決算の数字が良くなることと、株価がその改善をどう受け取るかは別の話だ。1カ月で2割以上値上がりした銘柄を前にすると、その上げ幅が業績の改善に見合っているのかを確かめたくなる。
企業間取引の電子化を手がけるインフォマート(2492)は、2026年9月2日の終値が660円、前日比+3.8%で取引を終えた。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- 2026年9月2日の終値は660円で前日比+3.8%。8月初めの527円から1カ月で2割超の上昇となった
- 2025年12月期通期の営業利益は+138.6%。売上原価の減少と料金改定が効いている
- 2026年12月期1Qに自己株式の処分で170億円の資金が入り、自己資本比率は85.8%まで上がった
1. 1カ月で2割超上げた株価が、2026年9月2日に見せた反発
1/2
出所:各種資料をもとに筆者作成
直近1カ月の終値を並べると、上昇の起点は2026年8月4日にある。この日の527円が、直近21営業日のなかで最も低い終値だった。
そこから水準はほぼ一貫して切り上がり、8月28日には685円まで達した。これが期間内で最も高い終値である。
その後は8月31日に648円、9月1日に636円と2営業日続けて下押しした。そして9月2日は660円で、前日比+3.8%の反発となった。
8月4日から9月2日までの上昇幅は133円、率にすれば2割半ばに達する。1カ月という短い期間で見れば、かなり大きな動きだ。
では何がこの上げを支えたのか。直近の決算は2026年12月期上期のもので、9月2日までにすでに1カ月以上が経っている。
決算という新しい材料が当日に加わったわけではない。9月2日の上げは、業績の再評価というより需給や相場全体の流れを映した可能性が高い。
とはいえ、1カ月単位の水準の切り上がりまで材料なしと片づけるのは乱暴だろう。上期の数字が時間をかけて織り込まれていったという読み方もできる。
2. PER53倍台とPBR5.8倍が前提にしている利益の伸び
2026年9月2日時点のPER(株価収益率)は53.97倍、PBR(株価純資産倍率)は5.85倍である。
PERは投資した資金が1年分の利益の何倍かを示す指標だ。53倍台という数字は、目先の1期の利益ではなく、数年先の利益の姿を前提に置いた値付けだと読み取れる。
その前提を支える材料はある。2025年12月期のROE(自己資本利益率)は16.7%で、サービス業の中央値である9.0%を大きく上回った。
営業利益率も15.2%と、業種中央値の6.5%の2倍を超える。収益性の面では、業種のなかで明確に上位に位置している。
もっとも、業種区分としてのサービス業には人材、外食、情報サービスなど事業モデルの異なる企業が同居している。中央値との比較は、あくまで目安として置くのが適当だろう。
絶対水準で見ても、営業利益率15%台はソフトウェア型の収益構造が効いている姿と受け止められる。使う企業が増えても原価が同じ比率で増えないという構造が、利益率の高さを支えている。
3. 営業利益+138.6%。2025年12月期に効いたのは原価だった
2025年12月期通期の売上高は188億円で前期比+20.4%となった。営業利益は28億円で+138.6%、親会社株主に帰属する当期純利益は19億円で+193.3%である。
増収率が20%台なのに対し、利益の伸びは3桁に届いた。この差はどこから来たのか。
会社の説明によると、売上原価は50億円で前年度比15.4%の減少となった。2024年9月にサーバーのクラウド移行を実施したことで、データセンター費が大幅に減ったという。
増収と原価の減少が同時に起きたため、売上総利益は137億円まで膨らんだ。
一方の販売費及び一般管理費は108億円で+28.9%と増えている。事業拡大に伴う人件費、利用企業を増やすための販売促進費、そしてタノムの子会社化に伴うのれん償却費が押し上げた。
それでも売上総利益の増加が販管費の増加を吸収し、営業利益は3桁の伸びになった。ここは会計の構造上ほぼ自明な因果である。
企業向けのクラウドサービスというと、成長のために費用を先行させて利益は後回しという姿を思い描きやすい。
だがこの期のインフォマートは、売上を2割伸ばしながら原価を1割台半ば減らしている。成長投資と利益率の改善が同時に立っている点が、一般的なイメージとは少し違う。
背景には利用企業の積み上がりがある。会社によれば、2025年12月末のBtoBプラットフォーム全体の企業数は1,251,169社で、1年間に101,870社増えた。
加えて受発注サービスの2024年8月の料金改定、請求書サービスの2025年4月からの料金改定によってシステム使用料が増加したとしている。数量と単価の両方が効いた期だったと言える。
4. 通期は営業利益50億円予想。上期の進捗をどう受け止めるか
2026年12月期の会社予想は、売上高213億円で+13.5%、営業利益50億円で+74.6%、当期純利益30億円で+61.1%である。予想EPSは11.92円となる。
営業利益が前期からさらに7割強伸びる絵だ。2025年12月期の3桁増益に続けて、もう一段の利益成長を織り込んでいる。
上期の実績はどうか。売上高99億円、営業利益21億円、経常利益19億円、当期純利益11億円で、EPSは4.62円だった。
前年同期の売上高90億円、営業利益14億円と比べれば、利益の伸びは続いている。
ただし通期予想に対する進捗を見ると、売上高が46.8%、営業利益が42.4%となる。売上の進捗はほぼ折り返し地点に近い一方、利益の進捗はそれより手前にある。
1Qの営業利益が+76.5%だったことを踏まえると、伸び率そのものは期の前半で最も強く出た形だ。下期にかけて費用が積み上がる想定が予想に含まれているとも読める。
PER53倍台という値付けは、この通期予想の達成を前提に置いたものだろう。であれば投資家が次に確かめるのは、下期の利益が会社の描いた絵に沿って積み上がるかどうかになる。
株価が1カ月で2割超上げた局面だからこそ、伸び率の絶対値ではなく進捗の形に目を向けておきたいところだ。
5. 筆者コメント
同社の過去5期の利益の並びを眺めると、一本調子の成長曲線ではないことが分かる。谷があり、そこから戻ってきた形だ。
利益率が最も薄かった期を挟んで、直近では2桁台の営業利益率まで戻している。この戻りが、いまの値付けの前提を作っている。
私が気になるのは、戻りの中身が原価の削減という一度きりの効果に寄っていないかという点だ。クラウド移行のような構造の作り替えは、効き始めた期に大きな数字を作る。
だが同じ幅の改善が翌期も続くとは限らない。2026年12月期の通期予想が営業利益+74.6%と強気なのは、原価の効果に加えて売上の積み上がりを見込んでいるからだろう。
株価が1カ月で2割超上げたあとの局面では、この2つの要素を分けて見る癖を持ちたい。原価が作った利益か、売上が作った利益か。決算のたびに、そこを確かめてほしい。