韓国のサムスンディスプレー(SDC)は、次世代テレビ用パネルとして量子ドット有機EL「QD-OLED」を量産するため、忠清南道牙山キャンパスで2025年までに生産設備の構築と研究開発に総額13.1兆ウォンを投資する計画を発表した。中国メーカーの大規模投資によって供給過剰と価格下落が進む液晶パネルとの競合を回避し、次世代ディスプレーの実用化で競争力を再び高める考えだ。

既存液晶ラインを転換して量産

 本件によって、SDCは牙山1キャンパスにQD-OLEDの量産ライン「Q1」を構築し、8.5世代(2200×2500mm)マザーガラスで当初月産3万枚の生産体制を整備して、21年から量産を開始する。65インチ以上のQD-OLEDを生産する予定で、25年までに生産能力を段階的に拡大していく。

 Q1は、既存の液晶パネル生産ライン「L8-1」を転換して整備し、さらなる量産拡大に応じて「L8-2」「L7-2」といった既存液晶ラインをQD-OLEDに転換することも視野に入れる。一連の投資によって約8.1万人の新規雇用が生み出されると期待している。

 並行して、サプライチェーンの安定化、源泉技術の内在化、部品競争力の向上、新技術の海外流出防止といった観点から、韓国の素材・部品・装置メーカーとの協業を強化する。量産技術を確保するため、インクジェットプリンティング装置、新規材料開発などに向けて韓国メーカーとのパートナーシップも拡大していく。さらに、韓国のディスプレー専門人材を育成するため、国内の大学と「ディスプレイ研究センター」を設立するなど、産学協力も強化する予定だ。

製造コストのさらなる低減が課題

 QD-OLEDは、青色に発光する有機EL層の上に、青色光で励起され赤と緑を発色する量子ドット(QD)層を重ね、さらにその上にRGBのカラーフィルターを配置した構造を持つ。テレビ用有機ELパネルは、すでに韓国のLGディスプレー(LGD)がボトムエミッション構造のWOLED方式で大量生産しているが、QD-OLEDはQD層が新たに必要になるため、構造的にWOLEDより製造コストが高くなるといわれている。

 QD-OLEDを価格競争力のあるテレビ用パネルとして量産するには、QD層を低コストに製造する技術に加えて、QD層を高効率に励起できる光出力の高い青色有機EL発光層の製造技術の実現もカギを握る。これまでのSDCの技術発表によると、光出力を高めるため青色有機EL発光層を3層あるいは2層重ねた構造を検討しているが、製造コストを低減するには層数をできるだけ少なくしたいため、高効率な青色有機EL発光材料の実用化も重要なカギを握っている。

 青色有機EL発光材料に向け、SDCはKyulux(福岡市)や独CynoraといったTADF(熱活性化遅延蛍光)材料メーカーに出資し、共同開発を進めている。

能力削減で需給バランスも改善へ

 調査会社のDSCC(Display Supply Chain Consultants)によると、SDCとLGDが韓国で進めるテレビ用液晶パネルの生産能力削減によって、20年上期にかけて液晶パネルの需給バランスが調整され、液晶パネル価格の反転・上昇につながっていく見込み。

 DSCCでは、韓国2社の8.5世代液晶ラインの再編で、中国で10.5世代液晶ラインの立ち上げが進んだとしても、19年7~9月期から20年1~3月期までテレビ用液晶パネルの生産能力は横ばいの状態が続くとみている。この結果、20年のテレビ用液晶パネルの需要面積が前年比7%増と見込まれるのに対し、マザーガラス投入能力の増加率は3.6%にとどまるため、20年には液晶パネル生産工場稼働率は現状の80%台から90%まで回復していくことが見込まれるという。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏