5. 営業利益が4.3倍になった2026年3月期。戻りはどこから来たのか

2026年3月期の売上収益(IFRS)は2兆702億円で、前期の2兆144億円からの伸びは限定的だった。

ところが営業利益は1,181億円と前期の272億円から4.3倍、当期利益は1,409億円と前期の240億円から5.8倍に膨らんでいる。

売上がほぼ横ばいで利益が数倍になる形は、前期が異常に低かったことを意味する。実際、前期のROEは0.7%まで落ち込んでいた。

2026年3月期の営業利益率は5.7%。前期の1.4%からは大きく戻ったが、電気機器の業種中央値6.7%にはまだ届かない。この期の利益回復は平常への復帰であって、飛躍ではない。

もう一点、当期利益1,409億円が営業利益1,181億円を上回っている構図も見ておきたい。営業段階より下で利益が積み増されているということだ。金融収益は615億円にのぼり、保有資産が利益の側にも効いていることがうかがえる。

会社が示す2027年3月期の通期予想は、売上収益2兆800億円で+0.5%、営業利益1,600億円で+35.4%、当期利益1,600億円で+13.5%。増収幅は小さく、利益率の改善で伸ばす計画だ。

その予想に対し、2027年3月期1Qは売上収益5,253億円、営業利益491億円、当期利益605億円で着地した。営業利益の進捗率は3割、当期利益は4割弱で、いずれも線形の目安を上回っている。

6. 投資CFのプラス転換と2,000億円規模の自己株式。資本配分は動いたのか

2026年3月期のキャッシュフローには、これまでと違う形が現れている。

営業CFは2,262億円。ここは例年と大きく変わらない。変わったのは投資CFで、745億円のプラスになった。前期は1,504億円のマイナスだった。

投資CFがプラスに転じるのは、設備投資を上回る資産の回収があったときだ。政策保有株式の簿価合計が前期から400億円ほど減っていることと合わせれば、保有株式の一部売却が寄与した可能性は高い。

一方の財務CFは3,119億円のマイナス。前期の649億円から大幅に膨らんだ。自己株式の残高は3,429億円と、前期の1,429億円からおよそ2,000億円増えている。

発行済株式数も動いた。2026年3月期末の15億1,047万株に対し、2027年3月期1Q時点では14億1,910万株まで減っている。買い戻した株式を消却に回した動きと読める。

稼いだ資金と資産の回収を、自社株買いと消却へ振り向けた期だったということだ。配当性向は50.6%で、2027年3月期は1株当たり56円への増配を見込んでいる。

これを資本配分の転換と呼ぶには、まだ1期分の材料しかない。ただ、動かないと見られてきた資産の側が動き始めた時期は、株価が水準を切り上げた時期と重なっている。市場がそこを織り込みにいった可能性は考えられる。

7. 筆者コメント

京セラの見え方が変わろうとしているのが、直近の姿だ。

過去5期、この会社の資本構成はほとんど動かなかった。ROEが1%を切るところまで沈んだ期も、4%台に戻した期も、自己資本比率だけは同じ位置に置かれていた。動かない資産を抱えたまま、利益だけが上下する。それが長らくの京セラだった。

2026年3月期に起きたのは、その前提のわずかな緩みである。投資CFがプラスに転じ、自己株式が2,000億円規模で積み上がった。金額としては保有資産全体のごく一部にすぎない。それでも、向きとしては初めてのものだ。

市場が反応するのは、たいてい水準ではなく変化のほうである。株価が昨秋から切り上がってきた背景に、この向きの変化を読み取った参加者がいたとしても不思議はない。

ここから先に見ておきたいのは、金額よりも継続性だろう。1期限りの動きなのか、それとも資本配分の方針そのものが変わったのか。次の決算で確かめたい論点だ。

参考資料

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石津 大希