5. 営業利益率9.9%を底に反転した過去3期の姿

連結ベースで3期を並べると、増収と利益率の関係が変わってきたことがはっきりする。

2024年3月期は売上高113億円、営業利益12億円で、営業利益率は10.9%だった。

2025年3月期は売上高140億円まで伸びたが、営業利益は13億円にとどまり、営業利益率は9.9%へ下がった。増収率24.3%を作るために費用を先に出した期と読み取れる。

2026年3月期は売上高162億円、営業利益22億円で、営業利益率は13.5%まで戻った。増収率は15.7%へ落ちたが、営業利益は+58.7%、純利益は15億円で+43.9%である。

会社予想の2027年3月期は売上高205億円、営業利益30億円で、営業利益率は14.6%になる。

ROEも底を打っている。2024年3月期23.1%、2025年3月期22.1%、2026年3月期24.2%という並びだ。サービス業の中央値9.0%と比べれば、水準の違いは明らかである。

増収率15.7%は業種中央値6.1%の2倍を超え、純利益率9.3%も中央値4.7%の2倍にあたる。成長率と収益性の両方で中央値の上に出ている期だ。

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出所:弁護士ドットコム株式会社 有価証券報告書および決算短信をもとに筆者作成

出所:弁護士ドットコム株式会社 有価証券報告書および決算短信をもとに筆者作成

6. 広告費を抑えて人に投じた費用構造の転換

利益率の反転はどこから来たのか。販管費の内訳を3期並べると、答えの一部が見えてくる。

広告宣伝費は2024年3月期の18億円から20億円台へ増えたが、売上に対する比率は16.4%、14.4%、12.8%と下がり続けている。金額でみれば直近2期はほぼ横ばいだ。

人件費は逆の動きをした。27億円、34億円、40億円と積み上がり、売上比も24.0%、24.8%、25.1%と少しずつ上がっている。

従業員数は524人から639人へ、平均年間給与は679万円から724万円へ増えた。それでも1人当たりの売上高は2,100万円台から2,500万円台に上がっている。

広告で需要を買う費用の比重を下げ、人に投じる比重を上げた。これが営業レバレッジ(売上の伸びが費用の伸びを上回るときに利益率が切り上がる性質)を効かせた形と読み取れる。

のれん償却額は2024年3月期の0.3億円から0.7億円へ増えたが、直近2期はほぼ変わらない。買収の負担が利益率を押し下げている構図ではない。

連結業績だけでなく、費用の売上比の動きに着眼して観察することが大切だ。

7. 無配を続けながらキャッシュを何に振り向けているのか

2026年3月期の営業キャッシュフローは16億円だった。投資キャッシュフローは▲10億円で、設備投資には9億円を投じている。

減価償却費は8億円、無形資産の残高は35億円で、そのうちのれんが8億円を占める。手元の現金は51億円である。

配当は出していない。2026年3月期の1株当たり配当金はゼロで、2027年3月期の会社予想もゼロだ。サービス業の配当性向の中央値が36.4%、配当利回りの中央値が2.9%であることを踏まえると、還元の物差しでは測りにくい銘柄である。

自己資本比率は53.2%で、業種中央値54.5%とほぼ同じ水準にある。借入も残しており、長期借入金は18億円だ。

稼いだキャッシュを配当ではなくソフトウェアや人に振り向ける配分は、ROEが24.2%を保っているあいだは理にかなうと読み取れる。もっとも、負債と自己資本のこの組み合わせが資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。

8. 筆者コメント

過去3期の費用の並びを眺めると、この会社が何に賭けたのかが見えてくる。売上に対する広告費の比率は下がり続け、人件費の比率は少しずつ上がった。

需要を広告で買う段階から、たまった利用基盤の上で人に投じる段階へ移っている。利益率の反転は、その配分変更が数字になって出てきたものだろう。

興味深いのは、この転換が売上の伸びを犠牲にしていない点だ。広告を絞れば集客が落ちる、というのが素直な予想である。それでも増収率は足元で上を向いた。

配当を出さずに稼いだ分を無形資産と人に回す資本配分は、資本効率が業種の中央値を大きく上回っているあいだは筋が通る。ただし、この配分が正しかったかどうかは、利益率がここからさらに切り上がるかどうかで後から採点される。

株価の水準は、その採点をかなり前倒しで織り込んでいるようにみえる。費用の売上比という基本の指標を四半期ごとに追う視点を持っておくことをおすすめしたい。

参考資料

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石津 大希