1. 減益が続くなかで、株価は昨秋から2割近く上げた
まず株価の流れを確認しておこう。ヤクルト本社の終値は2025年10月末に2,300円台だった。11月末と12月末はいずれも2,400円台で推移し、年末にかけて緩やかに切り上がった。
年明け後も上昇基調は続いた。2026年1月末は2,400円台を保ち、2月末は2,600円台、3月末も2,600円台と水準を上げた。4月末には2,700円台に乗せている。
5月末は2,600円台といったん小幅に押し戻されたが、6月末は2,700円台に戻し、7月末と8月末は2,800円台まで上げた。2025年10月末以降の月末終値では、8月末が最も高い水準にあたる。9月末は2,700円台と、高値から小幅に下げて終えた。
1年を通して見ると、大きな急落のない、階段を上るような値動きだった。9月末の終値は2025年10月末と比べて2割近く高い。値動きの荒い銘柄が多い相場のなかで、この安定ぶりは目を引く。
業績が減益続きだったことを考えると、この上昇はやや意外に映る。食品株は景気の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄とされ、相場が不安定な局面では資金の逃げ場として買われやすい。そうした物色の流れが、株価を下支えした可能性はあるだろう。ただし、値動きの理由を一つに断定することはできない。
2. 2026年3月期は営業利益▲18.4%。3期連続の減益の中身
2026年3月期通期の連結業績は、売上高4,864億円(前期比▲2.7%)、営業利益451億円(同▲18.4%)、経常利益610億円(同▲19.5%)、親会社株主に帰属する当期純利益442億円(同▲2.9%)だった。
会社は、事業の根幹であるプロバイオティクスの啓発・普及活動を展開し、商品の優位性を訴求してきたとしている。そのうえで長期ビジョン「Yakult Group Global Vision 2030」と中期経営計画(2025-2030)に基づき、業績の向上に努めたと説明する。もっとも、減益の具体的な要因について、短信の概況は多くを語っていない。
過去5期の営業利益を並べると、2022年3月期532億円、2023年3月期660億円、2024年3月期633億円、2025年3月期553億円、2026年3月期451億円と推移してきた。2023年3月期をピークに、3期続けて減っている。
経常利益が営業利益を大きく上回るのも、この会社の特徴だ。2026年3月期は営業外収益が204億円あり、そのうち受取利息が92億円を占める。本業以外の収益が、利益の水準を一段押し上げている。
2027年3月期の会社予想は、売上高5,270億円(前期比+8.3%)、営業利益440億円(同▲2.6%)、純利益465億円(同+5.1%)だ。売上は増える一方、営業利益は4期連続の減益となる計画である。1Qの実績は売上高1,204億円、営業利益100億円、純利益135億円で、営業利益の進捗率は22.9%だった。
とはいえ、収益性の水準そのものは高い。2026年3月期の営業利益率は9.3%で、食料品業の中央値4.0%を大きく上回る。ROE(自己資本利益率)も7.5%と、業種中央値の6.8%を上回っている。減益が続いていても、業界の中では稼ぐ力の厚い部類に入る。
3. 利益の過半は海外が稼いでいる
減益の震源はどこにあるのか。2026年3月期のセグメント別業績を分解すると、答えははっきりする。
国内の日本セグメントは、売上高2,203億円(前期比▲5.8%)、営業利益276億円(同▲26.2%)と大きく落ち込んだ。一方で海外を見ると、アジア・オセアニアは売上高1,362億円(同+1.0%)、営業利益126億円(同+16.8%)と増益だった。
米州は売上高911億円(同▲0.8%)、営業利益237億円(同▲7.7%)と減益ながら、営業利益率は26.1%に達する。日本の12.6%の倍を超える水準だ。ヨーロッパは売上高126億円で、営業損益は▲0.91億円の小幅な赤字だった。
報告セグメントの営業利益を合計すると、海外3地域で5割超を稼いでいる計算になる。連結の減益は、その土台を支えてきた日本の落ち込みによるところが大きいと読み取れる。
ヤクルトは国内の乳酸菌飲料の会社だというイメージは、ブランドの成り立ちとしては正しい。しかし利益の構成で見れば、すでに海外が主役の会社になっている。国内の減益と株価の上昇が同時に起きたのも、市場が海外の稼ぐ力に目を向けているからだと考えると筋が通る。
4. 筆者コメント
同社の地域別の数字を眺めると、株価と業績のずれには一つの説明が見えてくる。
連結の減益は、主に国内の落ち込みから来ている。一方で、利益の半分以上を生む海外は、地域ごとに濃淡はあっても大きく崩れてはいない。市場は連結の減益という見出しよりも、海外が稼ぐという構造の変わらなさを評価していた可能性がある。
ただし、これは裏を返せば、株価の支えが海外の稼ぐ力という一本の柱に寄っていることも意味する。国内の立て直しが遅れるほど、海外の一挙手一投足に株価が敏感になりやすい。
私は、この会社を見るときに連結の増減率よりも、国内と海外の利益の比率がどう動くかに目を向けることをおすすめしたい。身近なブランドの印象とは別に、数字が示す会社の重心を押さえておくことが、値動きを読み違えない近道になるはずだ。
5. 米州に459億円。稼ぐ地域に資本を集める投資
海外の中でも、とりわけ目立つのが米州への投資だ。2026年3月期の米州セグメントの設備投資額は459億円で、同セグメントの減価償却費28億円の16倍にのぼる。
会社全体の設備投資額も808億円と、前期の496億円から大きく増えた。期末の建設仮勘定(完成前の設備への支出)は964億円で、前期の311億円から3倍に膨らんでいる。その多くが、まだ稼働していない設備への支出だと考えられる。
設備投資の中身は開示の数字だけでは分からないが、減価償却費を大きく上回る規模の投資は、将来の供給力を先回りして積み上げる動きと読むのが自然だろう。営業利益率26.1%と最も利益率の高い地域に資本を集中させるのは、資本配分として筋の通った選択といえる。
一方で、日本セグメントの設備投資額は237億円、アジア・オセアニアは66億円だった。アジア・オセアニアはセグメント資産が2,972億円と最も大きいのに、投資額は相対的に小さい。投資の軸足が、明確に米州へ移っている様子がうかがえる。
6. 営業キャッシュフローは4割近く減り、投資が上回った
大型投資の裏側で、キャッシュフローの姿も変わってきた。2026年3月期の営業キャッシュフローは521億円で、前期の846億円から▲38.4%と大きく減った。
これに対し、設備投資額は808億円と営業キャッシュフローを上回った。投資キャッシュフローは▲390億円、財務キャッシュフローは▲446億円で、期末の現金は1,650億円と前期の1,931億円から減っている。稼いだ現金の範囲を超えて投資を進めた1年だったといえる。
借入金も増えた。期末の長期借入金は511億円で、前期の241億円から倍以上になっている。短期借入金も492億円ある。自己資本比率は66.4%と、食料品業の中央値60.5%を上回る厚さを保っているが、手元資金だけで投資を賄う段階からは一歩踏み出した。
これは必ずしも悪い変化ではない。自己資本の厚い会社が借入を活用して投資を進めれば、資本効率を高める余地が生まれる。負債をほとんど使わない財務が常に最適とは限らないのは、コーポレートファイナンスの基本でもある。
7. 資本効率の低下と、投資の回収が見える時期
気がかりなのは、資本効率の推移だ。ROEは2022年3月期に10.6%、2023年3月期に10.7%だったが、2024年3月期に9.7%、2025年3月期に8.1%、2026年3月期に7.5%と、3期続けて低下している。営業利益の減少と歩調を合わせた動きだ。
建設中の設備が稼働すれば、減価償却費が利益を押し下げる時期が来る。一方で、稼働した設備が売上と利益を生み始めれば、ROEは反転に向かうはずだ。2027年3月期の計画が増収なのに営業減益となっているのも、こうした投資の負担が先に立つ局面にあるためかもしれない。
つまりヤクルト本社は、投資の果実を収穫する前の、負担が先行する時期にいると考えられる。国内の立て直しと、米州投資の回収。この二つがそろったとき、利益と資本効率は初めて上向くのだろう。
8. 筆者コメント
業界の中での立ち位置に照らすと、ヤクルト本社は今もなお収益性の高い会社だ。ただ、その高さを保ちながら、中身を入れ替えている最中にあるように見える。
国内という成熟した土台から、海外という伸びしろのある土台へ。利益の重心が移るのに合わせて、現金の使い道も海外へと大きく振り向けられた。キャッシュフローが一時的に細るのは、その入れ替えのコストと捉えられる。
市場がこの減益を深刻に受け止めていないのは、この入れ替えを「衰え」ではなく「仕込み」と見ているからではないだろうか。株価の落ち着いた上昇は、その見立てを映しているようにも思える。
もっとも、仕込みはいずれ結果で答え合わせをされる。私は今後の決算で、米州の売上と利益が投資の規模に見合って伸びてくるかに注目したい。減益の数字に一喜一憂するより、投資の回収という時間軸で会社を見る姿勢をおすすめしたい。
参考資料
10. 免責事項
本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希