5. 営業利益が75%増えた2026年3月期。戻りの中身を分解する
2026年3月期は、数字が大きく動いた期だった。売上収益(IFRS)は1兆5,837億円で前期比+3.5%。ところが営業利益は1,994億円で+75.0%、当期利益は1,346億円で+91.7%と、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回っている。
増収率が1桁で増益率が2桁後半という並びは、たいてい前期に何かがあったことを意味する。
実際、前期の2025年3月期は減損損失を338億円計上していた。2026年3月期は84億円にとどまる。差し引き250億円強が、利益の戻りとして効いた格好だ。
売上総利益も見ておきたい。5,971億円で、売上収益に対する比率は37.7%。前期の36.0%から1.7ポイント改善している。粗利率の改善に前期の減損の剥落が重なれば、営業利益が7割超伸びることに不思議はない。
一方、会社が示す2027年3月期の見通しは強気一辺倒ではない。売上収益は1兆7,320億円で+9.4%と伸びる想定だが、当期利益は1,235億円で▲8.3%の減益予想となっている。増収減益の計画だ。
その通期予想に対し、2027年3月期1Qの当期利益は364億円。進捗率は3割弱で、数字としては計画線上にある。
増収を見込みながら利益は減らす計画を置く会社は、費用の先行や前期の一過性要因の剥落を織り込んでいることが多い。2026年3月期の利益急回復に戻り分が含まれていた、という見方とは整合的だろう。
6. ROE17.7%は何によって作られたのか
資本効率の指標も大きく動いた。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は17.7%。前期は9.0%だった。食料品の業種中央値は6.7%なので、中央値の2.6倍という水準になる。
ただ、この数字を額面どおり受け取る前に、分母を見ておきたい。自己資本比率は42.5%で、食料品の業種中央値60.8%を大きく下回る。味の素は同業の標準より負債を使っている会社だ。
レバレッジが効いていれば、同じ利益でもROEは高く出る。17.7%のうち、どこまでが事業の収益力で、どこからが資本構成の作用なのか。ここは切り分けて見ておきたいところだ。
もっとも、負債を使うこと自体は責められる話ではない。手元資金を遊ばせ、自己資本だけを厚く積み上げる財務が資本効率の観点で最適とは限らない。味の素の資本構成は、少なくとも効率を意識して組まれているとみえる。
還元面でも動きがあった。2026年3月期の配当性向は34.7%で、食料品の業種中央値36.2%とほぼ並ぶ。自己株式の残高は673億円と、前期の326億円から増えた。利益の戻りを配当だけでなく自社株買いにも配分した期だったことが分かる。
過去5期のROEは11.6%、12.9%、11.0%、9.0%、そして17.7%。直前の2期がやや沈んでいたぶん、直近の跳ね上がりが際立って見える。裏を返せば、17.7%が巡航速度かどうかはまだ判断できない。会社自身が2027年3月期に減益を見込んでいることも、その慎重さを裏づける。
7. 筆者コメント
セグメント別の資産配分と、ROEの成り立ち。この二つを重ねると、味の素という会社の設計思想が見えてくる。
資産の相当部分をヘルスケア等が抱え、そこへ設備投資も厚く配分されている。一方で自己資本比率は業種中央値を大きく下回り、負債を使って投資を回している。資産を重くする事業を選び、その資金を自己資本だけでは賄わない。意図された組み合わせだと考えられる。
この設計は、うまく回れば資本効率を押し上げる。ただし需要が反転したときには利益の振れも大きくする。2025年3月期の減損と2026年3月期の急回復という落差は、設計の帰結としても読める。
食品会社という一語で括ると、この振れ幅は説明できない。会社がどの事業に資産を置いているかを確かめてから、業績の変動幅を評価する。この銘柄には、その順番が合っているのではないだろうか。
参考資料
8.1 免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
石津 大希