元本確保型を確認する
- 定年の何年前から安全資産を増やすかを、夫婦で決めておく
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や推奨を行うものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。指数の構成比率や価格は記載の時点のもので、将来の成果を示すものではありません。制度は令和8年10月時点の情報にもとづいています。個別の判断は、取引する金融機関や勤務先の制度担当部署などにご確認ください。
※本記事は実際のご相談をもとに構成しています。プライバシーに配慮し、個人が特定されないよう、内容の一部を変更しています。
※米国株の比率は、S&P500と全世界株式を半分ずつ購入していると仮定して試算しています。
※定年は65歳と仮定しています。株式の下落率は説明のための仮定で、将来の値動きを示すものではありません。
参考資料
- MSCI「MSCI ACWI Index(USD)ファクトシート」(https://www.msci.com/documents/10199/255599/msci-acwi-net.pdf)
- ワールドゴールドカウンシル「Gold Demand Trends: Q4 and Full Year 2025」(https://www.gold.org/goldhub/research/gold-demand-trends/gold-demand-trends-full-year-2025)
- 財務省「国債金利情報」(https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm)
- 年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの考え方」(https://www.gpif.go.jp/gpif/portfolio.html)
- 厚生労働省「2025年の制度改正」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html)
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html)
- 金融庁「NISAを利用する皆さまへ」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/slide_202406.pdf)
- 国税庁「令和6年1月1日から開始する新NISAの概要」(https://www.nta.go.jp/users/gensen/nisa/pdf/shinnisa.pdf)
LIMO編集部