2026年6月も後半に入り、梅雨時の蒸し暑さとともに、これから迎える本格的な夏に向けたエアコンの電気代上昇が家計にのしかかる季節となりました。
長引くインフレと物価高のニュースが連日報じられるなか、現役世代はもちろん、これから年金受給を迎えるシニア層にとっても「老後の生活費は一体いくら必要なのか」「周りの同世代はどのくらい貯蓄を持っているのか」という不安は尽きません。
インターネット上には「老後資金は〇千万円必要」といった情報が溢れていますが、その多くは前提条件が曖昧なまま一人歩きしている数字です。
自身の老後設計を正しく行うためには、感情的な不安に流されるのではなく、国が公表している客観的な「一次データ」をもとに、平均値と実態(中央値)のギャップを冷静に把握することが不可欠です。
本記事では、総務省の「家計調査」や厚生労働省の統計データなどに基づき、65歳以上の無職夫婦世帯のリアルな家計収支や平均貯蓄額、そして男女別の公的年金受給額の実態について分かりやすく整理して解説します。
1. 65歳以上の無職夫婦世帯における家計収支の実態
老後資金の必要額を考える際、実際の家計データは重要な参考になります。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、毎月の収入と支出に一定の差が生じています。
1.1 夫婦のみ無職世帯(65歳以上)の家計収支データ
月々の収入内訳:65歳以上の夫婦のみ無職世帯
- 収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
月々の支出内訳:65歳以上の夫婦のみ無職世帯
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
支出合計29万6829円
この世帯の毎月の収入は25万4395円で、そのうち約9割(22万8614円)が年金などの社会保障給付です。
一方で支出は、消費支出26万3979円と非消費支出3万2850円を合わせて29万6829円となります。
つまり、平均すると毎月約4万2000円の赤字です。
仮にこの赤字が続くとすると、
- 1年間で約50万円
- 10年間で約500万円
の不足となります。
実際の生活では医療費や介護費用などが増える可能性もあるため、こうしたデータは老後資金を考えるうえでの一つの目安といえるでしょう。
2. 65歳以上の無職夫婦世帯における平均貯蓄額
総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」より、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)の平均貯蓄額を確認していきましょう。
2.1 貯蓄の種類別現在高の推移:世帯主が65歳以上の無職世帯

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の平均貯蓄額は、2494万円でした(2025年時点)。
- 2019年:2218万円
- 2020年:2292万円
- 2021年:2342万円
- 2022年:2359万円
- 2023年:2504万円
- 2024年:2560万円
- 2025年:2494万円
平均貯蓄額は増加傾向にあります。
貯蓄の内訳の推移を見ていくと、とくに有価証券が年々増えていることがわかります。
3. 有職者も含む65歳以上世帯の平均貯蓄額
次に「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」から、働くシニア世帯も含めた、世帯主が65歳以上世帯全体の貯蓄額を見てみましょう。
3.1 貯蓄高の階級別世帯分布:65歳以上の二人以上世帯(2025年)
貯蓄額の平均値と中央値:65歳以上の二人以上世帯
- 平均値:2564万円
- 貯蓄保有世帯の中央値(※):1777万円
働くシニア世帯を含めた65歳以上の二人以上世帯における平均貯蓄額は2564万円です。
ただし、貯蓄現在高が0円の世帯を除いた中央値は1777万円。平均値と約787万円の乖離があります。
平均値が、一部の貯蓄が多い世帯により引き上げられていると考えられます。
4. 国民年金と厚生年金の平均受給額と男女差
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2024年度末現在の平均年金月額は以下の通りです。
※厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。また、厚生年金の月額には国民年金(老齢基礎年金)部分が含まれています。
4.1 平均年金月額と受給額の個人差について
4.2 国民年金(老齢基礎年金)の平均月額
〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
4.3 厚生年金(国民年金部分を含む)の平均月額
〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
国民年金のみを受給する場合は男性が6万円台、女性が5万円台、厚生年金(国民年金部分を含む)では男性が16万円台、女性が11万円台が平均です。
しかし、グラフから分かるように、受給権者の間で年金額には大きな個人差があります。ご自身の年金見込み額は「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認できます。
5. 高齢者世帯が感じる生活のゆとり
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」から、高齢者世帯(※)が日々の暮らしに対してどのような意識を持っているのか、その実態を紐解いてみましょう。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
5.1 高齢者世帯における生活意識の調査結果
- 大変苦しい:25.2%
- やや苦しい:30.6%
- 普通:40.1%
- ややゆとりがある:3.6%
- 大変ゆとりがある:0.6%
調査結果を見ていくと、シニア世帯の経済状況は大きく3つのタイプに分かれていることがわかります。
最も多かったのは、生活に厳しさを感じている世帯です。「大変苦しい」「やや苦しい」と答えた人は合わせて55.8%と半数を超え、多くのシニアが家計の負担を感じながら暮らしている様子がうかがえます。
一方で、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と答えた世帯は、合わせても4.2%にとどまりました。経済的な余裕を実感しているシニアは、決して多くないのが実情といえそうです。
そしてその間に位置するのが、「普通」と答えた40.1%の世帯です。苦しいと感じる層には及ばないものの、ゆとりがある層よりは大きな割合を占めています。
経済的に余裕はないものの、堅実に暮らすシニア世帯が一定数いることも、この結果から見えてきます。
6. 公的年金のみで生活する高齢者世帯の割合
年金だけで生活している高齢者世帯は、実は多くありません。
厚生労働省が公表した「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によると、その割合は43.4%であることがわかっています。
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:43.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:16.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:15.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:12.9%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:8.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.0%
残りの56.6%の高齢者世帯は、公的年金や恩給以外の所得で生活費を補填していることがわかります。
公的年金のみで生活できない可能性も念頭に置いて、老後計画を立てる必要があるといえるでしょう。
7. まとめ:データから「自分の現在地」を把握し、冷静な老後設計を
ここまで、65歳以上の世帯における家計収支や貯蓄額の実態、そして公的年金の平均受給額のデータについて客観的な視点から解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
2026年6月現在、日々の食品値上げや夏の電気代負担が家計を圧迫するなかで、老後に対する漠然とした不安を抱くのは当然のことです。
しかし、一部の極端な平均値やネット上の煽り文句に一喜一憂するのではなく、まずは今回ご紹介したような「中央値」や「実際の不足額(月数万円)」といった客観的なデータを知ることが、堅実な生活設計の第一歩となります。
この記事を読み終えたら、まずはご自身の毎月の「生活費(消費支出)」がいくらなのか、家計簿や通帳から正確に割り出してみてください。そして、配偶者やご家族とともに「我が家の場合、年金だけでいくらカバーできるか」「健康なうちは月5万円でも働き続ける仕組みを作れないか」といった具体的な対話を持ってみましょう。
国に頼りすぎず、国のデータを賢く利用して自身の現在地を把握することこそが、不安のない老後を迎えるための最大の防衛策となります。
8. 【監修者のコメント】この記事の総括と注意点
ここで多くの方が陥りやすい実務上のNG行動は、老後の赤字を埋めようと焦るあまり、金融機関から勧められるがままにリスクや手数料の高い投資商品に退職金などのまとまった資金をつぎ込んでしまうことです。
老後資金の防衛において大切なのは、まず『ねんきん定期便』や『ねんきんネット』の一次情報を用いてご自身の正確な将来の受給見込額を確定させ、そこから逆算して毎月の生活水準(固定費)を年金収入の範囲内に極力近づける「家計のダウンサイジング」を行うことです。
投資や資産運用は、あくまで生活防衛資金を確保したうえでの選択肢です。ご自身の具体的な年金記録や受給見込みについては、インターネット上のシミュレーションだけで終わらせず、必ず事前に管轄の年金事務所などの公式窓口へ足を運び、正確な事実関係を確認したうえでライフプランを組み立てるようにしてください。





