朝晩に秋の気配を感じる季節となりました。勤務時間や働き方が変わり、生活保護費への影響を確認したい方もいるでしょう。
生活保護は、働いていることだけを理由に対象外となる制度ではありません。給与などの収入があっても、世帯の収入認定額が最低生活費に満たなければ、原則として不足分が保護費として支給されます。
ただし、働きながら受けられる給与額に、全国一律の「月○万円まで」という基準はありません。本記事では、収入認定の計算方法と、給与額ごとの保護費の目安、給与から差し引かれる基礎控除などの仕組みを説明します。記事後半では、給与が月ごとに変わる場合の扱い、保護の停止と廃止の違い、収入申告で確認する資料を見ていきます。
※本記事は2026年9月時点で確認した2026年度の制度に基づいています。制度や金額は変更される可能性があります。実際の収入認定や保護の決定は、世帯の状況をもとに福祉事務所が行います。
1. 働きながら受けられる給与額に全国一律の上限はない
給与から基礎控除などを引いた収入認定額を最低生活費から差し引き、足りない分が保護費になる1/3
出所:厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」別表「基礎控除額表」をもとにLIMO編集部作成
結論として、生活保護を受けながら働ける給与額に、全国一律の上限はありません。保護の要否や支給額は、世帯ごとに算定する最低生活費と収入認定額を比べて決まるためです。
最低生活費は世帯ごとに異なり、給与以外の収入も世帯によって異なります。同じ給与額でも、生活保護を受けられる世帯と、保護費が0円になる世帯があります。
基本的な計算関係は、次のとおりです。
- 収入認定額=給与などの収入総額-必要経費-基礎控除など
- 保護費=最低生活費-収入認定額
「収入認定額」とは、福祉事務所が生活保護費を計算するときに、世帯の収入として扱う金額です。給与の額面や手取り額がそのまま収入認定額になるのではなく、給与などの収入から社会保険料、所得税、通勤費などの必要経費や基礎控除などを差し引いて求めます。
「保護費」とは、生活保護制度から支給・給付される額のことです。収入認定額が最低生活費を下回る場合は、原則として不足する額が保護費となります。ただし、保護費のすべてが本人の口座へ現金で振り込まれるわけではありません。医療扶助や介護扶助などは、原則として医療機関や介護事業者へ直接支払われます。
1.1 最低生活費の基準は国が定め、福祉事務所が世帯ごとに算定する
最低生活費の基準を定めるのは国(厚生労働大臣)です。その基準を使い、担当する福祉事務所が年齢、世帯人数、居住地域、家賃、各種加算などを確認して、世帯ごとの最低生活費を算定します。
本人が希望する金額や、実際に各家庭が支払った生活費の合計で決まるものではありません。公表されている基準からおおよその金額を試算することはできますが、正式な最低生活費と保護費は、福祉事務所が収入や資産、世帯状況などを調査したうえで決定し、書面で通知します。
主に、次の費用を世帯の状況に応じて組み合わせます。
- 食費、衣類、光熱水費などに対応する生活扶助
- 家賃などに対応する住宅扶助
- 子どもの学用品費などに対応する教育扶助
- 障害者世帯やひとり親世帯などに設けられる各種加算
- 必要に応じて認定される医療扶助や介護扶助など
生活扶助は年齢や世帯人数、居住地域などによって異なり、住宅扶助も地域や世帯人数などに応じた上限があります。
1.2 最低生活費を月12万円とした給与別の支給目安
全国一律の上限額はありませんが、給与と保護費の関係をイメージできるよう、その世帯に認定された最低生活費を月12万円と仮定して試算します。
ここでは、最低生活費が月12万円で、給与以外の収入がなく、世帯内で働く人が1人の場合を試算します。
※「給与のうち収入として扱われる額」が収入認定額です。社会保険料、所得税、通勤費などの必要経費は0円とし、新規就労控除や20歳未満控除は反映していません。世帯内で最も勤労収入が多い「1人目」の基礎控除を使用し、最低生活費12万円から収入認定額を差し引いた筆者試算です。
- 月の給与1万5000円:収入認定額0円、保護費の目安12万円
- 月の給与3万円:収入認定額1万3600円、保護費の目安10万6400円
- 月の給与6万円:収入認定額4万400円、保護費の目安7万9600円
- 月の給与9万円:収入認定額6万7600円、保護費の目安5万2400円
- 月の給与10万円:収入認定額7万6400円、保護費の目安4万3600円
- 月の給与12万円:収入認定額9万4400円、保護費の目安2万5600円
- 月の給与15万円:収入認定額12万1600円、保護費の目安0円
ただし、給与月15万円が全国共通の線引きになるわけではありません。最低生活費が月12万円より高い世帯では保護費を受け取れる場合があり、低い世帯では、より少ない給与で保護費が0円になる場合があります。必要経費や追加の控除があれば、収入認定額も変わります。
2. 給与額と収入認定額は同じではない
給与による収入は、基本給だけでなく、勤務地手当、家族手当、残業代などを含む収入総額から確認します。そのうえで、次のような費用や控除を反映します。
- 社会保険料
- 所得税
- 労働組合費
- 通勤費
- 給与額に応じた基礎控除
- 条件を満たす場合の新規就労控除や20歳未満控除
給与明細の総支給額、銀行口座への振込額、収入認定額は、それぞれ異なる場合があります。
3. 給与を受け取っても生活保護費が同額減るとは限らない
給与からは基礎控除などが差し引かれるため、給与が1万円増えても、保護費が1万円減るとは限りません。ここでは、控除の仕組みを順に見ていきます。
3.1 給与月1万5000円以下は生活保護費の計算上、収入として扱われない
勤労収入には、給与額に応じた基礎控除があります。2026年度時点の基礎控除額表では、世帯内で最も勤労収入が多い方について、月1万5000円以下の給与は全額が基礎控除となります。
月1万5000円を超える場合も、給与額に応じた基礎控除があります。月1万5000円を超えたことだけで、生活保護が終了するわけではありません。
給与額ごとの基礎控除と収入認定額は、第1章の一覧で確認できます。世帯内に給与を得ている方が複数いる場合は、最も収入が多い方に「1人目」の控除額を使い、ほかの方には「2人目以降」の控除額を使います。
なお、厚生労働省の実施要領には、知人や近隣から受け取る臨時的な報酬など、少額かつ不安定な稼働収入についても月1万5000円の基準があります。通常の給与に対する基礎控除とは別の取扱いであるため、「収入はすべて月1万5000円まで認定されない」とは限りません。
3.2 新規就労控除と20歳未満控除は条件を満たす場合に適用される
基礎控除のほかに、一定の条件を満たす方には次の控除があります。
- 新規就労控除:中学校・高等学校等を卒業した方や、入院などの事情でおおむね3年以上働けなかった方が、継続性のある仕事に就き、収入を得るための特別な経費が必要な場合に月額1万2900円
- 20歳未満控除:就労している20歳未満の方に月額1万1900円。ただし、単身者や、配偶者または自分の未成熟の子などと独立した世帯を営む場合は対象外です。
いずれも、働いている方全員に一律で適用される控除ではありません。新規就労控除の適用期間は、初めて継続性のある仕事に就いた月から6か月間です。対象となるかは、雇用状況などをもとに福祉事務所が確認します。
4. 生活保護の給与は、収入認定額と最低生活費の差で決まる
働きながら生活保護を受けられる給与額に、全国一律の上限はありません。給与から必要経費や基礎控除などを差し引いた収入認定額と、世帯ごとの最低生活費を比較して判断します。
給与月1万5000円以下は全額が基礎控除となり、それを超えても給与額に応じた基礎控除があるため、給与が増えた分だけ保護費が減るとは限りません。各窓口や公式サイトで最新情報を確認のうえ、手続きを進めてみてください。
ここからは、収入を申告するときに提出する資料と、給与が増えた月に保護の停止・廃止がどう判断されるかを確認します。