企業型確定拠出年金(企業型DC)の拠出限度額は2026年4月に引き上げられ、半年ほどが過ぎました。積み立てられる枠が広がると、値動きのある資産をどれだけ持てるのかという問いが手元に返ってきます。
ここで多くの方が思い浮かべるのは、相場が下がった局面で自分が持ち続けられるかどうかという心配です。ただ、持ち続けられるかどうかを分けるのは資産の額の大きさではありません。毎月の支出のうち、終身で入ってくる年金でどこまでを賄えるかという土台の高さです。公的年金のしくみと実際の受給額を確かめたうえで、土台の高さが下落局面での余裕をどこまで変えるのかを試算します。
なお、国民年金と厚生年金を合わせた受給額の分布に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 値動きを受け止める土台として、公的年金の2階建てをどう見るのか
受給額の一覧と私的年金の見直しで押さえておきたい点は、【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイントをご覧ください。日本の公的年金は建物の階層にたとえられる形で組まれていて、どの階に何年いたかで退職後に入ってくる額が変わります。
1.1 1階の「国民年金」は、どんな立場の人が納めることになるのか
国内に住む20歳以上60歳未満の人は全員が国民年金に加入します。自営業者やフリーランス、学生、無職の人は第1号被保険者として全員が同じ額の保険料を納めます。会社員に扶養されている配偶者(年収130万円未満など)は第3号被保険者にあたり、個別の保険料の負担はありません。
1.2 2階の「厚生年金」は、どんな勤め方をした人に乗るのか
厚生年金保険の適用事業所に勤める会社員や公務員は第2号被保険者として厚生年金に加入します。1階の国民年金に上乗せされるので、受け取るときは基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)の2階建てになります。保険料は給与の額に応じて変わり、会社と本人が半分ずつ負担する労使折半です。
1.3 国民年金と厚生年金では、負担と保障の設計がどこで分かれるのか
比べてみると、保険料の額の決め方、誰がいくら負担するか、保障の届く先の3点で性格がはっきり分かれます。
- 保険料の金額:国民年金は定額(毎年度改定)で第3号は負担なし、厚生年金は給与や賞与の額(標準報酬月額)に応じて変動
- 保険料の負担:国民年金は全額自己負担、厚生年金は労使折半(会社と半分ずつ負担)
- 保障の範囲:国民年金は老齢・障害(1,2級)・遺族(子のいる配偶者等)、厚生年金は老齢・障害(1〜3級,手当金)・遺族(範囲が広い)
2. 改定後のモデルケースは、土台の高さの目安としてどこまで使えるのか
受け取る額は据え置きではなく、物価や賃金の動きを織り込んで毎年度改定されます。マクロ経済スライドなどの調整もここに入ります。改定を反映した新規裁定者(新たに受け取り始める人)のモデルケースが次のとおり示されています。
- 国民年金(老齢基礎年金)の満額:月額7万608円(1人分)
- 厚生年金の夫婦モデルケース:月額23万7279円
23万7279円は、賞与を含む月額換算で平均標準報酬が約43.9万円の収入を40年間得た夫と専業主婦の妻を組み合わせた前提で置かれた額で、2人分の老齢基礎年金を含んでいます。共働きの世帯や単身の世帯、加入期間が40年に届かない人には、そのままの目安にはなりません。さらに年金は雑所得として課税の対象になり、税金や社会保険料が引かれてから振り込まれます。支出をどこまで賄えるかを測るときに見るのは、額面ではなく手取りのほうです。
3. 受給額の分布のなかで、月15万円という線はどのあたりに引かれるのか
モデルではなく実績の側を見ていきます。厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」に、国民年金と厚生年金を合わせて月額15万円以上の人がどれだけいるかが載っています。
3.1 平均年金月額はどれくらいか「全体・男女別」と、受給額ごとの人数はどう散らばっているのか
はじめに平均を置きます。以下の3つの額はどれも国民年金の部分を合わせたもので、2階の上乗せだけを抜き出した数字ではありません。
【平均年金月額】
- 全体 15万289円
- 男性 16万9967円
- 女性 11万1413円
※国民年金部分を含む
続いて、受給額ごとの受給権者数です。人数の集まっている中心のあたりを抜き出します。
【受給額ごとの受給権者数】(抜粋)
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
分布は1万円未満から30万円以上まで31の区分に分かれていて、全区分を集計すると月額15万円以上を受け取っている人は全体の約49.8%にあたります。15万円という線は、受給者をほぼ半分に分ける位置に引かれていることになります。
気をつけたいのは、いま並べた額がすべて支給額(額面)だという点です。所得税・住民税・介護保険料・後期高齢者医療保険料などが差し引かれるので、口座に入る額はここから数千円、多い人では1万円以上下がります。振り込まれる実額は「年金振込通知書」か「ねんきんネット」で確かめられます。自分がこの線のどちら側に入りそうかで、毎月いくらを資産の取り崩しで埋めることになるかが変わり、値下がりした資産に手を付けずに待てる期間の長さも変わってきます。
4. 厚生年金保険料は「標準報酬月額」のどの等級から決まってくるのか
土台のうち2階の高さは、納めてきた保険料の積み上がりから生まれます。その基準になるのが標準報酬月額です。厚生年金保険料は基本給だけで決まるものではなく、残業代や通勤手当、住宅手当などを含む総支給額を1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの等級表にあてはめて算出します。保険料率は18.3%で固定され、労使で折半します。
4.1 4月から6月の給与で決まる「定時決定」は、1年の負担をどう固定するのか
定時決定と呼ばれるしくみで、毎年4月・5月・6月に支払われた給与の平均から、その年9月から翌年8月までの標準報酬月額が決まります。春の繁忙で残業が積み上がると、秋に残業がなくなっても保険料の額は据え置かれたままです。ただしその期間の報酬は将来の受給額の計算にも入るので、引かれた分だけを見て損得は言えません。
5. 1階と2階の見込額は、それぞれどの計算式から出てくるのか
土台の高さは、平均や分布に頼らず式でも出せます。1階と2階で計算のしかたが違うので、順に見ていきます。
5.1 「国民年金」の額は、納付月数と満額からどう決まるのか
1階の計算は満額の年金額 × 納付した月数 ÷ 480ヶ月(40年)です。満額は毎年度改定されるものですが、水準の目安は年間84万7300円(月額約7万608円)で、20歳から60歳までの480ヶ月を納め切った人がこの満額を受け取ります。
人によって開きが生まれるのが、学生納付特例や納付猶予を使ったあと追納していない期間です。受給資格の期間としては数えられる一方、年金額を出すときの納付月数には入らないので、その月数分だけ1階が下がります。正規の保険料免除を受けていた期間なら、追納がなくても国庫負担分(全額免除なら2分の1など)は反映されます。
5.2 「厚生年金」の額は、報酬比例部分の乗率でどう決まるのか
2階は報酬比例と呼ばれる部分で、現役時代にいくら稼いだかと何ヶ月加入したかの掛け算で決まります。
平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 加入月数
平成15年(2003年)3月以前に加入していた期間は乗率が別で、賞与を含めない平均標準報酬月額に7.125 / 1000を掛けて出し、あとで合算します。式に入る平均標準報酬額は、加入していた全期間の月給と賞与を足して加入月数で割った額です。上限は置かれていますが、稼いだ分が素直に効いてくる形です。
6. 65歳以降も働き続けると、年金の支給はどこで止まるのか「在職老齢年金・繰下げ」を確認
老齢厚生年金は原則65歳から受け取れますが、その先の働き方と受け取り方で入ってくる額は動きます。
6.1 厚生年金に入りながら受け取るとき、支給停止はどの合計額から始まるのか
働きながら受け取るときに見るのは、老齢厚生年金の基本月額と、給与や賞与から出した総報酬月額相当額の合計です。この合計が基準額(月額65万円)を上回ると、上回った分の半額について支給が止まります。止まるのは2階の部分だけで、老齢基礎年金は全額そのまま支給されます。
6.2 「繰り下げ受給」で最大84%増やすあいだ、土台はどうなっているのか
受け取り始めを66歳から75歳の間に遅らせると、1ヶ月あたり0.7%ずつ増え、75歳まで待てば最大84%増になります。ただし待っている期間は年金が入らず、配偶者の加給年金も受け取れません。待機中は土台が無い状態と同じで、支出のすべてを手元の資産から出すことになります。
7. 転職・退職・住所変更・死亡のとき、放置すると何が起きるのか
年金にかかわる手続きは、こちらから申し出るのが原則です。放っておけば未納の期間が残り、請求すれば受け取れた給付を取り逃がすこともあります。
- 転職・退職時:会社員をやめて無職や自営業になる場合は、退職日の翌日から14日以内に国民年金への切り替えを届け出る
- 住所変更・氏名変更:日本年金機構にマイナンバーが登録されていれば原則として届け出は不要(住民票の情報から反映される)。未登録の場合、海外へ転出する場合、住民票と違う住所を送付先にする場合は別に届け出が必要
- 死亡時:受給権者が亡くなったときは「年金受給権者死亡届」を提出し、未支給年金や遺族年金の請求を行う
8. 「私的年金」の改正は、値動きのある資産の持ち方にどう関わるのか
1階と2階だけでは届かない部分について、国は3階にあたる私的年金の枠を広げる方向で制度を動かしています。
8.1 iDeCoの加入できる年齢と、企業型DCの拠出限度額はどこまで広がるのか
個人型確定拠出年金(iDeCo)は掛金が全額所得控除になる点が特徴です。加入できる年齢の上限は原則65歳未満から70歳未満へ引き上げられ、2026年12月に施行されます。値動きのある資産を持ち続けられる期間が後ろへ延びる形の見直しです。企業型確定拠出年金(企業型DC)でも掛金の拠出限度額が引き上げられ、この拡充は2026年4月より実施されています。勤め先に制度があるなら、自分で決められる枠そのものが大きくなっています。
8.2 企業年金の運用成績は、加入者にどこまで開示されるのか
厚生年金基金などに代わって広がってきた企業年金では、加入者が自分の運用状況やリターンをつかめるよう、運用成績の見える化を義務づける方針が打ち出されています。下がった年に何が起きていたのかを、加入者の側から確かめやすくなります。
8.3 公的年金と私的年金を、どちらから先に見積もるのか
制度そのものは続く見通しですが、マクロ経済スライドによる調整で実質的な給付水準は目減りしていく可能性があります。NISAやiDeCo、企業年金を組み合わせるとしても、先に見積もるのは公的年金の見込額です。土台の高さが決まってから、値動きのある資産にどれだけ回せるのかが決まります。
9. 厚生年金について迷いやすい点を、質問の形で確かめる
9.1 厚生年金保険料は、どういう手順で計算されるのか
まず残業代や手当を合わせた月々の給与から標準報酬月額を等級表で決め、そこへ18.3%を掛けます。出てきた額を労使で折半します。賞与にも同じ考え方があてはまります。
9.2 パートで扶養を外れて厚生年金に入ると、待てる期間はどう変わるのか
将来受け取る年金額は増え、傷病手当金などの保障も広がります。一方で毎月の給与から社会保険料が引かれるため、一時的に手取りが減る「年収の壁(106万円・130万円など)」の問題が生じます。加入した期間の分だけ2階部分が乗るので、退職後の土台はその分だけ高くなり、下がった局面で待てる期間も伸びることになります。
10. 【独自試算】1000万円が20%下がった局面で、年金月15万円があるかないかで取り崩せる年数はどう変わるのか
下落局面で持ち続けられるかどうかを、待てる期間の長さに置き換えて計算してみます。前提は次のとおりです。
- 毎月の支出を20万円と置く(家計の実額に置き換えて読んでいただきたい仮の前提)
- 手元の資産は1000万円とし、相場の下落で20%目減りして800万円になった局面を想定する
- 年金がある場合は、この記事の基準である月15万円が額面で終身入るものとする。年金がない場合は、繰り下げの待機中などで年金が入らず、支出の全額を資産の取り崩しで賄うものとする
- 参考として、令和6年度の女性の平均年金月額11万1413円でも計算する。この額は国民年金の金額を含む額面で、厚生年金の上乗せ分だけの金額ではない
- 取り崩したあとの残高は運用せず、金利や物価の上昇、税金や社会保険料の天引きは考慮しない
この前提で、資産がもつ年数は次のようになりました。
- 年金が月15万円入る場合:毎月の取り崩しは5万円で年60万円。1000万円なら約16年8カ月、下落後の800万円でも約13年4カ月
- 年金が入らない場合:毎月の取り崩しは20万円で年240万円。1000万円なら約4年2カ月、下落後の800万円では約3年4カ月
- 年金が月11万1413円入る場合:毎月の取り崩しは8万8587円で年106万3044円。1000万円なら約9年5カ月、下落後の800万円でも約7年6カ月
同じ20%の下落でも、待てる期間の減り方は3年4カ月と10カ月に分かれます。ただ、もっと差が出るのは減り方ではなく残った期間の長さのほうです。年金が月15万円入る人は下落後の800万円でも約13年4カ月の余裕があり、年金が入らない人は下落前の1000万円でも約4年2カ月しかありません。値下がりした資産に手を付けずに戻るのを待てる長さが、3倍以上違ってくる形です。同じ1000万円を持っていても、土台が高い人には待つ余地があり、土台が無い人には売って生活費にあてる以外の選択肢が残りにくくなります。
ここに挙げた年数は一定の前提を置いたおおよその目安であり、将来の家計を保証するものではありません。支出を20万円とするか25万円とするかで結果は動き、下落の幅を20%とするか30%とするかでも変わります。実際には値動きのある資産は元本割れとなる可能性があり、下落の幅と回復までの期間を事前に見込むことはできません。


