「温泉に入って税金が戻ってくる」と聞いたことはないでしょうか。

実際、こうした制度は存在します。ただし、誰でも好きな温泉旅行の費用を医療費控除にできるわけではありません。

観光や保養が目的の温泉旅行は、原則として医療費控除の対象になりません。

一方で、厚生労働省と国税庁が定める一定の基準を満たした「温泉療養」であれば、施設利用料や往復の交通費を医療費控除として申請できます。

持病の緩和やリハビリを兼ねて温泉療養を検討している後期高齢者(75歳以上)の方や、そのご家族にとって、この違いを正しく理解しておくことは、思わぬ手続き漏れを防ぐうえで重要です。

ココがポイント
  • 後期高齢者の持病緩和やリハビリ目的の「温泉療養」も対象
  • 観光目的の温泉旅行は医療費控除の対象外
  • 医師の指示書・認定施設・7日以上の利用が控除の必須要件
  • 宿泊料・食事代は対象外、施設利用料と往復交通費のみが対象

1. 「温泉旅行」と「温泉療養」はまったく違う扱いになる

まず押さえておきたいのは、税制上「温泉旅行」と「温泉療養」は別物として扱われるということです。

気分転換や観光を目的にした温泉旅行は、体調に良い影響があったとしても、医療費控除の対象にはなりません。

控除の対象になるのは、厚生労働省が定める「健康増進施設認定規程」に基づき大臣認定を受けた施設で、治療を目的とした温泉療養を行った場合に限られます。

厚生労働省はこの認定制度のもとで、運動型健康増進施設、温泉利用型健康増進施設、温泉利用プログラム型健康増進施設という3つの類型の施設を認定しています。

このうち、医師の指示に基づき治療のため温泉療養を行った場合に、所得税法第73条の医療費控除の対象として扱われるのが「温泉利用型健康増進施設」です。

2. 医療費控除の対象になる3つの必須要件

国税庁の通達および厚生労働省の告示によると、温泉療養で医療費控除を受けるには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

1つ目は、利用前に医師の診察を受け、「温泉療養指示書」の発行を受けていることです。

自己判断で温泉療養を始めても、事前の指示書がなければ対象になりません。

2つ目は、厚生労働省が認定した「温泉利用型健康増進施設」で療養を行うことです。

近所の温泉旅館や日帰り温泉施設であっても、この認定を受けていなければ対象外になります。

3つ目は、一定以上の利用期間です。

原則として、指示書に基づき概ね1か月以内に7日以上のプログラムを利用することが必要です。

この7日間は連続でなくてもかまいません。週末だけ通うような利用の仕方でも、1か月以内に合計7日に達していれば条件を満たします。

温泉療養で医療費控除を受ける3つの必須要件と対象になる費用・対象外の費用1/2

温泉療養で医療費控除を受ける3つの必須要件と、対象になる費用・対象外の費用

LIMO編集部作成

和田直子
3つの要件のなかで見落とされやすいのが、「事前の指示書」という順序です。

先に温泉に行ってから、後で医師に診断書を書いてもらおうと考える方もいらっしゃいますが、これは認められません。

温泉療養指示書は、あくまで利用前の受診に基づいて発行されるものです。

温泉療養を検討し始めた段階で、まずかかりつけ医に相談し、指示書を発行してもらえるかどうかを確認しておくと、手続きがスムーズに進みます。

3. 対象になる費用・対象外の費用

控除の対象になるのは、療養に直接必要な費用に限られます。

対象になるのは、認定施設の利用料、温泉利用の指導料、そして施設までの往復交通費です。

交通費については、電車やバスといった公共交通機関の運賃が対象で、自家用車で移動した場合のガソリン代や高速料金は対象外になります。

一方、宿泊にかかる費用や食事代、観光目的で追加したサービスの費用は、療養に直接必要な費用とはみなされず、対象外です。

療養のために温泉地に泊まる必要があっても、宿泊代そのものは控除に含められない点は、誤解しやすいポイントといえます。