訪問介護やデイサービスを使っていると、「ついでに庭の草むしりも頼めないか」「通院の後、少し買い物に付き合ってほしい」と考える場面があります。こうした介護保険の対象外の頼み事は、実は「介護保険外サービス」という名前が付いた、明確なルールのある仕組みです。
この記事では、介護保険サービスと保険外サービスの境目がどこにあるのか、厚生労働省の通知にもとづいて整理します。あわせて、2026年5月に厚労省が公表したばかりの「保険外サービス活用の手引き」の内容や、実際にかかる費用の目安まで確認していきます。
1. 「介護保険外サービス」とは何か——訪問介護・デイサービスの「保険内」との境界線
まず、介護保険サービスと保険外サービスがどう区別されているのか、基本の枠組みを確認しましょう。
1.1 介護保険が対象にする範囲は法律で決まっている
訪問介護であれば、入浴・排せつ・食事などの「身体介護」と、掃除・調理・買い物代行などの「生活援助」が介護保険の対象です。デイサービス(通所介護)も、入浴・排せつ・食事の介護、健康状態の確認、機能訓練などに範囲が定められています。
これらの範囲を超えるサービス、たとえば同居家族のための家事や、ペットの世話、庭の手入れなどは、介護保険給付の対象にならない「保険外サービス」に区分されます。
1.2 保険外サービスは「全額自己負担」だが違法ではない
厚生労働省は、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供すること自体は、一定のルールの下で認めています。2018年9月28日付の通知「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」で、その具体的な条件が示されています。
つまり、保険外サービスは「グレーな裏メニュー」ではなく、条件さえ満たせば事業者が正式に提供できる仕組みとして国が整理しているものです。
2. 自己負担1〜3割の介護保険サービスと、全額自己負担の保険外サービスの違い
負担割合の違いを具体的な費用感で見てみましょう。介護保険サービスは所得に応じて1〜3割負担ですが、保険外サービスは原則として利用者が全額を負担します。
2.1 【介護保険サービスと保険外サービスの負担の違い】
前提条件:訪問介護を例に、現行の厚生労働省通知にもとづき整理1/2
出所:厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(2018年9月28日付通知)などを基にLIMO編集部作成
介護保険サービスの場合
- 自己負担割合:1〜3割
- 対象になる例:身体介護、生活援助(本人分の掃除・調理等)
保険外サービスの場合
- 自己負担割合:全額(10割)
- 対象になる例:同居家族分の家事、ペットの世話、外出時の同行等
組み合わせて提供する場合
- 自己負担割合:各サービスごとに区分計算
- 対象になる例:訪問介護の前後に保険外サービスを連続して実施
3. 厚労省が「認めていない」上乗せ料金がある——指名料・時間指定料の規制
保険外サービスというと「事業者が自由に料金を決められる」と思われがちですが、実は厚労省がはっきりと禁止している上乗せ料金があります。
3.1 特定のヘルパーの「指名料」、繁忙時間帯の「時間指定料」は認められていない
2018年の厚労省通知では、特定の介護職員による介護を受けるための「指名料」や、繁忙期・繁忙時間帯にサービスを受けるための「時間指定料」を、利用者の自費負担として上乗せ徴収することを認めていません。
理由として、指名料・時間指定料を支払える利用者へのサービス提供が優先されると、社会保険制度として求められる公平性を確保できなくなるおそれがある、と通知は指摘しています。
3.2 「便利だから」という理由だけの上乗せも想定されていない
通知はさらに、介護保険サービスと保険外サービスを同時一体的に提供すること自体、単なる生活支援の利便性の観点から行うと、自立支援・重度化防止という介護保険本来の目的にそぐわないサービス提供を助長するおそれがある、としています。
4. 【編集者の視点】
「お金を払えば優先的に来てもらえる」「指名料を払えば同じヘルパーさんに毎回頼める」——こうした発想は自然に思えますが、厚労省の通知が明確に想定していないと書いている点は見落とされがちです。
背景には、介護保険が「支払える人が優先されるサービス」になってしまわないようにする、という公平性への配慮があります。実際にケアマネジャーや事業者と相談する場面で、この規制の存在を知っているかどうかで、要求できる内容の見極め方が変わってきます。
保険外サービスの契約を結ぶ際は、料金設定が「指名料」「時間指定料」といった名目になっていないか、契約書面の記載を確認しておくとよいでしょう。曖昧な名目で高額な上乗せを求められた場合は、地域包括支援センターや自治体の介護保険担当窓口に相談する選択肢があります。
5. デイサービス(通所介護)は「保険内と保険外を同時提供できない」という原則
訪問介護と通所介護(デイサービス)では、保険外サービスの扱い方に違いがあります。
5.1 通所介護は「その場で保険内・保険外を区分すること」が原則できない
厚労省通知によると、通所介護事業所内で利用者に提供されるサービスは、通所介護としての内容と保険外サービスとしての内容を区分することが、基本的には困難だとされています。そのため、原則として保険外サービスとして別料金を徴収することは適当ではないとされています。
例外として認められているのは、理美容サービスや健康診断・予防接種などの「巡回健診等」、利用者個人の希望による外出の同行支援、物販・移動販売、買い物等代行サービスの4つです。これらは通所介護と明確に区分できるとされ、一旦通所介護を中断したうえで提供することが可能です。
この4つの例外に該当しないサービス、たとえば通所中の特別な食事の提供などを「保険外オプション」として別料金で提供することは、想定されていません(介護費用は総額いくらかかる?一時費用・月額・期間の試算で介護費用全体の内訳を解説しています)。
6. デイサービスで例外的に認められている4つの保険外サービスとは
先ほど、通所介護(デイサービス)では保険内と保険外を同時に区分提供することが原則できないと説明しました。ただし、厚労省通知はこの原則に4つの例外を設けています。どんなサービスが該当するのか、詳しく見てみましょう。
6.1 【通所介護で例外的に保険外サービスの提供が認められる4区分】
前提条件:厚生労働省通知が定める、通所介護と明確に区分可能とされる保険外サービスの類型2/2
出所:厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」を基にLIMO編集部作成
理美容・巡回健診等の場合
- 内容:事業所内での理美容サービス、健康診断、予防接種
- 提供のしかた:通所介護を一旦中断して提供
外出の同行支援の場合
- 内容:利用者個人の希望による外出への個別同行
- 提供のしかた:通所介護を一旦中断して提供
物販・移動販売の場合
- 内容:日用品や食料品等の販売、レンタルサービス
- 提供のしかた:運営規程を通所介護とは別に定めて提供
買い物等代行の場合
- 内容:利用者に代わって買い物を行うサービス
- 提供のしかた:通所介護の会計と区分して費用請求
6.2 理美容サービスは特に利用実績が多い例外
この4区分のうち、理美容サービスは古くから認められてきた代表例です。2002年の事務連絡でも、デイサービスセンター等で通所サービスとは別に、利用者の自己負担により理美容サービスを受けられることが示されています。なお通所介護の提供時間には、理美容に要した時間を含めない整理もあわせて示されています。
6.3 訪問介護と比べて、デイサービスの保険外サービスは選択肢が限られる
訪問介護であれば、草むしりや同居家族の家事など幅広い保険外サービスを組み合わせられますが、デイサービスは前述の4区分に限られます。これは、通所介護事業所内でのサービス提供は、保険内と保険外の切り分けがその場では困難だという事情によるものです。
保険外サービスを希望する場合、訪問介護とデイサービスのどちらを利用しているかによって、頼めることの幅が大きく変わる点を押さえておくとよいでしょう。
実際の家事代行サービスの料金相場は、事業者や地域によって幅がありますが、1時間あたりおおむね2000円台から4000円程度が目安とされています。定期契約か都度依頼かでも単価が変わるため、複数の事業者で見積もりを比較することが大切です。
7. 2026年5月、厚労省がケアマネ向けに「保険外サービス活用の手引き」を新設した背景
2026年5月11日、厚生労働省老健局は「介護保険最新情報Vol.1503」として、「保険外サービス活用推進等に関する調査研究事業」の報告書を都道府県・市町村の介護保険担当課に情報提供しました。
7.1 ケアマネジャーが保険外サービスを紹介しやすくするための手引き
この報告書は、保険外サービスを情報提供する際の基本的なステップやステップごとの留意点をまとめた手引き・ポイント集です。実施主体である株式会社日本総合研究所のホームページで公開されています。
報道各社の解説によれば、生活支援・配食・移動支援・訪問理美容の4分野について、ケアマネジャーが利用者・家族に情報提供する際の比較軸を整理した内容とされています。この手引きは介護報酬改定や運営基準の改正を伴うものではなく、新たな法令上の義務を課す内容でもありません。
7.2 なぜ今、保険外サービスの「情報提供」が課題になっているか
これまで保険外サービスは、利用者や家族が自分で探して契約するのが基本でした。しかし、地域にどんな保険外サービスがあるか把握しづらく、ケアマネジャーが情報提供に踏み込みにくいという課題が指摘されてきました。今回の手引きは、この情報提供の負担を整理する狙いがあるとみられます。
8. 【編集者の視点】
2026年5月の手引き公表は、法改正のような大きなニュースにはなりにくいものですが、実務では意味の大きい動きです。ケアマネジャーが保険外サービスの情報提供に慎重だった背景には、責任の所在が曖昧になることへの懸念があったとみられます。
手引きが「比較軸」を整理したことで、今後はケアマネジャーから保険外サービスの選択肢を提示されるケースが増える可能性があります。逆に言えば、これまで保険外サービスの存在を知らされていなかった家庭ほど、担当のケアマネジャーに一度「保険外サービスの案内はありますか」と聞いてみる価値があります(介護保険料は40歳から天引き開始。自己負担割合の基本もあわせてご覧ください)。
9. 保険外サービスを使う前に確認すべき3つのポイント(契約書面・ケアマネ報告・会計区分)
最後に、実際に保険外サービスを利用する際、トラブルを避けるために確認しておきたいポイントを整理します。
9.1 ①契約書面で「介護保険サービスとは別事業」と明記されているか
厚労省通知は、保険外サービスの事業の目的・運営方針・利用料等を、介護保険サービスの運営規程とは別に定めることを事業者に求めています。契約時に、この点が書面で説明されているか確認しましょう。
9.2 ②担当のケアマネジャーに内容が共有されているか
通知では、契約の締結前後に、利用者の担当ケアマネジャーへサービスの内容や提供時間等を報告することも定められています。ケアマネジャーが保険外サービスの利用状況を把握していないケースは、報告が徹底されていない可能性があります。
9.3 ③会計・請求が介護保険サービスと明確に分かれているか
介護保険サービスの利用料とは別に費用が請求され、会計も区分されているかを確認します。請求書に「介護保険サービス」と「保険外サービス」の項目が混在している場合は、内訳を事業者に確認する価値があります。
10. まとめ
- 介護保険外サービスは、介護保険の対象範囲を超える部分を全額自己負担で利用する仕組みです。
- 厚労省は、特定の介護職員を指名する「指名料」や繁忙時間帯の「時間指定料」といった上乗せ料金を認めていません。
- 通所介護(デイサービス)は、理美容・巡回健診・外出同行・物販等の一部の例外を除き、原則として保険内と保険外を同時に区分提供できません。
保険外サービスは、正しく使えば介護の負担を軽くする有効な選択肢になります。ただし「何が保険内で、何が保険外か」という線引きを知らないまま使うと、想定外の高額請求や、規制されているはずの名目での上乗せ料金に気づけないおそれがあります。
利用を検討する際は、契約書面の内容、ケアマネジャーへの共有状況、会計の区分の3点を確認したうえで進めることをおすすめします。
11. よくある質問
11.1 Q. 介護保険外サービスとは具体的に何を指しますか
A. 介護保険の給付対象にならないサービス全般を指します。同居家族分の家事、ペットの世話、庭の手入れ、外出時の個人的な同行支援などが該当します。
11.2 Q. 保険外サービスの料金は誰が決めていますか
A. 事業者が独自に設定します。ただし、厚労省通知により、特定の介護職員を指名する「指名料」や、繁忙期・繁忙時間帯の「時間指定料」を上乗せすることは認められていません。
11.3 Q. デイサービス利用中に保険外サービスを頼むことはできますか
A. 原則として困難ですが、理美容サービス、巡回健診・予防接種、利用者本人の希望による外出同行、物販・移動販売、買い物等代行の4つは例外として認められています。
11.4 Q. 訪問介護の前後に保険外サービスを頼むことはできますか
A. 可能です。ただし、保険外サービスの内容・時間・料金について事業者から書面で説明を受け、同意することや、会計を訪問介護と区分することなど、厚労省が定める条件を満たす必要があります。
11.5 Q. 保険外サービスを頼んだら、ケアマネジャーに報告されますか
A. 厚労省通知では、契約の締結前後に担当のケアマネジャーへサービス内容や提供時間等を報告することが定められています。居宅サービス計画に記載されることもあります。
11.6 Q. 「保険外サービス活用の手引き」とは何ですか
A. 2026年5月に厚生労働省老健局が情報提供した報告書で、生活支援・配食・移動支援・訪問理美容の4分野について、ケアマネジャーが利用者に情報提供する際の比較軸を整理したものです。法令上の新たな義務を課すものではありません。
11.7 Q. 保険外サービスの費用はどのくらいかかりますか
A. 家事代行サービスなら、1時間あたり約2000円台〜4000円程度が目安です。事業者やサービス内容で幅があります。
参考資料
- 厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(2018年9月28日付通知)
- 厚生労働省老健局「介護保険最新情報Vol.1503 令和7年度老人保健健康増進等事業「保険外サービス活用推進等に関する調査研究事業」の報告書について」(2026年5月11日)
齊藤 慧
