「老後資金は、独身でも持ち家があれば安心」。そう言われることがあります。
たしかに毎月の家賃を払う必要はなくなります。
ですが持ち家には、固定資産税や修繕費という別の負担があります。これらは家計調査の「住居費」だけでは見えてきません。
この記事では、独身で持ち家を持つ方に向けて、老後資金の計算から抜け落ちやすい「見えないコスト」を、公的資料の数字だけで整理します。
- 65歳以上の単身の無職世帯でも、家計調査の住居費は月1万1416円にとどまり、固定資産税の実額はこの数字に含まれていません。
- マンションには国が示す修繕積立金の目安がありますが、戸建てには同じような公的な目安がなく、負担が見えにくくなっています。
- 独身の持ち家が将来空き家になると、固定資産税の軽減措置が外れ、税額が跳ね上がる可能性があります。
1. 独身の持ち家は、老後の住居費をどれだけ軽くするのか
まずは公表されている数字を確認します。
1.1 家計調査でみる65歳以上世帯の住居費
総務省統計局「家計調査(家計収支編)」の2025年平均(2026年2月6日公表)によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月14万8445円でした。
このうち「住居」の費用は1万1416円で、消費支出全体の7.7%にとどまっています。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯でも、住居費は1万7739円(消費支出の6.7%)と、他の費目に比べて低い水準です。
賃貸と比べれば、この低さは持ち家であることの効果だと考えられます。
1.2 二人以上世帯の持家率は9割近い
同じ調査で、二人以上の世帯の持家率は87.3%でした。65歳以上の世帯に限ると94.8%まで上がります。
単身世帯についても、住居費の低さから持ち家世帯が相当数含まれていると推測できますが、持家率そのものは今回確認できた資料には示されていませんでした。
2. 【執筆者コメント】
「持ち家なら住居費が軽い」という傾向自体は、家計調査の数字からも読み取れます。ここまでは、多くの記事が触れている内容です。
ただ、住居費が1万1416円という数字だけを見て、老後の住まいのコストをこれだけだと考えてしまうと、後で見誤ります。
この数字には、固定資産税も、将来の大きな修繕費も含まれていません。持ち家だからこそ発生する費目が、住居費の外側に隠れている状態です。
住居費だけで「持ち家だから安心」と結論づけず、固定資産税の納税通知書と修繕費の見積もりも確認しておく必要があります。
次の章から、この数字にどこまで実態が入っているのか、順番に確認していきます。
3. 家計調査の「住居費」が低いのは、持ち家か賃貸かを分けていないから
ここからは、住居費が低く見える理由を掘り下げます。
3.1 「住居」という費目に入っているもの
家計調査の「住居」費目は、家賃地代と設備修繕・維持の合計です。
2025年平均の二人以上の世帯では、住居費1万8678円のうち、家賃地代が8095円、設備修繕・維持が1万584円でした。
持ち家世帯は、この家賃地代がほぼゼロになります。65歳以上の単身無職世帯や夫婦のみの無職世帯の住居費も、賃貸世帯と持ち家世帯が混在した平均です。
3.2 【住居費の内訳(2025年平均)】
二人以上の世帯(平均)
- 住居費:1万8678円
- うち家賃地代:8095円
- うち設備修繕・維持:1万584円
65歳以上・夫婦のみの無職世帯
- 住居費:1万7739円(消費支出の6.7%)
65歳以上・単身無職世帯
- 住居費:1万1416円(消費支出の7.7%)
持ち家世帯と賃貸世帯で分けた内訳が公表されていない以上、平均の住居費を自分の負担感と単純比較はできません。
4. 【執筆者コメント】
統計の「住居」という言葉と、生活者が思う「住まいにかかるお金」は、実は範囲が違います。
固定資産税は「住居」費目ではなく、税金として別の「非消費支出」に分類されています。火災保険料も、住居費には入っていません。
そのため、家計調査の住居費だけを見て老後の住まいの費用を見積もると、固定資産税や保険料の分だけ、実態より低く出てしまいます。
持ち家世帯だけの住居費が公表されていない以上、平均値をご自身の負担感とそのまま比べるのは避けたほうがよいでしょう。
住居費に加えて、固定資産税の納税通知書と火災保険の契約内容も、あわせて確認しておくと安心です。
5. マンションには修繕積立金の「目安」があるが、戸建てには存在しない
次に、修繕費という「見えないコスト」を見ていきます。
5.1 国交省が示す修繕積立金の目安
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を、令和6年6月に改定しました。
このガイドラインは、長期修繕計画の事例366件を基に、建物規模別の修繕積立金の目安を示しています。
例えば延床面積5000平方メートル未満・20階未満のマンションでは、平均335円、事例の3分の2が収まる幅は235円から430円(いずれも1平方メートルあたり月額)です。
5.2 【マンションの修繕積立金の目安(1平方メートルあたり月額)】
20階未満のマンション
- 5000平方メートル未満:平均335円(幅235円〜430円)
- 5000〜1万平方メートル:平均252円(幅170円〜320円)
- 1万〜2万平方メートル:平均271円(幅200円〜330円)
- 2万平方メートル以上:平均255円(幅190円〜325円)
20階以上のマンション
- 平均338円(幅240円〜410円)
この目安は、あくまでマンション向けに集計されたものです。戸建てを対象にした同種の公的な目安は、今回確認できた資料の中にはありませんでした。
つまり戸建ての方は、自分で修繕費の計画を立てないと、負担を比べる基準そのものを持てません。
6. 【執筆者コメント】
マンションの区分所有者は、管理組合が毎月の修繕積立金を集めてくれるため、負担が「見える化」されています。
戸建ての場合、屋根や外壁、給排水管の修繕費は、必要になったときに一括で支払うことになりがちです。
老後の資金計画に組み込むには、国交省の「長期修繕計画作成ガイドライン」の考え方(30年以上・大規模修繕2回を含む期間)を、自分の家にも当てはめてみることが自衛策になります。
目安がない分、先延ばしにしがちですが、放置すると劣化が進み、工事費がかさむこともあります。
工事の時期や金額は住宅の状態によって変わるため、建築士やリフォーム会社に点検を依頼して確認することをおすすめします。
7. 編集部試算:単身向けマンションと戸建ての固定資産税、老後の負担を数字で見る
ここからは、公的な数字と制度を使い、編集部で負担額を試算します。前提条件をご確認ください。
7.1 修繕積立金を単身向けの住戸で試算する
前章の目安を使って、専有面積40平方メートルの住戸を持つケースを編集部試算します。
延床面積5000平方メートル未満のマンションの平均値335円を使うと、月額の修繕積立金は1万3400円です。
年間では16万800円になります。事例の3分の2が収まる幅(235円〜430円)で計算すると、月9400円から1万7200円、年11万2800円から20万6400円の範囲です。
7.2 固定資産税を仮の評価額で試算する
次に固定資産税を試算します。総務省によると、標準税率は1.4%です。
住宅用地は200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)で課税標準が6分の1に、200平方メートルを超える部分(一般住宅用地)で3分の1に軽減されます。
仮に土地の評価額を1200万円、建物の評価額を500万円とします(土地は200平方メートル以下)。
土地の税額は、1200万円に6分の1と1.4%を掛けて2万8000円です。建物の税額は、500万円に1.4%を掛けて7万円になります。
合計すると年9万8000円、月あたりでは8167円です。
修繕積立金と合わせると、マンション暮らしでも固定資産税と修繕積立金だけで月2万円前後が老後の家計から出ていく計算になります。
8. 【執筆者コメント】
この試算は、評価額を仮に置いた計算です。実際の固定資産税は、毎年送られてくる納税通知書で確認できます。
評価額は3年に一度見直されるため、古い通知書の金額をそのまま使うと、実態とずれることがあります。
老後資金の計画を立てる際は、直近の納税通知書の額を基準にし、修繕積立金や修繕費の目安を上乗せして考えることをおすすめします。
マンションか戸建てかで前提が変わるため、ご自身の住まいの種類に応じて、どちらの数字を使うべきかを確認しておくことも大切です。
不明な点は市区町村の税務担当課や、住宅金融支援機構等の窓口に確認すると安心です。
9. 独身の持ち家が空き家になったとき、固定資産税はどう変わるか
最後に、独身の持ち家特有のリスクを確認します。
9.1 住宅用地の軽減措置が外れる仕組み
前章で使った固定資産税の軽減(6分の1・3分の1)は、住宅用地であることが前提です。
国土交通省の資料によると、老朽化などで「特定空家等」や「管理不全空家等」に指定され、市区町村長から勧告を受けると、この軽減の対象から外れます。
軽減が外れると、小規模住宅用地の部分は課税標準が評価額そのものに戻るため、税額は理論上最大で6倍程度まで上がる計算になります。
前章の試算(土地の税額2万8000円)に当てはめると、軽減が外れた場合の土地の税額は16万8000円になります。
9.2 勧告の実績と、独身世帯が意識したい点
国土交通省の資料では、2015年5月から2023年3月までに、特定空家等への勧告が3078件、417市区町村で行われています。命令は382件、行政代執行は180件でした。
独身の持ち家は、入院や施設への入所、死亡などをきっかけに、管理する人がいなくなりやすいという特徴があります。
同居家族がいる世帯より、空き家化のリスクを生前から考えておく必要性が高いといえます。
10. 【執筆者コメント】
この制度は、空き家を放置させないための仕組みであり、独身世帯を狙ったものではありません。
ただ、独身の持ち家では「誰が住まなくなった後の管理を担うか」を、早い段階で決めておく重要性が相対的に高くなります。
将来の管理や処分の方針を、生前に書面などで決めておくことなどが考えられます。判断力があるうちに決めておくほど、選べる選択肢は多く残ります。
空き家対策や相続に関する具体的な手続きは、お住まいの自治体の空き家相談窓口や、司法書士・行政書士等の専門家に確認することをおすすめします。
11. まとめ
- 65歳以上の単身無職世帯の住居費は月1万1416円ですが、これは持ち家世帯と賃貸世帯を分けない平均です。
- 固定資産税は住居費には含まれず、非消費支出として別に計上されています。
- マンションには国交省が示す修繕積立金の目安がありますが、戸建てには同種の公的な目安がありません。
- 独身の持ち家が空き家になると、固定資産税の住宅用地の軽減が外れ、税額が跳ね上がる可能性があります。
「持ち家があれば老後の住居費は安心」という見方は、家計調査の数字からも支持できます。ただ、それは住居費という一つの費目だけの話です。
固定資産税の納税通知書を確認し、自宅の修繕計画をおおまかに立てておくこと。それが、独身の持ち家における次の一歩になります。
12. よくある質問
12.1 Q. 独身で持ち家がある場合、老後資金はいくら準備すればいいですか
A. 今回確認した資料には、持ち家世帯限定の必要額はありませんでした。固定資産税の納税通知書の額と修繕計画の積立額を、年金額と合わせて確認することをおすすめします。
12.2 Q. マンションと戸建て、どちらが老後の維持費は少なく済みますか
A. 一律にどちらが少ないとは言えません。マンションには修繕積立金の公的な目安がありますが、戸建てにはなく、個別差が大きくなります。
12.3 Q. 固定資産税の住宅用地の軽減が外れるのは、空き家にした場合だけですか
A. 特定空家等または管理不全空家等に指定され、市区町村長の勧告を受けた場合に、住宅用地特例の対象から除外されるとされています。個別の判断は市区町村の税務担当課に確認してください。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(2026年3月10日掲載)
- 総務省「固定資産税の概要」
- 国土交通省「固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」(令和6年6月改定)
齊藤 慧

