フリーランスや個人事業主として働きながら、青色申告で本業の確定申告をこなしつつ、余裕資金を株式投資に回している方は少なくありません。

本業の売上が伸び、株式投資の利益もまとまってくると、「そろそろ法人化した方が節税になるのでは」と考え始めるタイミングが訪れます。

ですが、個人事業主の株式投資と、法人が行う株式投資とでは、税金の計算のしくみそのものが違います。この違いを知らずに法人化すると、期待した節税効果が得られないばかりか、かえって税負担が増えるケースもあります。

1. 個人事業主が株で稼いでも、それは「事業所得」にはならない

まず押さえておきたいのが、個人事業主が本業の傍らで行う株式投資の利益は、本業の「事業所得」とは別の所得区分で計算されるという基本です。

1.1 株式の利益は原則「譲渡所得」「配当所得」

国税庁タックスアンサーNo.1463では、上場株式等の譲渡による所得について次のように説明しています。

株式等の譲渡による事業所得の金額、譲渡所得の金額および雑所得の金額は、「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」となります。

出典:国税庁タックスアンサー「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」

ポイントは「事業所得の金額」という言葉が入っている点です。売買の頻度や規模によっては、株の利益が事業所得や雑所得と判定されることもあります。

ただし判定がどうであれ、株式等の譲渡から生じる部分は、本業の所得とは区分して税率20.315%の申告分離課税がかかる、という結論は変わりません。

下村 美乃莉
個人事業主が本業の傍らで行う株式投資の利益は、本業の「事業所得」とは別の所得区分で計算される―区分が違うと最初に知っておくだけで、申告直前に慌てる場面はぐっと減るはずです。

本業の確定申告がどのラインから必要になるかは、給与所得者とは基準が異なる部分もあります(株式投資の確定申告が必要になるラインで詳しく整理しています)。

2. 「本業の赤字」と「株の利益」はなぜ相殺できないのか

個人事業主ならではの誤解が生まれやすいのが、本業の赤字と株の利益の関係です。

2.1 事業所得の赤字は株の利益を消してくれない

「今年は本業が赤字だったから、株で儲けが出ても税金はかからないはず」と考える方がいますが、これは正しくありません。

国税庁タックスアンサーNo.1474では、上場株式等の譲渡損失について、損益通算できる相手を次のように限定しています。

上場株式等に係る譲渡損失の金額は、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額と損益通算することができます。

出典:国税庁タックスアンサー「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」

通算できる相手は「上場株式等の配当・利子」に限られます。事業所得の赤字や、給与所得・不動産所得とは通算できません。

つまり個人事業主の場合、本業がどれほど赤字でも、株の利益にはその赤字と関係なく20.315%の税金がかかります。逆に株で損失が出ても、本業の黒字を圧縮する効果はありません。

個人事業主の損益通算できる組み合わせ・できない組み合わせ

前提条件:個人(居住者)が上場株式等を申告分離課税で確定申告する場合
組み合わせ 損益通算
上場株式等の譲渡損失 × 上場株式等の配当・利子所得 できる
上場株式等の譲渡損失 × 事業所得の黒字 できない
事業所得の赤字 × 上場株式等の譲渡益 できない
上場株式等の譲渡損失 × 一般株式等(非上場)の譲渡益 できない

出所:国税庁タックスアンサー「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」などを基にLIMO編集部作成

2.2 【個人事業主の損益通算できる組み合わせ・できない組み合わせ】

通算できる組み合わせ

  • 上場株式等の譲渡損失:上場株式等の配当・利子所得と通算できる

通算できない組み合わせ

  • 上場株式等の譲渡損失:事業所得の黒字と通算できない
  • 事業所得の赤字:上場株式等の譲渡益と通算できない
  • 上場株式等の譲渡損失:一般株式等(非上場)の譲渡益と通算できない

この区分をまたいだ通算ができない構造は、事業所得について青色申告特別控除を受けている方でも変わりません。

国税庁タックスアンサーNo.2070では、青色申告ができる所得を次の3つに限定しています。

青色申告をすることができる方は、不動産所得、事業所得、山林所得のある方です。

出典:国税庁タックスアンサー「No.2070 青色申告制度」

株式の譲渡所得はこの3区分に含まれません。事業所得で65万円控除を受けていても、株の利益にその控除は及ばず、区分ごとに別々の計算が続きます。

3. 【編集者の視点】

本業の赤字と株の利益が相殺できないという構造は、確定申告の時期に「思っていたより税金が引かれる」と感じる原因のひとつです。

特に開業したばかりで本業が赤字気味の個人事業主ほど、この誤解に陥りやすい傾向があります。赤字だから今年は非課税、という思い込みで納税資金を確保していないと、申告期限の直前になって慌てることになりかねません。

防衛策は単純です。株式投資の利益と本業の事業所得は、最初から別の財布として扱い、それぞれの納税額を別々に見積もっておくことです。

特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、株の利益からは売却の都度20.315%が源泉徴収されるため、確定申告をしなくても納税は完結します。ただし損失が出た年に繰越控除を使いたい場合は、確定申告が別途必要になります(株式投資の損益通算・繰越控除の手続きで詳しく解説しています)。

本業の資金繰りと株式投資の納税資金は、口座も含めて分けて管理しておくと、確定申告の時期に慌てずに済みます。迷ったときは、税理士や税務署の窓口で自分のケースを具体的に確認してみてください。

4. 法人化すると株の損益の扱いが一変する

では、株式投資を法人(資産管理会社やマイクロ法人)で行うとどうなるのでしょうか。個人とは根本的にルールが変わります。

4.1 有価証券の損益は法人の所得に合算される

法人税法第61条の2第1項では、法人が有価証券を譲渡した場合の扱いを次のように定めています。

内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。

出典:e-Gov法令検索「法人税法」第61条の2

個人の株式譲渡が他の所得と「区分」されるのとは対照的に、法人の株式売却損益は本業の利益や損失と同じ土俵で合算されます。

つまり法人であれば、本業が赤字の年に株で利益が出た場合、その利益は本業の赤字と相殺され、法人税がかからない、ということが起こり得ます。個人の構造とはここが真逆です。

4.2 欠損金の繰越期間も個人より長い

損失を翌年以降に繰り越せる期間にも差があります。個人の上場株式等の譲渡損失は最大3年間の繰越控除ですが、法人税法第57条第1項は次のように定めています。

内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

出典:e-Gov法令検索「法人税法」第57条

法人の欠損金は最大10年間繰り越せます。個人の3年間より7年長く、大きな損失を出した年があっても、その後の黒字と長期間にわたって相殺しやすくなります。

下村 美乃莉
同じ「株の損失」という言葉なのに、個人と法人でここまで扱いが違うとは、私自身も条文を調べるまで正確には理解できていませんでした。仕組みの違いを一つ知るだけで、見えていた景色がまるで変わってくるものです。

5. 法人化は本当に「節税」になるのか、実効税率で編集部試算

損益通算の柔軟性だけを見ると、法人化は魅力的に映ります。ただし税率そのものを比べると、話は単純ではありません。

5.1 税率だけで見ると法人の方が重くなることもある

個人の株式譲渡益・配当への税率は20.315%で一定です。一方、財務省が公表する法人実効税率は、2018年度以降29.74%とされています。

資本金1億円以下の中小法人は、年800万円以下の所得に軽減税率15%が適用されますが、その部分を超えた所得には標準税率がかかります。

資本金1億円を超える大法人には、この軽減税率自体が適用されず、所得の全額に標準税率がかかります。株式投資のための資産管理会社は資本金を抑えて設立するのが一般的なため、多くの場合は中小法人の軽減税率の対象になります。

800万円を超えた部分の利益が300万円だったケースで、個人と法人の税額を編集部で試算してみました。

個人と法人、800万円超の利益300万円分にかかる税額の比較

前提条件:個人は上場株式等の申告分離課税(20.315%)、法人は財務省公表の実効税率(29.74%、2018年度以降)を適用した編集部試算
区分 適用税率 300万円分の税額
個人(申告分離課税) 20.315% 60万9450円
法人(実効税率) 29.74% 89万2200円

出所:国税庁タックスアンサー「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」、財務省「法人課税に関する基本的な資料」を基にLIMO編集部試算

5.2 【800万円超の利益300万円分にかかる税額】

個人(申告分離課税)の場合

  • 税率:20.315%
  • 税額:60万9450円

法人(実効税率)の場合

  • 税率:29.74%
  • 税額:89万2200円

差額は28万2750円です。軽減税率の範囲を超えた利益に対しては、法人の方が税負担が重くなる計算になります。

なお、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛費の財源確保を目的とした「防衛特別法人税」が新設され、法人税額に4%相当が上乗せされるとされています。財務省の資料では、これを反映した実効税率は30.64%とされています。

もっとも、この上乗せには法人税額ベースで年500万円の基礎控除があるとされ、株式投資を目的とした小規模な資産管理会社では、対象になるケースは多くないと考えられます。数字だけで「増税」と身構える前に、自社の規模で該当するかを税理士に確認してみるとよいでしょう。

6. 【編集者の視点】

「法人化すれば節税になる」という話は広く聞かれますが、税率だけを見ると必ずしもそうとは限りません。この試算が示すように、利益規模によっては法人の方が税負担が重くなる場面もあります。

法人化のメリットは、税率の低さではなく、損益通算の範囲の広さと欠損金の繰越期間の長さにあります。本業と株式投資の損益を合算でき、大きな損失を10年かけて解消できる柔軟性は、個人にはない強みです。

裏を返せば、本業も株式投資も安定して黒字が続いている個人事業主にとっては、法人化によって損益通算のメリットを活かす場面自体が少なく、税率の高さだけが重くのしかかる可能性があります。

法人化を検討する際は、設立費用や社会保険料の負担増、毎年の申告実務の増加といったコストも合わせて考える必要があります。単純な税率比較だけで判断せず、自分の事業と投資の損益の波、そして今後数年の見通しまで含めて、税理士に相談しながら決めることをおすすめします。

「儲かってきたから法人化」という発想を一度立ち止まらせ、何を目的に法人化するのかを明確にすることが、後悔しない選択につながります。

7. NISAが使えなくなる、法人化の見落とされがちな代償

法人化を検討する際、税率の比較以上に見落とされがちなのが、非課税制度が使えなくなるという点です。

7.1 NISAは個人専用の制度

金融庁のNISA特設ウェブサイトでは、口座を開設できる対象を次のように案内しています。

日本国内に住んでいる18歳以上の方ならどなたでも開設できます。

出典:金融庁NISA特設ウェブサイト「NISAを知る」

NISAは「18歳以上の方」、つまり個人を対象とした制度です。法人名義でNISA口座を開設する仕組みは存在しません。

個人のうちは非課税で運用できていた株式投資も、法人名義に切り替えた瞬間から、すべて課税口座での取引に変わります。年間の非課税枠や生涯の非課税保有限度額といったメリットは、法人には一切適用されません。

証券口座の種類やNISAの枠組みそのものについては、株式投資の始め方で基礎から整理しています。

下村 美乃莉
私自身、新NISAで投資信託の積立を続けている身なので、非課税で運用できる安心感を手放す重さは、実感としてよく分かります。法人化は後戻りしにくい決断でもあるからこそ、勢いだけで踏み出さずに立ち止まる価値があると感じます。

マイクロ法人という言葉から「投資も法人でまとめれば効率的」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、NISAという個人だけの非課税制度を手放すことになる点は、事前に必ず織り込んでおきたいポイントです。

下村 美乃莉
税率、損益通算、NISA。どれか一つの数字だけを見て決めるのではなく、全体のバランスで考える。遠回りのように見えて、実はそれが一番の近道なのだと、制度をひとつずつ調べるたびに、あらためて実感しています。数字の裏側まで見ておきたいものです。

※本記事は、編集部が国税庁・財務省・金融庁・e-Gov法令検索の公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

8. まとめ

  • 個人事業主の株式投資による利益は、事業所得と判定されても本業とは区分して20.315%の申告分離課税がかかります。
  • 本業の事業所得の赤字と、株式の譲渡益・配当は損益通算できません。逆に株の損失も本業の黒字を圧縮しません。
  • 法人が株式を売買した場合の損益は、本業の利益・損失と合算され、欠損金は最大10年間繰り越せます。
  • 法人実効税率は29.74%(2026年4月以降の一定規模の法人は30.64%)で、個人の20.315%より高くなる場面があります。
  • NISAは18歳以上の個人向け制度で、法人名義では利用できません。

個人事業主の株式投資と、法人化したあとの株式投資は、税率も損益通算のルールも別物です。どちらが得かは、本業と投資の損益の波、利益の規模によって変わります。

「法人化すれば節税になる」という単純な発想ではなく、自分の事業と投資の実態に照らして、税理士に相談しながら判断することが、後悔しない一歩につながります。

9. よくある質問

9.1 Q. 個人事業主が株で得た利益は、確定申告書のどこに書けばいいですか?

A. 特定口座(源泉徴収あり)のみで取引している場合は申告不要ですが、繰越控除を使う場合などは確定申告書第三表(分離課税用)に、本業の事業所得とは別枠で記載します。具体的な記載方法は税務署や税理士に確認してください。

9.2 Q. 法人化すれば株の損失で法人税をゼロにできますか?

A. 株式の譲渡損失は法人の他の所得と合算されるため、本業の利益を圧縮する効果はあります。ただし法人税がゼロになるかどうかは、その事業年度の所得全体の状況によります。使いきれなかった損失は欠損金として最大10年間繰り越し、翌年以降の黒字と相殺することもできます。

9.3 Q. マイクロ法人で株式投資をするのは得ですか?

A. 損益通算の範囲が広がるという利点はありますが、NISAが使えなくなる点や、税率が個人より高くなる場面がある点は見落とせません。設立費用や毎年の税務申告の手間、社会保険料の負担増といったコストもあわせて考える必要があります。

9.4 Q. 個人事業主の株式投資は青色申告特別控除の対象になりますか?

A. なりません。青色申告特別控除の対象は不動産所得・事業所得・山林所得に限られ、株式の譲渡所得はこの3区分に含まれないためです。

参考資料

LIMO編集部ウェルスマネジメント班