物価が上がるなか、趣味や娯楽にかけるお金はどうなっているのでしょうか。真っ先に削られる費目という印象もありますが、実際のデータは違う姿を映しています。

総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」から、教養娯楽費の動きを確認していきます。

金額の伸びだけでなく、その中身がどこから来ているのかも見ていきましょう。

この記事の3つのポイント
  • 2025年の二人以上の世帯の教養娯楽費は月3万2125円で、名目6.2%増・実質3.7%増
  • 実質増加は2年ぶり(2023年は3.4%増、2024年は3.6%減)
  • 前年からの増加額1885円のうち、およそ55%は「教養娯楽サービス」の伸び

1. 教養娯楽費とは何を指すのか

まず、この費目の中身を整理しておきましょう。

教養娯楽費とは、教養、娯楽、趣味全般にかかる費用のことです。具体的には、書籍や新聞、映画、音楽、旅行などの趣味、習い事などにかけるお金を指します。

家計調査の分類では、次の4つで構成されています。

  • 教養娯楽用耐久財(テレビ、パソコン、カメラなど)
  • 教養娯楽用品(文房具、スポーツ用品、おもちゃ、ペット関連費など)
  • 書籍・他の印刷物
  • 教養娯楽サービス(宿泊料、パック旅行費、月謝類、放送受信料など)

つまり、生活に必須ではないけれど暮らしを豊かにする支出、その大半がここに集約されているということです。

2. 2025年の教養娯楽費は月3万2125円

総務省統計局が公表した「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、二人以上の世帯における2025年の教養娯楽費は月平均3万2125円。前年に比べ名目で6.2%の増加、実質で3.7%の増加という結果でした。

年間にすると約38万5500円です。

同じ調査で二人以上の世帯の消費支出は月31万4001円ですから、教養娯楽費はその約10.2%を占めます。10大費目のなかでは、食料(9万4895円)、その他の消費支出(4万7093円)、交通・通信(4万5730円)に次ぐ4番目の規模です。

なお、消費支出全体で実質増加となったのは10大費目のうち6費目で、教養娯楽はそのひとつ。消費支出全体の実質0.9%増に対する教養娯楽の寄与度は0.38ポイントでした。

3. 「名目」と「実質」の違いを押さえる

この発表で重要なのが、名目と実質という2つの数字が併記されている点です。

「3万2125円」という金額は、前年と比べて数字の上(名目)では6.2%増加し、物価の変動を除いた実質、つまり同じ金額で買えるものやサービスの量でも3.7%増加したことを示しています。

もし実質がマイナスであれば、「支出額は増えたが、買えた量は減った」ということになります。値上がりに押されて金額だけが膨らんだ状態です。

今回は実質もプラスということは、値上がり分を吸収したうえで、実際に楽しんだ量が増えたということを意味します。

なお、名目6.2%増と実質3.7%増の差である約2.5ポイントは、おおまかな物価上昇分の目安です。実質化には該当する費目の消費者物価指数が用いられているため、単純な引き算で物価上昇率が出るわけではない点には注意が必要です。

4. 2年ぶりの実質増加が意味すること

「2年ぶり」という点にも注目したいところです。教養娯楽費の実質増減率を過去にさかのぼると、次のように推移しています。

  • 2023年:2万9765円、名目7.8%増、実質3.4%増
  • 2024年:3万240円、名目1.6%増、実質3.6%減
  • 2025年:3万2125円、名目6.2%増、実質3.7%増

2024年は名目では増えていたにもかかわらず、実質ではマイナス。物価上昇に支出の伸びが追いつかず、実際に楽しめる量が減っていた年でした。2025年はそこから反転した形になります。

家計の収入側にも動きがありました。同じ資料に収録された「2025年の家計をめぐる主な動き」によれば、2025年春季労使交渉の大企業の賃上げ幅は1万9195円、賃上げ率5.39%で、現行の集計方法となった1976年以降で前年に次ぐ2番目の上げ幅。10月には最低賃金が全国平均で66円引き上げられ1121円となり、比較可能な2002年以降で最大の上げ幅となりました。

5. 伸びをけん引したのは万博とパソコン特需

ただし、実質プラスの中身を見ると、家計の余裕だけでは説明がつきません。

前年からの増加額1885円を内訳ごとに分けると、次のようになります。

  • 教養娯楽サービス:1万7745円→1万8774円(1029円増、増加額の約55%)
  • 教養娯楽用品:7395円→7935円(540円増、同約29%)
  • 教養娯楽用耐久財:2129円→2505円(376円増、同約20%)
  • 書籍・他の印刷物:2971円→2910円(61円減)

最も大きく効いているのが教養娯楽サービスです。調査の解説は、8月と9月に大阪・関西万博の影響などで文化施設入場料などの教養娯楽サービスが増加したと記しています。万博の来場者は4月から10月までで約2558万人にのぼりました。

もうひとつが教養娯楽用耐久財です。実質で18.4%増と伸び率が突出していますが、これはWindows 10のサポート終了に伴うパソコン特需によるものです。3月にはサポート終了を控えた需要で耐久財が増加し、2025年のノートパソコンの国内出荷台数は過去最高の964.1万台、前年比47.1%の増加となりました。

いずれも2025年に固有の出来事です。教養娯楽費の実質増加を「家計に余裕が戻ってきた証拠」とだけ読むのは早計で、一過性の要因がかなりの部分を占めていると見るのが妥当でしょう。

6. 書籍だけは減り続けている

4つの内訳のうち、唯一マイナスなのが書籍・他の印刷物です。

2025年は2910円で、名目2.0%減、実質5.4%減。2024年も名目2.8%減、実質6.5%減でしたので、2年続けて減少しています。

娯楽全体が上向くなかで、本や新聞、雑誌への支出だけは逆方向に動いている。この分野の縮小は、景気の良し悪しとは別の構造的な変化として起きているようです。

7. 自分の家計で教養娯楽費を確認するには

月3万2125円という数字を自分の家計と比べる際は、含まれる項目の広さに注意が必要です。

  • 書籍、新聞、雑誌の購入費
  • 映画、コンサート、スポーツ観戦のチケット代
  • 旅行や宿泊にかかる費用
  • 習い事、スポーツクラブの月謝
  • テレビ、パソコン、カメラなどの購入費
  • ペット関連の費用
  • 放送受信料、動画や音楽の定額サービス

こうしたものを合計すると、思っていたより大きな金額になることが少なくありません。とくに旅行費用は年に数回まとまって発生するため、月ごとの家計簿では見えにくくなります。

年間38万5500円という平均を目安に、自分の場合はどうかを一度計算してみると、家計における「楽しみ」の位置づけが見えてきます。

8. 教養娯楽費が増えることの意味

教養娯楽費は、家計に余裕があるかどうかを映す鏡のような費目です。

生活必需品と違い、支出するかどうかを選べます。だからこそ、家計が苦しくなれば真っ先に削られ、余裕が生まれれば戻ってきます。

一方で、同じ2025年の食料は9万4895円で、名目5.5%増に対して実質は1.2%減。エンゲル係数は28.6%と前年から0.3ポイント上昇しました。必需品では量を抑えつつ、楽しみの部分は確保する。2つの数字の対比からは、メリハリのついた消費行動が読み取れます。

もっとも、その「楽しみ」の伸びの多くが万博とパソコンの買い替えであったことは、あわせて押さえておきたいところです。2026年に同じ数字が続くかどうかは、来年の発表を待つ必要があります。

9. まとめにかえて

今回は、総務省統計局の家計調査から2025年の教養娯楽費を確認しました。

  • 二人以上の世帯の教養娯楽費は月3万2125円で、名目6.2%増・実質3.7%増
  • 実質増加は2年ぶり(2024年は実質3.6%減)
  • 増加額1885円のうち約55%は教養娯楽サービス、約20%は教養娯楽用耐久財
  • けん引役は大阪・関西万博とパソコン特需という一過性の要因

金額だけでなく、実質でも増えている。ただしその中身まで見ると、潮目の変化と呼ぶにはもう少し様子を見たいところです。

10. 【執筆者コメント】「実質プラス」の中身を開けてみたら

最初に「2年ぶりの実質増加」という数字を見たときは、素直に良い話だと思いました。物価が上がるなかで、趣味に使う量が増えたのなら、それは家計に余裕が戻ったということだろうと。

ところが内訳を開けてみると、増加額の半分以上が教養娯楽サービス、そして耐久財が実質18.4%増。前者は万博、後者はWindows 10のサポート終了によるパソコンの買い替えでした。どちらも2025年にしか起きないことです。

もうひとつ気になったのが、書籍・他の印刷物だけが2年続けて減っていたことでした。娯楽全体が上向いた年でも、本には戻ってきていない。景気の話ではなく、もっと別の変化なのだろうと思います。

もっとも私自身は本が好きで、つい買ってしまうほうなのですが、最近はまったく読めていません。支出としては発生していても、積み上がったまま中身が伴っていない。家計調査が拾えるのは買った時点までなので、そのあと読まれたかどうかまでは数字に出ません。2910円という金額も、実態の一部しか映していないのかもしれません。

平均値は、上がった理由まで教えてくれません。数字が動いたときこそ内訳を開けたいところですが、その前に積んである本を開くほうが先かもしれません。

参考資料

中沢 新