今年の5月に「健康保険法等の一部を改正する法律案」が成立しました。

筆者はファイナンシャルプランナー(FP)ですが、お客様の家計相談をお受けしている中で、今回の「医療保険の改正」について、まだご存じない方が非常に多いと実感します。家計への影響やこれからの変更点をお伝えすると、ご自身の医療費がどう変わるのか驚かれることも少なくありません。

今回の改正は、少子高齢化が進む中で医療保険制度を持続可能なものとするため、負担と給付のバランスを大きく見直す内容となっています。

負担が少し増える見通しの部分もあれば、子育て世帯などに向けたサポートが手厚くなる部分も存在します。今回は、私たちの生活や家計に直結する「5つの変更点」と、知っておきたい「セルフメディケーション税制」についてわかりやすく解説します。

この記事の3つのポイント

  •  令和8年に成立した医療保険制度改正の「5つの重要ポイント」
  •  日常の処方薬に対する自己負担がどう変わるかの見通し(OTC類似薬の見直し)
  •  医療費負担を和らげる「セルフメディケーション税制」のやさしい活用法

1. 【令和8年成立】これからの医療保険はどう変わるか。私たちの生活に直結する5つのポイント

今回の法改正において、特に家計への影響が大きいと思われるポイントは以下の5つです。将来に向けた制度の維持を目的として、負担の調整や支援の拡充が検討されています。

1.1 OTC類似薬の薬剤給付の見直しについて(令和9年3月1日施行想定)

風邪や胃痛、花粉症など、日常的な軽い症状で病院を受診した場合のお薬代の仕組みが見直されます。ドラッグストアなどで買える市販薬(OTC医薬品)と同じ成分の薬を病院で処方してもらった場合、通常の窓口負担に加えて、お薬代の4分の1が「上乗せ」で別途自己負担となる予定です。

※ただし、子どもやがん、難病など、継続的な配慮が必要な患者さんには、この上乗せ負担を求めない特例措置などが検討されています。

1.2 高額療養費の年間上限の新設などの見直しについて(令和8年8月1日から順次施行)

医療費の自己負担が高くなってしまった際に助かる「高額療養費制度」も見直されます。所得や医療費の伸びに合わせて月々の上限額は調整されますが、長期間治療を続ける方(多数回該当)の負担額は据え置かれる予定です。

さらに、新たに「年間の自己負担上限」が設けられる方向です。この年間上限に達した後はその年の窓口負担が実質不要になるため、重い負担を抱える方の安心に繋がりそうです。

1.3 後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映について(公布後5年以内)

これまで、株式の配当などの金融所得は、確定申告をする・しないで窓口の負担割合や保険料に差が生じることがありました。今後は、金融機関から提出されるデータを活用し、確定申告の有無に関わらず金融所得が負担判定に公平に反映されるようになります。なお、データで自動的に把握される仕組みのため、私たちが新たに面倒な手続きをする必要はないとされています。

1.4 妊娠・出産に対する支援の強化について(公布後2年以内)

出産時のまとまった出費に対するサポートも前進する見通しです。標準的な出産費用については、医療保険から直接病院へ支払われる「現物給付」の仕組みが導入され、窓口で支払う一時的な費用の負担が大きく軽減される見込みです。さらに、すべての妊婦さんへ定額の現金給付も検討されています。

また、産院が提供するサービスや費用の内訳が「見える化」されることで、より納得して産院選びができるようになりそうです。

1.5 子育て世帯の国民健康保険料の負担軽減(令和9年4月1日施行)

国民健康保険(国保)に加入している子育て世帯に嬉しいお知らせです。これまで未就学児のみが対象だった「子どもの均等割保険料の半額免除」が、「高校生年代まで」広がります。教育費がかさむ時期の固定費負担が、少し軽くなりそうです。

2. OTC類似薬の薬剤給付の見直しで関わってくるセルフメディケーション税制とは

OTC類似薬の薬剤給付の見直しについて、令和9年以降は市販薬でも代用できる薬(OTC類似薬)を病院で処方された場合、自己負担が少し増える可能性があります。こうした制度の変更に伴い、軽い不調時にかかる医療費の負担を懸念される方も少なくありません。そこで、家計防衛のひとつの選択肢としてぜひ知っておきたいのが、「セルフメディケーション税制」という仕組みです。

2.1 セルフメディケーション税制の仕組み

セルフメディケーション税制とは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」という自発的な健康管理の取り組みを、国が税制面から支援する制度です。

セルフメディケーション税制に係る医療費控除額の計算方法2/3

セルフメディケーション税制に係る医療費控除額の計算方法

出所:国税庁「パンフレット「暮らしの税情報」(令和8年度版)医療費を支払ったとき」

健康診断や予防接種などを受けている人が、対象となる市販薬を年間で1万2000円を超えて購入した場合、その超えた金額分を所得から差し引く(所得控除)ことができます。これにより、翌年の住民税や所得税が少し安くなる可能性があります。

※注意点

従来の「医療費控除(年間10万円超え)」とは併用できないため、ご自身の状況に合わせて有利な方を選ぶことになります。

2.2 対象となる「スイッチOTC医薬品」

この税制の対象となるお薬の中心が「スイッチOTC医薬品」です。これは、もともと医師の処方箋が必要だった薬のうち、安全性が確認され、ドラッグストア等で購入できるようになったお薬のことです。

例えば、以下のような日常的なトラブルに使う薬が対象に含まれることがあります。

  • 解熱鎮痛薬(頭痛、肩こりなど)
  • 抗アレルギー薬(花粉症、鼻炎など)
  • 便秘薬
  • 去痰薬(風邪の症状など)
  • 胃腸薬

2.3 対象となる薬の見分け方

対象となる成分や品目は更新されるため、厚生労働省のホームページなどで最新情報を確認できますが、店頭でも簡単に見分けるヒントがあります。

  • パッケージのマーク:対象となる薬の箱には、「セルフメディケーション税控除対象」という共通の識別マークが印字されていることがあります。
  • レシートの記載: 購入した際のレシートに、「★」などの印と共に、対象商品であることが記載されます。

このレシートは確定申告の際に必要となるため、大切に保管しておくことをおすすめします。

もちろん、つらい時や不安な時は我慢せずに病院を受診することが一番大切です。その上で、ご自身の症状が軽く「市販薬で様子を見ようかな」と思えるような時は、こうした税制をひとつの選択肢として知っておくと、家計の助けになるかもしれません。

3. まとめにかえて

今回は、令和8年に成立した医療保険制度の改正ポイントと、知っておきたいセルフメディケーション税制について解説しました。

医療保険制度の改正では、高額療養費の年間上限新設、出産費用の現物給付、高校生までの国保保険料軽減など、サポートが手厚くなる部分もあります。一方で、軽い症状の処方薬に対する一部負担の見直しなど、負担が増える可能性のある部分も検討されています。

また、軽い不調の際には、無理のない範囲で「セルフメディケーション税制」を活用することで、税金面での優遇を受けられる可能性があります。

FPとしての視点ですが、制度が変わっていく中で、ご自身の健康や家計に関心を持つことが今まで以上に大切になってきていると感じます。とはいえ、一番の家計防衛は「日頃から予防や健康管理に努めること」です。制度の変更点を把握しつつ、ご家族の健康を第一に、無理のない範囲で制度を上手に取り入れてみてはいかがでしょうか。

参考資料

村岸 理美