「国民年金」と「厚生年金」、どちらも年金という言葉が付くだけに、別々の制度だと理解していても、具体的に何が違うのかを説明するのは意外と難しいものです。
結論から言うと、この2つは「どちらかを選ぶ」制度ではありません。厚生年金は、国民年金という土台の上に上乗せされる仕組みです。会社員や公務員は、意識しないまま両方に同時加入しています。
この記事では、加入の仕組みと保険料の違いを整理したうえで、編集部の試算で「保険料だけを比べると、実はどちらが得か」という逆転現象を確認します。
なお、厚生年金の受給額の実態に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
- 厚生年金は国民年金の代わりではなく、国民年金の上に上乗せされる2階建ての仕組みです。
- 国民年金の保険料は令和8年度で月1万7920円の定額、厚生年金は標準報酬月額の9.15%という定率です。
- 標準報酬月額19万円から20万円の等級の境目で、定率の厚生年金保険料が定額の国民年金保険料を上回ります。
1. 国民年金と厚生年金、そもそも別の制度なのか
まず基本の構造を確認します。日本の公的年金は、しばしば「2階建て」と表現されます。この構造を押さえると、2つの制度の関係がすっきり見えてきます。
1.1 国民年金は全員共通の1階部分
国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度です。自営業者、会社員、公務員、扶養されている配偶者など、働き方に関わらず、日本に住む人はこの1階部分に加入します。
受け取る年金の名称は「老齢基礎年金」で、加入期間に応じて金額が決まります。全員に共通する土台という位置づけです。
1.2 厚生年金は会社員・公務員が加入する2階部分
厚生年金は、会社員や公務員が加入する制度です。国民年金の上に上乗せされる「2階部分」にあたり、厚生年金に加入している人は、自動的に国民年金にも加入していることになります。
つまり厚生年金加入者は、国民年金だけの人より保険料の負担先が増えるわけではなく、勤務先を通じて2つの制度に同時に加入している状態です。二重に保険料を払っているわけではありません。
2. 加入する制度は、働き方によって自動的に決まる
自分がどちらに加入するかは、選ぶものではなく、働き方によって自動的に区分されます。この区分を被保険者種別と呼びます。
2.1 第1号・第2号・第3号という3つの区分
自営業者やフリーランス、学生などは「第1号被保険者」として国民年金にのみ加入し、保険料を自分で納めます。会社員や公務員は「第2号被保険者」として厚生年金に加入し、同時に国民年金にも加入した扱いになります。
第2号被保険者に扶養されている配偶者は「第3号被保険者」です。この区分に該当する人は、国民年金の保険料を個別に納める必要がありません。制度上、配偶者が加入する厚生年金制度全体で保険料を負担する仕組みになっているためです。
2.2 働き方が変わると、区分も切り替わる
就職や転職、退職といった働き方の変化にともなって、この区分は切り替わります。自営業者が就職すれば第1号から第2号に変わり、会社員が退職して自営業になれば第2号から第1号に戻ります。
この切り替えの手続きを忘れると、保険料の未納期間が発生してしまうことがあります。区分が変わるタイミングでは、自分がどの号に該当するのかを確認する意識を持っておくことが大切です。
3. 【編集者の視点】
実務上の罠として多いのが、退職後の手続き漏れです。会社員として厚生年金に加入していた人が退職すると、その翌日から第2号被保険者ではなくなり、次の勤務先が決まっていなければ、原則として第1号被保険者への切り替え手続きが必要になります。
この手続きは自動的に行われるわけではなく、本人が市区町村の窓口で国民年金への加入手続きをする必要があります。退職直後は健康保険や失業給付の手続きに気を取られ、年金の切り替えを後回しにしてしまうケースが少なくありません。
逆に、自営業やフリーランスの人が就職した場合は、会社が厚生年金の加入手続きを行うため、本人が個別に国民年金の脱退手続きをする必要はありません。入社日をもって自動的に切り替わる仕組みです。
手続きが遅れても、さかのぼって保険料を納めることはできますが、未納期間があると将来の年金額に影響します。退職が決まった時点で、次の勤務先の入社日までの空白期間がどれくらいあるかを確認し、空白がある場合は退職後14日以内を目安に手続きを済ませることをおすすめします。
4. 保険料の仕組みは、まったく別の計算方式
加入の仕組みを理解したところで、次は保険料の違いを見ていきます。ここが2つの制度で最も対照的な部分です。
4.1 国民年金は定額、厚生年金は定率
日本年金機構の公表資料によると、国民年金の保険料は令和8年度で月額1万7920円です。所得の多い少ないに関わらず、全員が同じ金額を納めます。令和7年度は1万7510円、令和6年度は1万6980円で、年度ごとに見直されています。
一方、厚生年金の保険料率は18.3%で固定されており、標準報酬月額(おおよその月給)にこの率を掛けて計算します。事業主と被保険者が半分ずつ負担する労使折半のため、本人が実際に負担するのは半分の9.15%です。
5. 編集部試算:保険料だけで比べると、どちらが安いか
定額の国民年金と、定率の厚生年金。同じ月収の人で比べると、本人負担分の保険料はどちらが軽いのでしょうか。編集部で計算しました。
5.1 標準報酬月額は等級で決まる、19万円と20万円の境目に注目
厚生年金の本人負担額は、標準報酬月額×9.15%で決まります。ただし標準報酬月額は、報酬月額をそのまま使うのではなく、日本年金機構の保険料額表にある32段階の等級に当てはめて決まる仕組みです。理論上の交点を単純計算すると19万5847円になりますが、これに該当する等級は実在しません。
実際の等級表で確認すると、標準報酬月額19万円(報酬月額18万5000円以上19万5000円未満・第13等級)の本人負担は1万7385円で、国民年金の定額1万7920円より535円安くなります。一方、標準報酬月額20万円(報酬月額19万5000円以上21万円未満・第14等級)の本人負担は1万8300円で、380円高くなります。逆転は、この19万円から20万円の等級の境目で起きています。
5.2 【標準報酬月額の等級別・厚生年金本人負担と国民年金の比較】
国民年金より安いケース
- 標準報酬月額15万円(第9等級):本人負担1万3725円(4195円安い)
- 標準報酬月額19万円(第13等級):本人負担1万7385円(535円安い)
国民年金より高いケース
- 標準報酬月額20万円(第14等級):本人負担1万8300円(380円高い)
- 標準報酬月額30万円(第19等級):本人負担2万7450円(9530円高い)
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
6. 【編集者の視点】
この試算で強調したいのは、「本人負担が軽い=お得」と単純に結論づけられない、という点です。厚生年金には事業主負担分の9.15%が別途上乗せされており、制度全体で見れば国民年金より手厚い保険料が支払われています。
さらに厚生年金には、健康保険(協会けんぽや組合健保)が原則セットで付いてきます。傷病手当金や出産手当金など、国民健康保険には無い給付も含まれるため、保険料の本人負担額だけで両者を比較するのは一面的な見方にすぎません。
実務上の防衛策としては、保険料の金額だけでなく、将来受け取れる年金額と、加入している間に受けられる保障の両方を合わせて確認することです。特に社会保険の加入義務がある働き方に切り替えるかどうかを迷っている場合は、目先の保険料だけで判断しないようにしてください。
7. 受給額にも、同じ構造の違いが表れる
保険料の違いは、将来受け取る年金額の違いにもつながります。ここも2つの制度の性格の差がはっきり出る部分です。
7.1 国民年金は加入期間、厚生年金は加入期間と報酬の両方で決まる
老齢基礎年金(国民年金から受け取る年金)は、保険料を納めた期間の長さで金額が決まります。満額を納めた人と、一部未納がある人とでは金額が変わりますが、現役時代の収入の多い少ないは関係ありません。
一方、厚生年金から受け取る老齢厚生年金は、加入期間に加えて、現役時代の標準報酬月額(おおよその収入水準)も反映されます。同じ加入期間でも、収入が高かった人ほど受け取る年金額は多くなる仕組みです。
7.2 厚生年金加入者は、基礎年金の上に上乗せがある
厚生年金に加入していた人は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取れます。国民年金だけに加入していた人と比べると、受け取る年金の種類そのものが増えることになります。
この「上乗せ」があることが、厚生年金加入者の年金額が国民年金だけの人より多くなりやすい主な理由です。保険料を多く払った分が、そのまま受給額の上乗せとして返ってくる構造だと理解すると分かりやすくなります。
実際の受給額を見ると、厚生年金の受給者のうち月15万円以上を受け取っている人は、男女全体で49.8%です。男女差も大きく、男性は68.8%である一方、女性は12.3%にとどまります。現役時代の加入期間や標準報酬月額の違いが、そのまま受給額の男女差として表れている形です。
具体的な金額で比べると、老齢基礎年金の令和8年度の満額は月7万608円です。これに対し、厚生年金の平均受給月額は全体で15万289円と、基礎年金だけの場合のおよそ2倍の水準になっています。この差が、加入期間中に納めた保険料の違いを反映した結果です。
7.3 【国民年金のみと厚生年金加入者の受給額比較】
国民年金のみと厚生年金加入者の受給額比較2/2
出所:LIMO編集部作成
国民年金のみに加入していた場合
- 老齢基礎年金(満額):月7万608円
厚生年金に加入していた場合
- 老齢基礎年金+老齢厚生年金(平均):月15万289円
8. 【編集者の視点】
制度の複雑化が生む誤解の一つに、「厚生年金は国民年金より優れた制度」という単純化した理解があります。実際には、厚生年金は国民年金を土台にした上乗せの仕組みであり、優劣を比べる関係にはありません。
自営業者やフリーランスの方が「厚生年金に入れないのは損だ」と感じることもありますが、国民年金第1号被保険者には、収入が少ない時期に保険料の免除や猶予を申請できる制度が用意されています。厚生年金にはこうした個別の免除制度はなく、働き方に応じて用意されている仕組みが異なると捉えるほうが実態に近いでしょう。
自分の働き方に合わせてどちらの制度がどう関わっているかを正確に把握することが、将来の年金額を見通すうえでの出発点になります。判断に迷う場合は、年金事務所やねんきんネットで自分の加入記録を確認することをおすすめします。
特に、複数の勤務先を掛け持ちしている人や、フリーランスと会社員の働き方を年の途中で行き来している人は、加入記録に空白期間が生まれやすくなります。年に一度はねんきん定期便やねんきんネットで加入状況を見直す習慣を持っておくと、将来受け取る年金額の見通しが立てやすくなります。
9. まとめ
- 厚生年金は国民年金の代わりではなく、国民年金の上に上乗せされる2階建ての仕組みです。
- 国民年金の保険料は令和8年度で月1万7920円の定額、厚生年金は標準報酬月額の9.15%という定率です。
- 標準報酬月額19万円(第13等級)から20万円(第14等級)の境目で、本人負担だけを見れば厚生年金と国民年金の保険料の高低が入れ替わります。
- 受給額も同じ構造の違いを反映し、厚生年金加入者は老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされます。
- 働き方が変わると加入する制度の区分も切り替わるため、退職や転職の際は手続きを忘れないことが大切です。
国民年金と厚生年金は、どちらか一方を選ぶ制度ではなく、土台と上乗せという役割の異なる2つの仕組みです。保険料の負担方法も受給額の決まり方も異なるため、単純にどちらが得かを比べることには限界があります。
自分がどちらの制度にどう加入しているかを確認したい場合は、ねんきんネットで加入記録を確認するか、年金事務所の窓口に相談することをおすすめします。
10. よくある質問
10.1 Q. 厚生年金に加入すると、国民年金には入らなくてよいのですか。
A. 厚生年金に加入している人は、自動的に国民年金にも加入した扱いになります。個別に国民年金の手続きをする必要はなく、保険料も厚生年金の保険料に含まれる形で徴収されます。
10.2 Q. 保険料は厚生年金のほうが必ず高いのですか。
A. 必ずしもそうではありません。厚生年金の本人負担額は標準報酬月額の9.15%で決まるため、標準報酬月額が19万円(第13等級)以下の場合は、国民年金の定額1万7920円より本人負担が少なくなります。20万円(第14等級)以上になると、厚生年金の本人負担のほうが高くなります。ただし事業主負担分を含めた制度全体では、厚生年金のほうが手厚い保険料が支払われています。
10.3 Q. 扶養されている配偶者は、国民年金の保険料を払う必要がありますか。
A. 第3号被保険者に該当する場合、個別に保険料を納める必要はありません。配偶者が加入する厚生年金制度全体で保険料が負担される仕組みになっています。
10.4 Q. 転職や退職で加入する制度が変わるとき、何をすればよいですか。
A. 会社員から自営業になる場合は、市区町村の窓口で国民年金への加入手続きが必要です。次の勤務先が決まっている場合は、通常は転職先の会社が厚生年金の手続きを行います。空白期間が生じる場合は、退職後14日以内を目安に手続きを済ませることをおすすめします。
参考資料
LIMO編集部家計解説班

