自動車メーカーの決算は、クルマが売れたかどうかで決まる。普通はそう考える。だが日産自動車(7201)の数字を分解すると、その前提が少し揺らぐ。営業利益を作っているのは、売上の1割しかない事業のほうだ。株価は当日大きく反発したが、この1カ月ではほとんど動いていない。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①2027年3月期1Qの営業利益は778億円。前年同期の791億円の営業損失から黒字へ転じた。
  • ②その内訳は自動車事業が177億円の損失、販売金融事業が861億円の利益。稼いでいるのは販売金融のほうだ。
  • ③株価は2026年8月20日の終値337円で前日から大きく反発。直近時点のPERは59倍、PBRは0.2倍台にとどまる。

1. 1カ月ではほぼ横ばい、当日だけが大きく戻した

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

2026年7月22日の終値は334円、2026年8月20日の終値は337円。直近1カ月では、ほとんど動いていない。

ただ中身は静かではなかった。7月29日には358円まで上げ、そこから8月4日の322円へ下げている。

8月中旬は330円前後で膠着し、8月19日には316円と直近1カ月で最も低い水準まで下げた。そして当日、8月20日は337円である。前日から6%を超える反発だ。

1カ月では横ばい、直近数日では急落から急反発。二層の動きが同時に起きている。

直近時点のPERは59倍、PBRは0.2倍台。PBRが1倍を大きく下回る一方でPERが高い、というねじれた組み合わせになっている。

純資産に対する市場の評価は薄く、その一方で足元の利益はごく小さい。会社が示す通期の当期純利益予想が200億円という水準にとどまることが、PERを押し上げている。

この会社は完成車の製造販売と、販売金融という二つの顔を持つ。前者は台数と為替に、後者は貸出やリースの残高と金利に左右される。

加えて過去の有価証券報告書の虚偽記載に関連した訴訟が国内外で続いており、進行状況によって連結業績に影響が生じる可能性があることも、会社自身が短信で断っている。株価が動きにくい理由を、決算数値だけに求めるのは無理があるだろう。

2. 営業利益778億円。1,570億円の改善は何が生んだのか

2027年3月期1Qの売上高は2兆9,642億円で前年同期比+9.5%。営業利益は778億円で、前年同期の791億円の営業損失から黒字へ転じた。

改善幅は1,570億円になる。会社の説明によると、これは主に為替変動とコスト削減活動によるものだ。

販売の側は伸びていない。グローバル全体需要は前年同期比2.1%減の2,115万台、自社のグローバル小売台数は0.9%減の70万1千台だったという。台数が減るなかでの黒字転換である。

経常利益は490億円で、前年同期の1,092億円の経常損失から改善した。親会社株主に帰属する四半期純利益は37億円で、前年同期の1,157億円の純損失から黒字へ戻っている。

通期予想は売上高13兆円、営業利益2,000億円、当期純利益200億円。1Q時点で営業利益の進捗は38.9%に達した。単純な4分の1のペースを大きく上回る。

売上総利益の水準を見ると、改善の厚みが分かる。1Qの売上総利益は4,694億円で、前年同期の2,364億円からほぼ倍になった。

一方で販売費及び一般管理費は3,915億円へ増えている。前年同期は3,155億円だった。粗利の回復幅が費用の増加幅を上回ったことで、営業損益が反転した形だ。

ここまでは強気に読める数字だ。ただ黒字転換の中身を開けると、印象は変わる。

3. 黒字転換の内訳。本業はまだ赤字のままだ

1Qのセグメント別を見ると、自動車事業は177億円のセグメント損失、販売金融事業は861億円のセグメント利益だった。

前年同期は自動車事業が1,720億円の損失、販売金融が785億円の利益。自動車事業の赤字が10分の1近くまで縮み、販売金融は着実に利益を積んでいる。

利益の下の段でも同じ構図が続く。事業別に見た四半期純損益は、自動車事業が572億円の損失、販売金融が609億円の利益。連結の37億円は、この二つの差し引きで残った数字だ。

通期でも姿は変わらない。2026年3月期の自動車事業は売上10兆7,602億円で連結の89.6%を占めながら、2,928億円の営業損失だった。

販売金融は売上1兆2,475億円で構成比10.4%。そこから2,979億円の営業利益をあげている。営業利益率は23.88%に達する。

自動車業界はクルマの販売で稼ぐという一般的な見方と、この数字は正面からぶつかる。売上の1割の金融事業が、連結営業利益のほぼすべてを作っている。二つの姿が同時に成立している局面だ。

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出所:日産自動車株式会社 有価証券報告書および決算短信をもとに筆者作成

出所:日産自動車株式会社 有価証券報告書および決算短信をもとに筆者作成

4. 筆者コメント

売上の1割の事業が利益の全部を作る構図は、いつまで続けられるのだろうか。販売金融はクルマが売れることで貸出やリースの残高が積み上がる事業だ。台数が減り続ければ、金融の元手も細っていく。

1Qの数字を見る限り、その心配はまだ表に出ていない。販売金融の売上は前年同期から伸び、利益も積み上がった。

ただ順番を間違えないほうがいい。金融が支えているから自動車の再建に時間を使える、というのが正しい読み方だろう。金融が稼ぐから会社が強い、ではない。

為替とコスト削減で作った黒字は、条件が変われば元に戻る。次の決算では、自動車事業の損失が本当に縮み続けているかを、連結の利益より先に確かめてほしい。