謎に包まれたサービス事業の正体
5つのサービス区分と開示思想の違い
粗利の4割を稼ぎ出すサービス事業ですが、具体的にどのような内容が含まれているのでしょうか。Appleの年次報告書(10-K)によれば、サービス事業は以下の5つの区分で構成されています。
- 広告(自社の広告プラットフォームからの収益など)
- AppleCare(有償サポートや保証サービス)
- クラウドサービス(iCloudのストレージ料金など)
- デジタルコンテンツ(App Store、Apple Music、Apple TVなど)
- 決済サービス(Apple Payなど)
しかし、Appleはこれら5つの区分ごとの売上金額を開示していません。日本の企業であれば、セグメントごとの売上や利益を細かく開示することが一般的ですが、なぜAppleは詳細を伏せているのでしょうか。
泉田氏はこの点について、個人的な見解と前置きした上で、日米の企業における情報開示の思想の違いを指摘します。
「アメリカの企業ほど開示が悪いです。そしてもっと言うと、日本企業は開示しすぎです」
泉田氏によれば、企業が詳細な情報を開示しすぎると、グローバルな競合他社の調査チーム(インテリジェンス)に自社のビジネスモデルや弱点を分析されるリスクが高まります。また、アナリストの立場から見ても、細かすぎる開示は収益予想モデルを複雑にし、作業を増やすだけになりかねないといいます。
プロの投資家はどう予測するのか
では、詳細な開示がない中で、プロの機関投資家はどのようにAppleのサービス収益を予測しているのでしょうか。泉田氏は、世の中で実際に使われているiPhoneの台数(インストールベース)を軸に推計する手法を解説します。
まず、過去に売れた台数を積み上げ、「買い替えサイクルが何年か」という前提を置いて古くなった端末を差し引いていくことで、いま世の中で使われているiPhoneの台数を推計します。次に、そのインストールベースに対してサービス売上がどれくらいの比率でついているかを、過去の実績から求めます。あとは将来のiPhoneの台数予想にその比率を掛け合わせれば、サービス収益の予想を組み立てられるという考え方です。
※補足:ただし、Appleは2018年11月に提出した資料(iPhone 46,889千台)を最後に、販売台数の開示を終了しています。そのため、現在のアナリストは外部の出荷推計データと買い替えサイクルからインストールベースを独自に積み上げて推計を行っています。
ここで重要なのは、Appleのサービス事業はあくまで「自社のハードウェアが普及していること」を前提としている点です。Appleの年次報告書でも、サービスは製品に付随するもの(related services)として定義されています。つまり、ハードウェアが売れなければ、サービス収益もついてこないという構造なのです。
iPhoneの普及率と今後の成長余地
先進国でのシェアは頭打ちか
サービス収益の基盤となるiPhoneですが、今後の成長余地はどの程度あるのでしょうか。ウェブ閲覧のアクティブ端末ベース(普及・利用ベース)のデータを集計しているStatCounterの直近12ヶ月平均を見ると、興味深い事実が浮かび上がります。
日本のiPhoneシェアは長らく世界一の水準を維持してきましたが、直近のデータではカナダ(60.6%)にわずかに抜かれ、2位(60.5%)となっています。また、日本のシェアは2019年末の約69.6%をピークに、徐々に低下傾向にあります。
泉田氏は、日本や北米、オーストラリア、イギリスといった先進国におけるiPhoneの普及率の高さに触れ、次のように分析します。
「シェアがガンガン上がるかというとそうでもないので、先進国だけで引っ張るのはちょっと厳しいなという気はしています」
人口が爆発的に増えない先進国において、すでに高いシェアを獲得している状態では、販売台数を劇的に伸ばすことは困難です。そのため、Appleが売上を伸ばすためには、カメラの性能向上などによる「高機能化・単価アップ」が重要なドライバーになってくると泉田氏は指摘します。
経営交代とAppleの次の打ち手
新CEOジョン・ターナス氏への期待
iPhoneの次なる成長ドライバーが求められる中、Appleは大きな経営体制の変更を発表しました。ティム・クック氏が会長(Executive Chairman)に退き、2026年9月1日付でジョン・ターナス氏が新たなCEOに就任することが決まったのです。
ティム・クック氏の最大の功績は、スティーブ・ジョブズ氏から引き継いだAppleのキャッシュフローを劇的に改善し、iPhoneを収益の柱として強固なものにしたことです。一方で、iPhoneに次ぐ新たな柱を育てきれなかったという課題も残しました。
次期CEOとなるジョン・ターナス氏は、ペンシルベニア大学で機械工学の学士を取得し、2001年にAppleの製品デザインチームに入社した生粋の技術者です。報道によれば、入社直後はMac用のディスプレイを担当し、その後iPadやAirPodsへと担当を広げ、2020年にはiPhoneのハードウェアエンジニアリングも統括するようになりました。Apple公式のプロフィールによれば、現在はApple Vision Proを含む全ハードウェアを率いる立場にあります。
泉田氏は、この25年間ハードウェアを作り続けてきた技術者がトップに就く意味をこう読み解きます。
「新しい製品をこのジョン・ターナスという人が立ち上げて、大きくするところまでを役目として期待されているのかなと思います」
AI競争における「ただ乗り」戦略
テクノロジー業界では現在、AI(人工知能)を巡る激しい開発競争が繰り広げられていますが、AppleはGoogleやMicrosoftなどのハイパースケーラー(巨大なデータセンターを自前で建設・運用し、クラウドやAIの計算基盤を提供する企業)とは異なる独自のアプローチをとっています。
泉田氏は、Appleがあくまで「魅力あるハードウェアを消費者に届ける会社」であると強調します。そして、Appleの伝統的な戦略として「インフラへのただ乗り」を挙げます。
例えば、iPhoneの魅力は3Gなどの通信インフラがあってこそ活きるものですが、Apple自身が基地局に投資したわけではありません。Apple Payも既存のクレジットカード決済インフラの上に成り立っています。そして現在、他社が巨額の資金を投じているAIのインフラ投資競争にも、Appleは直接乗り出そうとはしていません。かつて話題になった自動運転車「Apple Car」の開発から撤退したのも、自動運転が最終的にインフラの競争になるため、そこへの投資を嫌がったからだと泉田氏は推測します。
「AIのインフラが一通り終わったところで、みんなが自由にAIを使えるようになった時に、ハードウェアとしてどういう付加価値を出せるかと考えているのが今のAppleだと思います」
泉田氏は、この「インフラが整い、誰もが参加できる環境になったタイミングで、魅力的なハードウェアを投入する」という哲学は、日本の任天堂と非常に似ていると指摘します。かつて任天堂の岩田聡氏と議論を交わした経験を持つ泉田氏によれば、岩田氏も「みんながちゃんと使える環境か」を強く重視しており、誰かは使えて誰かは使えない、という状態を嫌っていたといいます。インフラが整うのを待ってからハードウェアで勝負するという両社の発想は、そこで重なります。
強固なサービス収益を背景に、次期CEOのもとでどのような新しいハードウェアが生み出されるのか。Appleの真の戦いは、AIのインフラが整ったこれから本格化するのかもしれません。
なお、本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
参考資料
- Apple Inc.「FY2026 Q3 Form 8-K Ex-99.1」(2026年7月30日)
- Apple Inc.「FY2026 Q3 Form 10-Q」(2026年7月31日)
- Apple Inc.「FY2025 Form 10-K」
- Apple Newsroom「Tim Cook to become Apple Executive Chairman, John Ternus to become Apple CEO」(2026年4月20日)
- StatCounter 国別 iPhone 利用シェア(ウェブ閲覧のアクティブ端末ベース・2019年〜2026年)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
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