「人生100年時代」という言葉がすっかり定着し、定年退職後も何らかの形で働き続けるシニア層が珍しくなくなってきました。

2026年度の公的年金はプラス改定されたものの、相次ぐ飲食料品などの値上げラッシュにより、年金収入だけでは老後の生活が心もとないと感じる方が多いのも実情です。

実際にリタイアを迎えた後、シニア世帯の生活費は毎月いくらかかり、どれくらいの蓄えがあれば安心できるのでしょうか。

本記事では、65歳以上の無職夫婦世帯におけるリアルな家計収支の赤字額や、同じ70代でも「貯蓄ゼロ」と「3000万円以上」に分かれる資産の二極化について、最新の公的データをもとに紐解きます。

さらに、「シニアは何のためにお金を貯めているのか」という保有目的のデータから、高齢期ならではのお金に対する不安の正体を探っていきます。

1. この記事の3つのポイント

  •  シニア無職世帯の家計は月平均「約4.2万円の赤字」:年金などの社会保障給付だけでは生活費を賄えず、不足分を貯蓄から取り崩すのが実態です。
  •  70代の貯蓄は「ゼロ」と「3000万円以上」で二極化:現役時代からの備えの差が、老後の家計に大きな格差を生んでいます。
  •  シニアが貯蓄を手放せない理由は「病気や災害への備え」:十分な資産があっても、将来への不安からお金を消費に回せないリアルな心理が見えます。

2. 毎月約4.2万円の赤字?65歳以上・無職夫婦世帯のリアルな家計収支

65歳以上の無職夫婦世帯では、毎月どのような家計収支となっているのでしょうか。

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」をもとに、夫婦のみで暮らす無職世帯の平均的な収支を見てみましょう。

65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支1/4

65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支

出所:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」

  • 実収入:25万4395円(うち社会保障給付:22万8614円)
  • 非消費支出(税金・社会保険料等):3万2850円
  • 可処分所得(手取り額):22万1544円
  • 消費支出(生活費):26万3979円
  • ひと月の赤字:4万2434円

調査結果では、税金や社会保険料などを差し引いた手取り収入(可処分所得)は22万1544円となっています。

一方で、毎月の消費支出は26万3979円となっており、収支は4万2434円の赤字です。

公的年金を中心とした社会保障給付だけでは生活費を賄えず、不足分は現役時代に築いた貯蓄などを取り崩して補っている世帯が多いことがうかがえます。

さらに、物価上昇や予想外の支出も考慮すると、老後の生活を支えるうえでは、現役時代から資産を準備しておくことの重要性が高まります。

続いて、65歳以上の世帯がどの程度の貯蓄を保有しているのかを見ていきましょう。

3. 「貯蓄ゼロ」か「3000万円以上」か。65歳以上世帯で進む資産の二極化

総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果-」をもとに、世帯主が65歳以上の二人以上世帯における貯蓄状況を確認していきましょう。

二人以上世帯のうち「世帯主が65歳以上のシニア世帯」貯蓄額の平均・中央値2/4

二人以上世帯のうち「世帯主が65歳以上のシニア世帯」貯蓄額の平均・中央値はいくら?

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果-(二人以上の世帯)貯蓄の状況」

平均値と中央値

  • 平均値:2564万円
  • 貯蓄保有世帯の中央値:1777万円

平均額は2564万円ですが、一部の資産額が大きい世帯の影響を受けやすい数値です。

そのため、実際の状況を把握する際には、中央値もあわせて確認することが重要です。

では、世帯主が65歳以上の二人以上世帯では、どの程度の資産を保有しているのでしょうか。

3.1 貯蓄額ごとの割合を見る

4000万円以上の貯蓄を保有する世帯を含め、貯蓄額ごとの割合は次のとおりです。

  • 100万円未満:7.7%
  • 100万円~200万円未満:3.7%
  • 200万円~300万円未満:3.4%
  • 300万円~400万円未満:2.8%
  • 400万円~500万円未満:3.2%
  • 500万円~600万円未満:3.4%
  • 600万円~700万円未満:2.6%
  • 700万円~800万円未満:2.9%
  • 800万円~900万円未満:3.0%
  • 900万円~1000万円未満:2.3%
  • 1000万円~1200万円未満:5.6%
  • 1200万円~1400万円未満:3.9%
  • 1400万円~1600万円未満:4.4%
  • 1600万円~1800万円未満:3.1%
  • 1800万円~2000万円未満:3.3%
  • 2000万円~2500万円未満:8.2%
  • 2500万円~3000万円未満:6.2%
  • 3000万円~4000万円未満:9.0%
  • 4000万円以上:21.1%

4000万円以上の貯蓄を保有する世帯は21.1%となっており、およそ5世帯に1世帯の割合です。

十分な資産を保有している世帯もある一方で、貯蓄額が少ない世帯も一定数存在し、高齢世帯の資産状況には大きな差が見られます。

老後資金が不足したり、物価上昇によって想定以上に資産を取り崩す状況となったりした場合には、定年後も働いて収入を確保することが選択肢の一つとなります。

実際に2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法では、企業に対して70歳までの就業機会を確保する努力義務が設けられるなど、高齢者が働き続けられる環境づくりも進められています。

4. 筆者のコメント

熊谷 良子

高齢者の就労が進む一方、いつかは訪れる「働けなくなる日」への備えがやはり重要です。

私自身、かつて働きながら認知症の家族を介護した経験があり、医療や介護には想定外の見えない出費が潜んでいると実感しました。

例えば、75歳以上の「後期高齢者医療制度」では、現役並みの所得(年金収入のみの夫婦世帯で合計383万円以上など)があると医療費の窓口負担が3割になります。

また、介護保険の自己負担割合も所得により1〜3割と変動します。

制度のボーダーラインを現役時代から意識し、「手取り」でいくら残るかを考えて資産形成することも、老後の安心を確かなものにする第一歩だと考えています。

続いて、シニア世代の就業状況を見ていきましょう。

5. 70歳代の3人に1人が就業。データで見るシニア世代の働き方の変化

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、高齢者の就業率は全体として上昇傾向にあります。

年齢階級別就業者数及び就業率の推移3/4

年齢階級別就業者数及び就業率の推移

出所:内閣府「令和7年版高齢社会白書」

75歳以上では就業率に大きな変化は見られない一方で、65~69歳は53.6%、70~74歳は35.1%となっており、多くの人が高齢期も働いています。

また、「何歳ごろまで収入を伴う仕事を続けたいか」という設問では、「65歳くらいまで」が23.7%で最も高く、次いで「働けるうちはいつまでも」が22.4%となっています。

何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか(択一回答)4/4

何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか(択一回答)

出所:内閣府「令和7年版高齢社会白書」

さらに、現在収入を得る仕事に就いている人に限定すると、「働けるうちはいつまでも」と回答した人は33.5%を占めています。

就労を続ける背景は人それぞれですが、高齢期も仕事を続ける人は増えており、シニア世代の就業率は今後も高い水準で推移していくことが見込まれます。

6. 60歳代・70歳代《金融資産保有目的のトップ3》とは?

J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、本格的な年金生活を送る70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額は、平均2416万円、中央値1178万円となっています。

一部の富裕層が平均を押し上げていると同時に、「金融資産非保有(貯蓄ゼロ)」の世帯が10.9%存在する一方で、「3000万円以上」のゆとりある世帯が25.2%を占めるなど、現役時代の備えによる世帯間の二極化も浮き彫りになっています。

では、こうした金融資産を保有しているシニア世代は、そのお金を将来何に使おうと考えているのでしょうか。

同調査から、「金融資産の保有目的」を60歳代・70歳代(金融資産保有世帯)のデータで見てみましょう。

6.1 60歳代の金融資産保有目的トップ3(複数回答)

  • 1位:老後の生活資金(73.6%)
  • 2位:病気や不時の災害への備え(52.9%)
  • 3位:旅行、レジャーの資金(21.5%)

6.2 70歳代の金融資産保有目的トップ3(複数回答)

  • 1位:老後の生活資金(71.3%)
  • 2位:病気や不時の災害への備え(59.2%)
  • 3位:旅行、レジャーの資金(21.9%)

両年代ともに「老後の生活資金」が7割を超えてトップに。

また、「病気や不時の災害への備え」を挙げる人も半数以上おり、特に70歳代では約6割(59.2%)と60歳代よりやや高くなっています。

長寿化が進むなか、健康リスクや介護などへの不安から、万が一の事態に備えて手元に資金を残しておきたいという防衛意識が強く働いていることがうかがえます。

一方で、「旅行、レジャーの資金」も2割を超えており、セカンドライフを楽しむための「生きたお金の使い方」を意識している層も一定数存在します。

なお、「遺産として子孫に残す」と回答した割合は、60歳代で10.5%、70歳代で13.6%にとどまっており、子どもに資産を残すことよりも、まずは自分たちの生活や安心を最優先している実態が浮かび上がってきます。

7. 【まとめ】「年金+α」で備える、老後の安心に向けた資産形成と働き方

今回は、現在のシニア世代の暮らしぶりを「家計収支」「貯蓄額」「就業率」、そして「貯蓄二極化と保有目的」のデータから確認してきました。

2026年度の年金は4年連続で増額されましたが、長引く物価高により「年金だけでは生活が苦しい」と感じるシニア世帯が多いのが現実です。

年金だけで生活費をカバーしきれない場合、不足分は貯蓄を取り崩すか労働収入で補うことになります。実際に65歳以降も働き続けるシニア層は増えており、「長く働くこと」は家計を支える重要な選択肢です。

一方で、70歳代のデータが示すように、十分な貯蓄を持つ層と貯蓄ゼロの層の二極化が進んでおり、現役時代の備えが老後の安心感を大きく左右します。

また、貯蓄があっても「病気や災害への備え」として抱え込み、なかなか消費に回せないというシニアのリアルな心理も見えてきました。

安心した老後を迎えるためには、まずは「ねんきん定期便」などでご自身の年金見込額を正確に把握することが第一歩です。

その上で、現役時代からの計画的な資産形成と、長く働くための健康づくりという「両輪」で準備を進めていくことが不可欠と言えるでしょう。

参考資料