物価高が続く中、下半期が始まる10月に会社を離れ、国民健康保険に切り替わったという人もいるかもしれません。

思いがけない倒産や解雇で離職したあとに入院や通院が続くと不安になりますが、医療費が100万円かかっても自己負担の上限が6万1500円で済む特例があります。

厚生労働省の「高額療養費制度に関する参考資料」では、非自発的な理由による離職者の給与所得を100分の30として所得区分を判定し、過重な負担を防ぐしくみが示されています。

本記事では、2026年8月診療分からの上限額の決まり方と、離職した人の特例について計算例とあわせて確認します。

1. 加入者全員の前年所得で決まる、国民健康保険「高額療養費」の所得区分

高額療養費は、1か月の医療費の自己負担が上限額を超えたときに、超えた分が戻る制度です。国民健康保険では、その上限額を決める所得区分を、世帯の加入者の所得から判定します。

1.1 所得区分は「旧ただし書き所得」の合計で判定する

練馬区の案内では、所得区分は国民健康保険の加入者全員の旧ただし書き所得の合計で判断するとしています。旧ただし書き所得は、前年の総所得金額等から住民税の基礎控除額43万円を差し引いた額です。

判定は毎年8月1日に行い、翌年7月末まで使います。2026年8月から2027年7月までの診療は、2025年中の所得で判定されます。

1.2 2026年8月診療分からの70歳未満の上限額と年間上限

2026年8月診療分からの70歳未満の上限額は次のとおりです。あわせて、8月から翌年7月までの1年間の自己負担に「年間上限」が設けられました。

国民健康保険の高額療養費の所得区分と上限額(70歳未満・2026年8月診療分から)1/2

国民健康保険の70歳未満の高額療養費について、旧ただし書き所得による区分アからオごとに、月の上限額、多数回該当の額、年間上限を示した表

出所:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」、練馬区「医療機関などで高額な医療費を支払ったとき(高額療養費の支給)」を参考にLIMO編集部作成

【70歳未満の月の上限額(3回目まで)】

  • 区分ア(旧ただし書き所得901万円超):27万300円+(総医療費−90万1000円)×1%
  • 区分イ(600万円超〜901万円以下):17万9100円+(総医療費−59万7000円)×1%
  • 区分ウ(210万円超〜600万円以下):8万5800円+(総医療費−28万6000円)×1%
  • 区分エ(210万円以下):6万1500円
  • 区分オ(住民税非課税):3万6900円

年間上限は、区分アが168万円、イが111万円、ウとエが53万円、オが29万円です。練馬区は、税の申告がないと所得区分が「ア」と判定されると案内しています。

2. 倒産や解雇で離職した人の特例。給与所得を「100分の30」にして上限を判定

前年の所得で判定するしくみのため、会社の健康保険から国民健康保険に移った直後は、在職中の給与で高額療養費の所得区分が決まります。厚生労働省の資料は、これにより自己負担額が過重になるケースがあるとして、非自発的な理由で離職した人の判定方法を示しています。

2.1 対象は雇用保険の特定受給資格者と特定理由離職者

対象は、倒産・解雇などで離職した特定受給資格者と、雇い止めや病気などの正当な理由のある自己都合で離職した特定理由離職者として、失業給付を受ける人です。

前年(1月から7月の診療は前々年)の所得に給与所得が含まれる場合、その給与所得を100分の30として区分を判定します。事業所得など給与所得以外の所得は特例の対象外です。高額療養費のほか、高額介護合算療養費の区分判定にも使われます。

2.2 特例が使える期間は、離職の翌月の診療分から翌年度末後の7月31日まで

期間は、離職日の翌日が属する月の翌月から、その月が属する年度の翌年度末を過ぎて最初の7月31日までです。離職日の翌日が1日の場合は、離職した月の翌月からになります。

たとえば2026年9月30日に離職した場合は、2026年10月から2028年7月までの診療が対象です。厚生労働省の資料には、申請が遅れた場合でも遡って適用すると書かれています。

3. 【計算例】給与収入500万円の離職者、医療費が月100万円かかった時の上限額は?

2026年9月30日に解雇で離職し、10月から国民健康保険に加入した70歳未満の単身の人で計算します。前年の給与収入は500万円で、給与のほかに所得はないものとします。

倒産・解雇などで離職した人の高額療養費の上限(計算例)2/2

前年の給与収入500万円の人が離職して国民健康保険に入った場合の計算例。特例を使わないと区分ウで上限9万2940円、給与所得を100分の30にすると区分エで上限6万1500円

出所:厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料」を参考にLIMO編集部作成

3.1 特例を使わないと区分ウで、上限は9万2940円

給与収入500万円の給与所得は356万円です。基礎控除43万円を引いた旧ただし書き所得は313万円で、区分ウにあたります。

2026年10月に総医療費が100万円かかった月の上限は、8万5800円+(100万円−28万6000円)×1%で9万2940円です。

3.2 給与所得を100分の30にすると区分エで、上限は6万1500円

特例では給与所得356万円を100分の30として106万8000円とし、基礎控除を引いた旧ただし書き所得は63万8000円になります。区分はエで、この月の上限は6万1500円です。

特例を使わない場合との差は、この月だけで3万1440円です。区分ウとエはどちらも年間上限が53万円のため、差が出るのは月ごとの上限の部分です。

国民健康保険の高額療養費は前年の所得で区分が決まり、倒産・解雇などで離職した人は給与所得を100分の30にして判定されます。計算例では、医療費100万円の月の上限が9万2940円から6万1500円に下がりました。

自分が対象になるかは、ハローワークで受け取る雇用保険受給資格者証の「離職理由」欄のコードで確かめられます。

ここからは、健康保険が変わったときの多数回該当の扱いと、国民健康保険の窓口で届け出ておきたいことを確認します。

熊谷 良子

高額療養費の区分は、退職したときではなく前年の所得で決まります。

離職票や雇用保険受給資格者証は、失業給付の手続きが終わったあとも、国民健康保険の届出で使うことがあるので手元に残しておきましょう。