この記事の読みどころ

2014年後半から日米の金融政策の方向性の違いなどを背景に急速に進行した円安・ドル高は、2016年年初頃から反転し、足元、円高ドル安傾向となっています。今、改めて何が円高・ドル安の要因となっているのかを考えます。ポイントは以下の3つです。

  • Ÿ2014年、何故円安が進行したか振り返ろう
  • Ÿそして、今何が変わったのか確認しよう
  • Ÿその他、為替介入や経済指標は為替動向にどのように影響しているのか

東京円相場:110円を割り込み、108円台へ約1年5か月ぶりの円高水準

東京外国為替市場の円相場は1ドル=108円台の円高水準で推移しています(2016年4月8日現在)。

米国で6日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、新たな材料には乏しかったものの、利上げを急ぐことに慎重な意見が多いことが確認されています。円が108円台での取引となるのは概ね1年半ぶりで、日銀が追加の金融緩和を決めた2014年10月末頃以来の水準となります。

どこに注目すべきか:量的金融緩和、マイナス金利、経常収支

2014年後半から日米の金融政策の方向性の違いなどを背景に急速に進行した円安・ドル高は、2016年年初頃から反転し、足元、円高ドル安傾向となっています。今、改めて何が円高・ドル安の要因となっているのかを考えます。

まず、日米の金融政策の方向性の違いが縮小した点です。

2014年10月、米国は量的金融緩和第3弾(QE3)を終わらせ、金融引き締めを強化する一方で、日本は日銀が2014年10月末に「量的・質的金融緩和拡大」を公表し、例えば長期国債保有残高の年間増加ペースを約50兆円から約80兆円へ引き上げるなどの金融緩和拡大策を公表しました。

では、現状はどうか。米国は資源価格の下落やドル高などを受け、利上げペースを後退させるとの見方が強まっています。依然金融引き締めを模索してはいますが、積極性にかける印象です。

また、日銀の場合も金融緩和を拡大する意思はあるものの、手詰まり感が見られます。たとえば、日銀の長期国債購入は日銀の財政状況(長期国債保有リスク)などを考えると早晩限界に近づくとの指摘も聞かれます。

量的金融緩和の代替として期待されるマイナス金利政策ですが、他国から「通貨安競争」を示唆されたことなどを受け、市場では日銀が当面はマイナス金利の拡大に慎重になるとの見方が増えたことも円高を後押しする要因と見られます。

次に、短期的に、為替介入実施への期待も低下しています。

主要7か国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)などの国際会議が予定される、4月から5月は為替介入が手控えられるとの見方が優勢となっていることも円高要因と見られます。

経済指標の一部に円高ドル安を後押しするものも見られます。たとえば経常収支です。2014年頃は経常赤字が定着するとの懸念が円安要因と見られていましたが、最近は黒字へと転換しています。

なお、4月8日に公表された2016年2月の経常収支は2兆4,349億円の黒字(季節調整前)と市場予想(2兆円程度)を上回る大幅な黒字となり、経常収支黒字の定着化を確認する内容となりました。

程度は縮小したものの、日本の金融緩和、米国の引き締めという金融政策の方向性に変化がないと見られることから、この先円安・ドル高傾向に戻る可能性も考えられます。しかし、円はリスク回避で買われる局面なども想定されるため、短期的にオーバーシュートも視野に入れる必要があると見られます。

【2016年4月9日 ピクテ投信投資顧問 梅澤 利文】

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ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文