「相場は思った通りには動かない」とはどのような意味か
この投資格言は、文字通り、理論と現実は異なることが多いということを伝えています。これから株式や投資信託などへ投資をしようと勉強を始められた方にとっては身も蓋もない言いようですが、格言となっているぐらいですから耳を傾ける価値はあると言えるでしょう。理由は3つあると思います。
第1は、相場の世界で売り買いを行っているのは人間だからです。人間には感情が付きものであり、また、人の心は、欲深い一方で折れやすいものだからです。このため、熱しすぎたり、落ち込みすぎたりしてしまい、好材料を十分に織り込んだ天井圏(割高)にあるのにさらに買い上がったり、また、その逆の行動に走ってしまうのです。
第2は、第1と少し矛盾しますが、最近の株式市場の一部取引は人間ではなくロボット(コンピュータ)も介在しているためです。このHFT(超高速取引)あるいはアルゴリスム取引と呼ばれる投資手法には様々な取引方法がありますが、たとえば、企業が発表する決算数値とコンセンサス予想をロボットが即座に分析し、上振れたら買い、下振れたら売りといった取引を即座に行うこともあります。
決算数値の上振れ、下振れだけで企業価値が大きく変動することは理論的ではありませんが、不完全なロボットによる取引が力を増すと、株価が一方向に大きく振れてしまうことがしばしば起こります。
第3の理由は、理論というのは普遍性と同義であり、整然と説明できて誰でも納得することが“理論的”なものであるからです。すなわち、理論的に相場を予想したとすると、既に多くの人も同じ予想をしていることになり、株価には織り込み済みとなってしまうのです。
理論では、過去を説明できても、一瞬先を予想できるとは限りません。理論と反対方向に相場が動く時は、まだ織り込まれていない事象が織り込まれてきたからと考える、つまり、相場は相場に訊けという謙虚な態度が投資には大切だということが、この格言の教えるところです。
この格言を今後にどう生かすか
最近における、相場が思った通りに動かないと感じた典型的な例は、為替動向やそれによる日本株の動きだったと思われます。
2016年2月4日に米労働省が発表した2月の非農業部門就業者数(季節調整済み)は24万2,000人増となり、一言で言えば、「強い!」と言ってよい内容でした。ところが、発表当初は一時的に円安になったものの、その後はむしろ円高方向の動きが続き、日本株もこれにつられて下落しています。
賃金の上昇が弱かったという解説が多く行われていますが、賃金が伸びていたらどうなっていたでしょうか。その場合は、円安にはなるものの利上げ懸念の再燃で米国株が下落し、日本株も下落していたかもしれません。あるいは、賃金も伸びず、就業者数も20万人割れだったら、米国経済への不安の高まりにより日本株はもっと下落していたかもしれません。
とはいえ、これらの仮説は、いずれにせよ証明できないものであり、実はあまり深く考えても意味はありません。
こういう色々考えても答えが見つからない時は、相場は思った通りには動かないと諦め、相場からいったん距離を置いてみることが最善の選択だと言えましょう。
【2016年3月10日 投信1編集部】
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LIMO編集部