厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、公的年金を実際に受け取っている人の平均月額が、都道府県別まで公表されています。2026年度は年金額の改定もあり、夏から秋にかけては手元に届く通知に目を通しながら老後の家計を考え直す方が増える時期です。
そうした場面でよくうかがうのが、積立をいつ始めるかという迷いです。収入が安定してから、家計に余裕が出てから、と考えているうちに時間だけが過ぎていく。少額でも今から始めたほうがよいのか、それとももう少し待って多めに積んだほうがよいのか。決めきれないまま止まってしまう方は少なくありません。
その判断の手がかりになるのが、公的年金でどのくらいまかなえそうかという見通しです。この記事では、厚生労働省の資料から厚生年金と国民年金の平均年金月額を確認し、地域ごとに金額がどの範囲に収まっているのかまで見ていきます。
なお、厚生年金・国民年金の平均受給額や、受給額が決まる仕組みに関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額を都道府県別に見ると、最も高い富山県で6万2989円、最も低い沖縄県で5万4217円でした。
- 厚生年金は報酬と加入期間で金額が決まるため地域差が大きく、国民年金は納付月数だけで決まるため差が小さく収まります。
- 同じ20年でも、いま少額で始める場合と3年待って多めに始める場合とでは、投じた元本と増え方の関係が変わります。
1. 受け取っている人の平均額|厚生年金と国民年金では金額のばらつき方が違う
積立をいつ始めるかを考えるうえで、先に見ておきたいのが老後の収入の柱になる公的年金の水準です。すでに受け取っている人の平均額について、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説から要点を引用して確認します。
厚生年金の平均年金月額は〈全体〉15万289円、〈男性〉16万9967円、〈女性〉11万1413円(いずれも国民年金の金額を含む)。
国民年金は〈全体〉5万9310円、〈男性〉6万1595円、〈女性〉5万7582円です。年金の受給額はこれまでの加入状況によって決まるため、人によって大きな差が生じる点には注意が必要です。
厚生年金の金額には、国民年金の分が含まれています。またここから税金や社会保険料が差し引かれるため、実際に口座へ入る金額はこれより少なくなります。
あわせて押さえておきたいのが、この2つがまったく違う決まり方をしているという点です。厚生年金は現役時代の報酬と加入期間の掛け算で積み上がり、国民年金は保険料を納めた月数だけで決まります。決まり方が違えば、平均のまわりにできる金額の広がりも変わってきます。
なお、公的年金の額は毎年見直されており、2026年度も改定が行われています。ここで引用した平均額は令和6年度の集計にもとづく金額です。
2. 地域別に並べた厚生年金|上位と下位で1カ月あたり4万円を超える開き
まず、報酬と加入期間で決まる厚生年金のほうから見ていきます。都道府県別に並べ替えると、平均年金月額にどれくらいの幅があるのかが見えてきます。厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の数字を、上位と下位に分けて確認します。
2.1 厚生年金の平均月額が上位に並ぶ5都県
- 神奈川県:17万457円
- 千葉県:16万5103円
- 東京都:16万3892円
- 奈良県:16万2292円
- 埼玉県:16万1752円
2.2 厚生年金の平均月額が下位に並ぶ5県
- 青森県:12万8129円
- 沖縄県:12万8819円
- 宮崎県:12万9224円
- 秋田県:12万9503円
- 山形県:13万1169円
全国の一覧は次のとおりです。
- 北海道:14万1069円
- 青森県:12万8129円
- 岩手県:13万2943円
- 宮城県:14万4920円
- 秋田県:12万9503円
- 山形県:13万1169円
- 福島県:13万6880円
- 茨城県:15万2963円
- 栃木県:14万9631円
- 群馬県:14万8666円
- 埼玉県:16万1752円
- 千葉県:16万5103円
- 東京都:16万3892円
- 神奈川県:17万457円
- 新潟県:13万8683円
- 富山県:14万4644円
- 石川県:14万1792円
- 福井県:14万787円
- 山梨県:14万4665円
- 長野県:14万4668円
- 岐阜県:14万9910円
- 静岡県:15万1960円
- 愛知県:16万766円
- 三重県:15万1949円
- 滋賀県:15万4456円
- 京都府:15万1483円
- 大阪府:15万6272円
- 兵庫県:15万9086円
- 奈良県:16万2292円
- 和歌山県:14万5933円
- 鳥取県:13万3459円
- 島根県:13万3918円
- 岡山県:14万6429円
- 広島県:15万745円
- 山口県:14万8166円
- 徳島県:13万4131円
- 香川県:14万4026円
- 愛媛県:14万301円
- 高知県:13万2202円
- 福岡県:14万5822円
- 佐賀県:13万4191円
- 長崎県:13万6825円
- 熊本県:13万2740円
- 大分県:13万6507円
- 宮崎県:12万9224円
- 鹿児島県:13万3343円
- 沖縄県:12万8819円
- その他:13万3788円
上位と下位を突き合わせると、1カ月あたりの開きは4万円を超えます。1年に置き換えれば50万円以上ですから、地域による違いは小さいとはいえない大きさです。
もっとも、この一覧は住む場所によって年金額が変わることを示すものではありません。差が生まれる理由は、金額の決まり方そのもののなかにあります。
3. 金額を左右する2つの要素|現役時代の報酬と加入していた月数
厚生年金の計算には、現役時代に受け取った報酬(給与や賞与)と、制度に加入していた期間の長さが使われます。この2つが掛け合わされて積み上がるため、人によって金額の差が出やすい仕組みになっています。
報酬に応じて変わる部分(報酬比例部分)は、次の2つを合計して求めます。
- A(2003年3月以前):平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
- B(2003年4月以降):平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入期間の月数
式を眺めると、金額を押し上げる要素は「報酬の水準」と「加入していた月数」の2つに絞られることがわかります。この2つのばらつきが、そのまま地域ごとの平均額の違いにつながっています。
賃金の水準は都市部で高くなりやすく、自営業として働く人の割合や共働き世帯の多さも地域によって異なります。現役時代の働き方の違いが、平均年金月額の違いとして表れているわけです。
ここで注目したいのが「月数」のほうです。報酬の水準はすぐには動かせませんが、月数は続けた分だけ積み上がります。公的年金の外側で上乗せを用意する場合も、「毎月いくらを、何カ月続けるか」という構図は変わりません。
4. 国民年金の都道府県別平均|5万4217円から6万2989円までに収まる1階部分
次に、1階部分にあたる国民年金(老齢基礎年金)を見ます。こちらは保険料を納めた月数だけで金額が決まり、報酬の多い少ないは反映されません。そのぶん、地域による差も厚生年金ほどは開きません。
4.1 47都道府県の国民年金(老齢基礎年金)平均年金月額
- 北海道:5万8435円
- 青森県:5万7137円
- 岩手県:6万720円
- 宮城県:5万9532円
- 秋田県:5万9147円
- 山形県:6万827円
- 福島県:5万9922円
- 茨城県:5万9395円
- 栃木県:5万9544円
- 群馬県:6万564円
- 埼玉県:5万9007円
- 千葉県:5万9354円
- 東京都:5万8313円
- 神奈川県:5万9342円
- 新潟県:6万1957円
- 富山県:6万2989円
- 石川県:6万1923円
- 福井県:6万2290円
- 山梨県:5万9275円
- 長野県:6万2030円
- 岐阜県:6万1248円
- 静岡県:6万1150円
- 愛知県:6万34円
- 三重県:6万1403円
- 滋賀県:6万1172円
- 京都府:5万8206円
- 大阪府:5万7122円
- 兵庫県:5万9138円
- 奈良県:5万8961円
- 和歌山県:5万7784円
- 鳥取県:6万1502円
- 島根県:6万2287円
- 岡山県:6万1564円
- 広島県:6万991円
- 山口県:6万1120円
- 徳島県:5万8797円
- 香川県:6万1718円
- 愛媛県:5万9792円
- 高知県:5万7926円
- 福岡県:5万8300円
- 佐賀県:6万1084円
- 長崎県:5万8617円
- 熊本県:5万9907円
- 大分県:5万8397円
- 宮崎県:5万9234円
- 鹿児島県:5万9659円
- 沖縄県:5万4217円
- その他:3万785円
47都道府県のなかで最も高いのは富山県の6万2989円、最も低いのは沖縄県の5万4217円でした。開きは1カ月あたり9000円弱にとどまり、厚生年金で見た4万円超とは対照的です。全国平均は5万9431円で、大半の県が5万円台後半から6万円台前半に集まっています。
なお、一覧の末尾にある「その他」は都道府県のいずれにも分類されない区分で、金額の水準も他とは大きく異なります。地域ごとの比較をするときは、47都道府県の範囲で見るほうが実態に近くなります。
1階部分だけで日々の生活費をまかなうのは、多くの家計にとって簡単ではありません。合計で月15万円以上を受け取っている人がどれくらいの割合なのかは、【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイントにまとまっています。
1階部分は納付月数で上限が決まるため、上乗せをどう用意するかは自分で決めることになります。そして上乗せもまた、金額と月数の積み重ねです。ここで効いてくるのが、いつから積み始めるかという時期の問題です。
60歳代以上の平均年金額と、無職世帯のリアルな家計収支についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
「ふつう」のシニアは年金を月いくらもらってる?60歳代以上の平均額と、無職世帯のリアルな家計収支を公開
5. 【独自試算】いま月1万円で始める場合と、3年後に月2万円で始める場合で20年後はどう違うか
「余裕ができてから、まとまった金額で始めたい」という考え方と、「少額でもいいから今から始めておく」という考え方。この2つを20年後という同じ時点で並べると、どのくらいの違いになるのかを計算してみます。
5.1 計算に置いた前提
前提は次のとおりです。
- 想定利回り:年3%(期間中ずっと一定と仮定)
- 比べる時点:どちらも今から20年後(240カ月後)
- ケースA:今月から毎月1万円を240カ月積み立てる(投じる元本の合計は240万円)
- ケースB:3年間は積み立てず、37カ月目から毎月2万円を204カ月積み立てる(投じる元本の合計は408万円)
- 計算方法:毎月末に一定額を積み立て、月利で複利計算。税金・手数料・インフレの影響は考慮しない
月利は年利を12で割るのではなく、(1+年利)の12分の1乗から1を引いて求めています。年3%の場合、月利は約0.2466%です。
5.2 20年後の到達額を並べる
- ケースA(いま月1万円・240カ月):約326万円(元本240万円、増えた分は約86万円)
- ケースB(3年後に月2万円・204カ月):約529万円(元本408万円、増えた分は約121万円)
到達額そのものはケースBのほうが大きくなります。ただし、投じた元本もBのほうが168万円多い前提です。元本に対してどれだけ増えたかという見方に切り替えると、Aは約36%、Bは約30%となり、順番が入れ替わります。同じ利回りでも、資金が働いていた期間の長さが結果に表れる形です。
5.3 3年待つなら毎月いくら必要になるか
見方を変えて、3年待ってから始めた場合に、ケースAと同じ20年後の到達額へ届くには毎月いくら必要かを求めてみます。この前提では、約1万2348円という計算になります。いま月1万円で始める場合と比べると、2割強の増額が必要ということです。
裏を返せば、3年後に毎月1万2000円台を出せる見通しがあるなら、20年後の到達額という一点では同じところに並びます。少額で今から積むか、余裕ができてから多めに積むかは、この差をどう受け止めるかという問題ともいえます。
5.4 順番が入れ替わりうる場面もある
ここまでの数字は、20年間ずっと年3%で増え続けたと仮定した目安にすぎません。実際の値動きは上下します。最初の3年のあいだに価格が下がっていれば、待ってから始めた側は安い価格で買い始めることになり、結果が逆転する場合もあります。逆に、その3年で価格が上がっていれば、早く始めた側との差はさらに開きます。どちらが有利だったかは、あとから振り返って初めてわかる性質のものです。
加えて、3年後に予定どおり増額できるかどうかも、そのときの家計しだいです。今の少額を続ける形と、将来の増額を前提にする形とでは、見通しの立てやすさが違うという点も、比べる材料になります。
※上記は利回りが期間中一定であると仮定した目安の試算です。実際の運用成果は市場環境によって変動し、想定を下回ることも、積立元本を割り込むこと(元本割れ)もあります。将来の運用成果を保証するものではありません。税制上の取り扱いは改定されることがありますので、実行にあたっては関連する窓口や専門家にご確認ください。
6. 監修者コメント:始める時期の判断は、金額の大小より続けられるかどうかから見る
始める時期をめぐるご相談では、「今から始めるか、余裕ができてから始めるか」という二択の形で持ち込まれることがよくあります。記事の試算が示しているのは、この二択に一律の正解はなく、到達額で見るか元本に対する増え方で見るかによって順番が変わる、という点です。どちらの見方を重く置くかは、その方が何を目的にしているかによって変わってきます。
もう1つ、確からしさの違いという軸もあります。今の少額を続ける形は、すでに出せている金額をそのまま延ばすものです。将来の増額を前提にする形は、そのときの家計がどうなっているかという見通しの上に成り立ちます。同じ表に並んだ2つの金額でも、前提の固さは同じではありません。
金額の小ささを理由に、始めていないこと自体を後ろ向きに受け止める必要もないかと思います。家計の状況が定まらない時期に無理な金額を設定して途中で止めるより、続けられる金額に置いておくほうが、結果として月数が積み上がることもあります。金額はあとから見直せるという性質も、判断の材料になります。
なお、非課税の制度や税制上の取り扱いは、適用される条件や期間が改正によって変わることがあります。ご自身のケースでどうなるかは、関連する窓口や専門家に確認していただく形になります。記事の数字は、考える順番を整理するための見取り図としてお使いいただければと思います。



