親会社が持分を手放した会社は、そのあとどう変わるのか。意思決定が速くなり、資本効率も上がる。そんな筋書きを想像する人は多いだろう。日立建機(6305)の株価は直近1カ月で1割を超えて上昇し、2027年3月期1Qでは売上収益が過去最高となった。ただ、株主名簿と資本の数字を並べてみると、筋書きどおりとは言い切れない姿も見えてくる。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2027年3月期1Qの売上収益は3,291億円で過去最高、親会社株主に帰属する四半期利益は280億円と前年同期比+148.6%
- ②通期予想は売上収益1兆4,700億円、調整後営業利益1,500億円へ引き上げられ、年間配当190円の計画は維持された
- ③日立製作所の保有比率は18.36%まで下がり、ROEは8.6%、自己資本比率は48.5%。5期で資本の姿が入れ替わった
1. 1カ月で1割超の上昇、そしてPER15倍台という現在地
8月24日の終値は6,005円だった。1カ月前の7月24日は5,352円なので、この間の上昇率は+12.2%になる。
直近1カ月で最も低い終値は8月3日の5,244円で、そこからはほぼ一本調子の戻り方をしている。
目を引くのは足元の一段高だ。8月21日の5,644円から8月24日の6,005円まで、1営業日で+6.4%動いた。1カ月かけて積み上げた上昇幅の半分以上を、最後の1日で稼いだ計算になる。
なぜこの日に動いたのかを、単一の材料で断定することはできない。決算からは時間が経っており、相場全体の地合いが効いた可能性もある。
もっとも、決算の中身が時間をかけて評価し直される局面は、外需依存度の高い銘柄ではしばしば起こる。1カ月の値動きを一つの材料に紐づけないほうがよい。
バリュエーションは直近時点でPER(株価収益率)15.21倍、PBR(株価純資産倍率)1.39倍。2026年3月期末のBPS(1株当たり純資産)は4,231円で、そこから1.4倍弱の値付けということになる。
ここで押さえておきたいのは、この会社の収益が国内にほとんど依存していないことだ。2027年3月期1Qの販売先地域別売上収益をみると、日本は393億円で全体の12.0%にとどまる。
残り88%は海外である。PERの分母は、為替と海外の設備投資サイクルに大きく揺さぶられる。バリュエーションの見え方も、その揺れとセットで捉える必要がある。
2. 売上収益は過去最高、四半期利益は前年同期の2.5倍近くへ
2027年3月期1Qの売上収益(IFRS)は3,291億円で、前年同期比+7.5%。会社はこれを過去最高と位置づけている。
調整後営業利益は344億円で+55.7%、税引前四半期利益は439億円で+123.3%、親会社株主に帰属する四半期利益は280億円で+148.6%だった。前年同期の112億円から2.5倍近い水準まで跳ねている。
なぜここまで伸びたのか。会社の説明によると、中東地域を中心に市況の悪化と物流の混乱、輸送費の上昇が見られた一方、北米はインフラ投資が需要を下支えし、欧州にも回復の動きがあった。
マイニングも高水準の資源価格を背景に、ハードロックを中心に中南米などで底堅く推移したという。そのうえで売上を押し上げたのは、部品・サービスの伸びと為替の円安だとしている。
利益についても整理は明快だ。物流費を中心にコストは増えたが、部品・サービスの売上増、原価低減、販売価格の引き上げの継続が下支えしたという。
ここで注意したいのは、調整後営業利益の+55.7%と四半期利益の+148.6%の開きだ。差を生んだのは固定資産の売却で、これに伴うその他の収益119億円が営業利益を451億円まで押し上げている。
伸び率の大きさをそのまま実力と読むのは早い。事業として積み上がった部分と、資産を売って得た部分は分けて数えたい。
セグメント別では明暗が分かれた。建設機械ビジネスは売上収益2,931億円(+6.8%)、調整後営業利益324億円(+65.2%)と増収増益になっている。
一方、スペシャライズド・パーツ・サービスビジネスは売上収益383億円(+12.6%)に対し、調整後営業利益は19億円で▲20.5%だった。会社は顧客の投資抑制と競争環境の激化を挙げている。
マイニング周辺のアフターサービスは、売上が伸びても利益が落ちる。本体の建設機械ビジネスとは違う力学が働いているとみるのが自然だろう。
3. 上方修正の中身は為替。数量の前提はむしろ慎重に置かれている
会社は2027年3月期の通期予想を引き上げた。売上収益は1兆4,700億円(前期比+4.6%)、調整後営業利益は1,500億円(+12.8%)、税引前当期利益は1,430億円、親会社株主に帰属する当期利益は840億円(+14.8%)となる。
前回予想は順に1兆4,300億円、1,400億円、1,330億円、800億円だったので、いずれも上振れである。1株当たり利益は394.82円の計画だ。
修正の理由として会社が挙げるのは為替だ。想定を上回る円安水準で推移していることを反映したという。
同時に、中東地域での物流費上昇と、原油価格の高騰による資材費などのコスト上昇も、前回に織り込んでいなかった分として新たに反映している。2027年3月期2Q以降の前提レートは米ドル154円に置かれた。
一方で、数量の前提は強気ではない。会社は建設機械市場とマイニング市場が総じて底堅く推移するとしつつ、グローバル全体の需要は前年比で若干の減少を見込むとしている。
増収増益という絵の中身が、量ではなく為替と価格である。ここは押さえておきたい非対称だ。円安が反転すれば、同じ経路を逆向きにたどる。
進捗もみておこう。四半期利益280億円は通期840億円の33%にあたるが、この中には固定資産売却の分が含まれる。
調整後営業利益は344億円で、通期1,500億円に対して23%。季節性を踏まえても、こちらはまだ助走段階と言える。
年間配当は190円の計画が維持された。前期の175円から増配となる水準で、会社は安定的にキャッシュを創出している近時の状況を理由に挙げている。
中期経営計画「LANDCROS 2028」では業界トップスリーの地位を掲げ、北米、中南米、マイニング、部品・サービスの4つを重点事業に置いている。今回の1Qで効いたのは、まさにその4番目だった。
4. 筆者コメント
決算が良ければ株価はすぐに動くのか。日立建機の直近1カ月は、その問いに素直な答えを返していない。
1Qの数字が出てからしばらく、株価はむしろ水準を切り下げた。戻し始めたのは8月に入ってからで、一段高が来たのは月末近くである。市場が消化に時間をかけたのか、別の要因が重なったのか、そこは断定できない。
ただ、今回の増益の質を分解すると、時間がかかった理由の一端は見える。伸び率の大きさを作った要素と、事業として積み上がった要素が混ざっているからだ。一過性の収益を差し引いた本業の伸びを、市場が測り直していたと読むこともできる。
となれば、次に確かめたいのは部品・サービスの厚みだ。機械の販売台数は景気で揺れるが、すでに走っている機械の面倒を見る収益は、それより粘る。
四半期ごとの数字を追うとき、本体の増減より先にこの層を見る癖をつけることをおすすめしたい。
