私は、メガバンクで2005年から約12年間勤務しましたが、営業ノルマに対する姿勢は、当初、非常に厳しいものがありました。

営業現場では、「数字が人格である」と言われ、営業成績は、昇進・配置などの人事や、給与にも大きく影響しました。金融機関での営業を経験した人間なら、程度の差こそあれ、一度は「ノルマ達成と顧客本位の狭間」で揺れた瞬間があったと思います。しかしながらメガバンクでは、こうしたノルマ至上主義的な営業姿勢は、もはや過去のものとなりつつあります。

銀行は、かつては集めた預金を貸し出しに回し、預金金利と貸出金利の利ざやで収益を上げてきました。その後、「日本版金融ビックバン」の一環で、1998年に投資信託、2001年に保険の販売がスタートし、超低金利時代の到来も相まって、手数料収入の見込める金融商品(投資信託・保険)の販売に注力するようになりました。この頃はまだ、ノルマ至上主義的な営業姿勢が色濃く残っていました。

ところが、銀行が販売する金融商品に対する苦情件数が増大し、旧態依然とした販売姿勢が社会問題化。
その流れの中で、りそな銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行が、個人営業における販売額のノルマ撤廃を発表するなど、少なくともメガバンクにおいては、現在、顧客本位を徹底するとともに、ノルマ至上主義的な営業体制から脱却する流れにあります。

一連の報道後、かんぽ生命でも、2019年度の営業目標や販売員のノルマの廃止が発表されました。メガバンクからは周回遅れと言わざるを得ない、日本郵政グループの体制が明らかになりました。

日本人の「お金の話タブー視」と旧態依然とした経営体制

日本郵政グループの不適切販売について記述をしましたが、このような事象により、金融商品そのものが危険なものという印象を持たれてしまうことは本意ではありません。

とりわけ保険は、多くの人にとって必要な商品だと考えています。しかし、金融商品は複雑で難しいのもまた事実です。十分な説明を聞き納得の上で契約することが重要なのは言うまでもありませんし、できれば家族や信頼のおける方に相談するようにしてください。

日本人は、たとえ家族であってもお金の話をタブー視する傾向があります。日本人の持つ「お金は汚い」「お金儲けは悪いこと」というイメージは日本人の美徳でもありますが、一方で、それが金融リテラシーの低下につながってしまうのかもしれません。

お金の話を家族で共有し、お金について家族で学ぶ機会を作り、不適切販売から身を守っていただきたいと思います(もちろん、本来は不適切販売などあってはならないものですが)。

また日本郵政グループが体制を立て直し、顧客本位に舵を切り、信頼回復に努められんことを切に希望します。

広瀬 まき