半導体製造工程に幅広く使われている石英ガラス製品。熱処理成膜工程で使う石英チューブをはじめ、エッチング工程の石英リング/プレート、さらにはエピタキシャル成長や露光工程でも使われており、半導体を作るうえでは欠かせない部材の1つだ。

 半導体設備投資の低迷により、製造装置はもとより、製造装置向けの治具・パーツも投資停滞の影響を受けるが、石英製品は消耗品としての側面が強く、リピート需要によって他の部材ほどダメージは受けていない。半導体製造プロセス向けの石英ガラスを取り巻く市場動向と、参入各社の取り組みを紹介する。

火加工は高度な職人スキルが必要

 石英ガラスは二酸化ケイ素を原料とし、これを電気炉で溶解してインゴット化し、石英ガラス加工メーカーによって製品に仕上げられる。同手法を用いて作られた石英を溶融(天然石英)と呼ぶのに対し、化学的に合成された不純物の少ない材料を使って作製する合成石英ガラスもある。

 合成石英の方が割高であるが、不純物が多いと光学特性に悪影響が出るため、マスクブランクス用サブストレートや光ファイバーなどの光学材料は合成石英が中心となっている。溶融石英は高純度という特徴に加え、耐熱性や耐薬品性、均質性などの特徴を備えており、半導体製造工程で広く用いられている。

 石英ガラスの加工方法は、ガスバーナーを使って行う「火加工」と、専用設備を使って行う「機械加工」の大きく2つが存在する。火加工は縦型炉などの成膜装置に用いる石英チューブの製造に用いられ、機械加工を使った石英製品は、エッチング装置のプレートやリングなどに多い。

 特に火加工は職人がガスバーナーを持って、長年の経験をもとに加工を行うため、高度な職人スキルが求められる。人材の育成にも長い年月を要するため、付加価値要素が高い。

不況に強い石英ガラス

 足元ではメモリーを中心に半導体設備投資に減速感が出ており、製造装置メーカーの業績も振るわない。これら装置メーカーに治具やパーツを納入するサプライヤーも状況は基本的に同じであるが、そのなかでも石英ガラスは比較的落ち込みが軽微であり、「不況に強い」製品の1つといえる。

 半導体製造装置パーツを幅広く展開する㈱フェローテックホールディングス(東京都中央区)によれば、石英製品の需要構成は新規装置3割に対し、リピート(交換)需要は7割にも達する。真空シールやSiC製品、セラミックスのリピート需要が2~5割程度であることを考慮すれば、消耗品としての側面が強い。実際に、フェローテックは19年度(20年3月期)業績予想において、石英製品の売上高見通しを前年度比8%増と投資低迷のなかでもプラス成長を見込んでいる。

 また、不況に強いという特徴だけでなく、実際の市場規模も大きくなっている。半導体製造プロセスの高度化・複雑化によって、工程のなかでも成膜やエッチング工程が飛躍的に増えており、石英ガラスはこの恩恵を享受できている。特に3D-NANDが登場して以降はその流れが顕著になってきており、開発要素も高まっている。

「海賊パーツ」も存在

 ただ、半導体製造向け石英ガラスの市場規模は正確な実態把握が難しい。その要因となっているのが、装置メーカーの認定を受けていない、いわゆる「海賊パーツ」の存在だ。顧客である半導体メーカーはリピート需要の際は原則、装置メーカーが認定したサプライヤーから治具やパーツを調達するが、安価なサードパーティー製を求めるケースも多く、海賊パーツを手がける企業のなかでも、有力メーカーが育ってきているという。

 認定メーカーに限った石英ガラスの市場規模はおよそ1250億円(18年ベース)と推定される。トップは信越石英で、2位は東ソー・クォーツ。3番手以降もMARUWA、フェローテック、テクノクォーツという順番で、日系メーカーが優位な市場を形成している。ただ、韓国のWONIK(ウォーニック)やWCQ(West Coast Quartz、本社は米国)などの存在感も強まっている。今後、中国勢の台頭も予想されており、競争は激化しそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳