5. 大幅減益で着地した通期と、様変わりした1Qの利益水準
2026年3月期通期は、売上収益10兆632億円で前期比+15.7%。一方で営業利益は2,429億円と▲55.7%、親会社の所有者に帰属する当期利益は171億円で▲95.1%だった。ROE(自己資本利益率)は0.3%まで沈んでいる。
なぜここまで落ちたのか。会社の説明によると、当期は世界の鉄鋼事業環境が危機的な状況で推移した。中国では経済減速による需給ギャップの拡大を背景に過剰生産が続き、それに伴う安価な鋼材の輸出増加が国際市況の低迷を招いた。各国・地域で通商措置が発動され、日本国内への輸出圧力がさらに高まったという。
同社は、生産設備の構造対策による固定費削減、紐付き価格の是正、品種の高度化を通じた限界利益の引き上げによって損益分岐点を抜本的に下げてきたとしている。そのうえで、世界の同業他社と比べて相対的に高水準の収益力を維持していると認識している、とも述べている。
そして2027年3月期1Qは景色が変わった。売上収益は2兆8,211億円で前年同期比+40.4%、営業利益は1,455億円で+58.1%となっている。売上収益の伸び幅の大きさには、買収した会社が期を通じて連結に乗ってきた影響が相応に含まれていると考えられる。
通期予想も強気だ。売上収益11兆2,000億円(+11.3%)、営業利益6,300億円(+22.5%)、当期利益2,900億円を見込む。5月の本決算時点の営業利益予想は5,300億円だったので、3か月で1,000億円引き上げたことになる。1Qの営業利益1,455億円は、この通期予想に対して23%程度の進捗だ。
6. 鉄鋼35社の中で、この財務はどこに立っているのか
数字の重さは、単体で眺めても掴みにくい。同じ業種の会社と並べると輪郭が出る。
2026年3月期の鉄鋼業種35社では、自己資本比率の中央値が61.3%、D/E比率(負債と自己資本の比率)の中央値が0.145だ。ROEの中央値は4.8%、営業利益率の中央値は4.7%となっている。
これに対して日本製鉄の自己資本比率は37.7%。中央値から23.6ポイントも下にある。同期のROEは0.3%、営業利益率は2.4%で、いずれも中央値を下回った。国内最大手という響きから想像される「業種の平均より安全で、業種の平均より稼ぐ会社」という像とは、直近1期の数字はかなり違う姿を見せている。
ただし、これは買収の直後という特殊な期を切り取った断面でもある。仮に通期予想どおり売上収益11兆2,000億円・営業利益6,300億円で着地すれば、営業利益率は5.6%程度となり、業種中央値の4.7%を上回る計算になる。
資本構成の是非は、そこまで見てから判断すべきものだろう。レバレッジを効かせた会社を評価する物差しは、負債の大きさそのものではなく、その負債で買った資産の稼ぎだ。次の決算では、そこを確かめる視点を持っておきたい。
7. 筆者コメント
鉄鋼という業種の中での立ち位置に照らすと、この会社の現在地は少し変わって見えてくる。自己資本比率は業種の真ん中から20ポイント以上下にあり、直近1期の収益性も中央値に届いていない。数字だけを並べれば、業種内で最も苦しい側にいるように読める。
だが同じ数字は、業種内で最も大きく賭けた会社の姿でもある。他社が守りを固めているあいだに、この会社は資産を1.3倍に増やした。同業が横並びで縮んでいく局面で、ひとりだけ膨らむという選択をしたわけだ。
この差が効いてくるかどうかは、通商環境の行方と、買った資産をどこまで使いこなせるかにかかる。少なくとも、鉄鋼株をひとまとめに「市況で上下する重い株」として扱う整理は、この銘柄には当てはまりにくくなった。
決算を見るときは、営業利益の絶対額よりも、増えた資産に対する利益の比率を追いかけてほしい。総資産14兆6,605億円という土台に見合う稼ぎが出せるのか。そこが、この会社を読む物差しになる。
参考資料
9. 免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
石津 大希