半導体受託製造で世界最大手の台湾TSMCが発表した、2019年7~9月期の売上高予想は91億~92億ドル(米ドルベース)となり、前四半期比18%増(ガイダンスのミッドポイント)となる見通しだ。主要顧客の在庫調整が進み、需要サイクルの底打ちを迎えたことを強調した。
在庫水準も徐々に適正化
同社においては、米中貿易摩擦の悪化やスマートフォン市場の低迷から、足元の業績動向が不安視されていた。しかし、主要顧客の1社であるファーウェイを巡って、G20を機に輸出規制の措置を緩和する方向になったことから、同社からの受注回復も織り込まれた業績予想になっているとみられる。さらに、仮想通貨用ASICなどもビットコイン価格の回復などを受けて、引き合いが戻っているとみられ、先端プロセス需要に明るい兆しが見えている。
同社も4~6月期に在庫調整が徐々に進展したとしており、在庫回転日数は3カ月から3日減少して76日となった。6月末の在庫レベルは適正水準を上回る程度だとしており、サイクルのボトムは過ぎたとしている。
通年売上計画は維持
19年通年見通しについて、不確実性があるとしながらも19年10~12月期の売上高は7~9月期を上回ると見ている。通年売上高も従来予想の前年比微増から変更がなかった。なお、アプリケーション別の売上高予想(通年ベース)は、スマホやHPC(High Performance Computing)は前年比1桁台の増加(仮想通貨向けは除く)、IoTは2桁台の増加、自動車は前年比減少を見込む。
4~6月期実績は、売上高が2410億台湾ドル(前四半期比10%増/前年同期比3%増)、営業利益率が31.7%(同2.3ポイント増/同4.5ポイント減)となり、売上高は従来予想の上限を上回った。ウエハー出荷枚数は前四半期比5%増の230.8万枚(300mmウエハー換算)。
プロセス別では、最先端の7nmプロセスが売上高全体の21%を占め、前四半期比で5%増となった。7nmは19年通年で25%以上となる見込みで、20年はさらに構成比が高まる見通しだという。
設備投資は上ぶれ示唆
2019年通年の設備投資金額については、当初計画を上回る可能性を示唆した。詳細なアップデートは2019年第3四半期(7~9月)決算発表時に行われる見通し。
同社は19年の設備投資金額として、100億~110億ドルを計画。19年上期実績として約62億ドルの設備投資が実施されている。今回、4~6月期の決算カンファレンスの場で、このガイダンスの上限を上回る見通しだと言及した。増額理由について、同社では過去3カ月の間、グローバルで5Gの開発が加速していることから、顧客の7/5nmプロセス需要が拡大しているという。
EUV用いたプロセスが本格量産
19年の設備投資は、EUVリソグラフィーを用いた初の量産プロセスとなる「N7+」や、次世代の「N5」の立ち上げを中心に充当されている。主な内訳は約8割を7/5/3nm向け生産能力、1割強を先端パッケージやフォトマスク関連に投じる予定だが、今回の増額修正の方針によって、この構成比は若干変わる可能性がある。
足元では「N7+」の量産がスタート、同プロセスを用いたチップが搭載された最終製品が7~9月期に市場投入される予定。N7とデザイン互換性を持たせたN6の立ち上げ準備も進めており、20年1~3月期からリスク生産が開始される見通し。同プロセスはN7+のマイナーアップデートという位置づけで、EUVレイヤー数はN7+よりも多くなっている。
N5はすでに19年1~3月からリスク生産が開始されており、20年上期には量産が開始される予定だという。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳