海外旅行や出張の途中で急に体調を崩し、現地の病院にかかることもあります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)には、こうした場合に医療費の一部が払い戻される「海外療養費」の制度があります。協会けんぽの「令和6年度 事業年報」によると、2024年度の海外療養費の支給は5833件、給付費は約3億4190万円でした。

本記事では、海外療養費の対象になる診療とならない診療、支給額の計算方法、年度ごとの支給件数について解説します。

1. そもそも「海外療養費」とは?協会けんぽの2024年度の支給は5833件だった

海外療養費は、海外旅行中や海外赴任中に急な病気やケガなどで、やむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により医療費の一部が払い戻される制度です。

協会けんぽに加入している被保険者本人だけでなく、家族(被扶養者)が現地で受診した場合も対象になります。なお、市区町村などが運営する国民健康保険にも同じ名前の「海外療養費」がありますが、本記事では協会けんぽの制度について確認します。

まずは協会けんぽ「事業年報」の総括表から、海外療養費の支給件数と給付費の推移を確認しましょう。

協会けんぽの海外療養費の支給件数は2020年度から毎年増えている1/3

協会けんぽの海外療養費の支給件数は2020年度から毎年増えている

出所:全国健康保険協会「事業年報」(令和2年度〜令和6年度)をもとにLIMO編集部作成

協会けんぽの海外療養費の支給件数と給付費は次のとおりです。

  • 2020年度(令和2年度):4211件・約2億2418万円
  • 2021年度(令和3年度):4426件・約2億646万円
  • 2022年度(令和4年度):4604件・約2億2972万円
  • 2023年度(令和5年度):5273件・約2億8351万円
  • 2024年度(令和6年度):5833件・約3億4190万円

2024年度の支給件数は、2020年度の約1.4倍でした。2024年度の内訳は、被保険者分が3112件、被扶養者分が2721件です。

1.1 海外療養費の対象は日本で保険診療として認められている医療行為に限られる

海外療養費の支給対象は、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。

そのため、美容整形やインプラントなど、日本国内で保険適用となっていない医療行為や薬が使われた場合は、給付の対象になりません。

1.2 治療を目的に海外へ渡航して受けた診療は海外療養費の対象外になる

協会けんぽは、療養(治療)を目的に海外へ渡航して診療を受けた場合は、支給の対象にならないとしています。

また、日本で実施できない診療を受けた場合も、保険給付の対象にはなりません。※支給要件を満たす海外での臓器移植は除かれます。

2. 海外療養費はいくら戻る?日本国内で同じ傷病を治療した場合の費用が基準になる

海外療養費の支給額は、海外で実際に支払った額ではなく、日本国内で治療した場合の費用をもとに計算されます。

2.1 海外療養費の支給額は「日本の基準で計算した額」から自己負担相当額を差し引いて決まる

協会けんぽの「海外療養費 支給申請書 記入の手引き」では、支給額を次のように定めています。

  • 日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額を出す
  • 実際に海外で支払った額のほうが低いときは、その額を使う
  • その額から、加入者が負担すべき額(自己負担相当額)を差し引いた額が支給される

海外で支払った額がそのまま払い戻されるわけではない2/3

海外で支払った額がそのまま払い戻されるわけではない

出所:全国健康保険協会「海外療養費 支給申請書 記入の手引き」をもとにLIMO編集部作成

差し引かれる自己負担相当額は「一部負担金等相当額」とも表記されています。協会けんぽが案内している一部負担金の割合は、70歳未満の被保険者が医療費の3割、70歳以上の被保険者が2割(現役並み所得者は3割)です。

たとえば、日本の基準で計算した額が10万円で、実際の支払額がそれより多く、自己負担割合が3割の場合、支給額は7万円になります。※金額は仕組みを示すための例です。

協会けんぽは、日本と海外では医療体制や治療方法等が異なるため、海外で支払った総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給額が大幅に少なくなることがあるとしています。

2.2 外貨で支払った医療費は支給決定日の外国為替換算率で円に換算する

外貨で支払った医療費は、支給決定日の外国為替換算率(売レート)を使って円に換算し、支給額が計算されます。

支払った日のレートではない点に注意が必要です。支払いから支給決定までの間に為替が動けば、円に換算した額も変わります。

2.3 2024年度の海外療養費は1件あたり5万8614円だった

協会けんぽ「令和6年度 事業年報」の総括表から、海外療養費の1件あたりの給付費を見てみましょう。

  • 総数:5万8614円
  • 被保険者分:5万5003円
  • 被扶養者分:6万2744円

※同資料の「1件当たり金額」で、円未満は切り捨てています。あくまで平均であり、実際の支給額は受けた診療の内容によって異なります。

和田 直子

海外療養費は、現地で支払った医療費がそのまま戻る制度ではなく、日本の基準で計算した額がもとになります。旅行や出張の前に、海外旅行保険などほかの備えとあわせて、戻ってくる額の考え方を家族で確認しておくと安心です。