桜の季節を迎え、世の中が新しいスタートを切るこの時期。身の回りの整理とともに、改めて向き合いたいのが家計の「今」と「これから」です。
人生後半戦の資産について、かつては「築いた財産を次の世代へ引き継ぐこと」が、一つのスタンダードな考え方として定着していました。
しかし最近では、「自分たちのために使い切る」という選択も一般的になっています。とはいえ、どちらの道を選ぶにせよ、無視できないのが「家計収支のリアル」です。
現在の70歳代世帯では、年金だけでは月々数万円の赤字が出るケースも珍しくありません。理想の暮らしを最期まで自分らしく維持するには、「今いくらあるか」という数字以上に、それを「どう賢く切り崩していくか」というシビアな視点は不可欠です。
新年度の始まりに、自分たちの立ち位置を再確認するために。最新データから以下のポイントを紐解きます。
この記事で深掘りする「3つのリアル」
- 遺産への本音: 「遺したい」派と「使い切り」派、イマドキの割合は?
- 家計の赤字額: 統計から見える、70代世帯のリアルな不足分
- 貯蓄額の分布: 隣の家はいくら持っている? 最新の資産状況
「なんとかなる」を「こうしていく」に変えるために。まずは現実の数字を知ることから始めてみませんか。
1. 70歳代のリアル《資産を使い切りたい派・遺したい派》それぞれの本音
老後資金を考える上で、避けて通れないのが「遺産」のゆくえです。「人生100年時代」といわれる今、シニア世代は自らの財産にどのような出口戦略を描いているのでしょうか。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代・二人以上世帯の価値観を見てみましょう。
1.1 70歳代・二人以上世帯の遺産に対する意識(単一回答)
【子供に財産を遺したい:52.6%】
- 老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:16.6%
- 家業を継いでくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:1.8%
- 老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐか等に関わらずこどもに財産を残してやりたい:34.2%
【財産を使い切りたい:33.8%】
- 財産を当てにして働かなくなるといけないので、社会・公共の役に立つようにしたい:0.8%
- 財産を残すこどもがいないので、社会・公共の役に立つようにしたい:1.0%
- 財産を残すこどもがいないうえ、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:8.8%
- こどもはいるが、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:23.2%
その他:13.6%
調査では、過半数の52.6%が「遺したい」と回答。無条件で遺したい層が3割を超える一方、「老後の世話」を条件とする層も一定数おり、家族間の支え合いを前提とした考え方が根強く残っています。
一方で、子供がいても「自分たちの人生を楽しみたいから使い切りたい」と考える層が約4世帯に1世帯(23.2%)にのぼる点も注目です。
遺産を継承させることが「親の義務」と捉える固定観念が薄れ、自立した老後を謳歌しようとする現代的な姿勢もうかがえます。
2. 70歳代二人以上世帯「年金だけで不自由なく暮らせる世帯」は約1割
暮らしの柱である「公的年金」について、シニア世代の満足度を見てみましょう。同調査が明かす、70歳代・二人以上世帯の切実な生活実感は以下の通りです。
2.1 年金に対する生活実感(70歳代・二人以上世帯)
- 不自由なく暮らせる:12.3%
- 日常生活費程度はまかなえる:61.2%
- 日常生活費をまかなうのも難しい:26.5%
「不自由なし」と笑えるのはわずか1割強。約4世帯に1世帯は日々の生活維持にすら困難を感じており、多くのシニアにとって年金は「ゆとり」を生む装置にはなっていないのが現状です。
2.2 不安の正体は「物価上昇」への防衛本能
なぜこれほどまでに不安が強いのでしょうか。その具体的な理由(複数回答)を見ると、現代の世相が反映されています。
- 物価上昇等により費用が増えていくとみているから:57.7%
- 年金が支給される年齢が引き上げられるとみているから:6.5%
- 年金が支給される金額が切り下げられるとみているから:17.2%
- 高齢者への医療費用の個人負担が増えるとみているから:30.0%
- 高齢者への介護費用の個人負担が増えるとみているから:18.7%
- その他:16.0%
最大の懸念は、約6割が挙げた「物価高騰」。食費や光熱費の値上がりは、限られた年金でやりくりする世帯を直撃しています。
さらに、いつか訪れる医療・介護への不安が、「今あるお金を守らなければ」という防衛本能を刺激し、家計への焦燥感を強めているようです。
3. 70歳代・夫婦世帯の家計簿。毎月の「赤字」はいくら?
では、実際の支出額はどの程度なのでしょうか。総務省の「家計調査報告(2025年)」から、リアルな収支を紐解きます。
3.1 「70歳代の夫婦世帯」家計収支の目安
- 70〜74歳: 実収入28万7725円 / 支出32万4971円 → ▲3万7245円
- 75歳以上: 実収入25万2798円 / 支出28万23円 → ▲2万7225円
※支出は「消費支出」と「非消費支出」の合計額
※実収入から支出を差し引いた数値と、不足分の額が計算上で一致しないのは、元データにおける項目ごとの端数処理(四捨五入等)の影響によるものです。
3.2 赤字の要因は「削れない固定費」にある
実際の支出内訳を紐解くと、高齢期の家計は現役世代以上に「抗えない支出」で構成されていることがわかります。
毎日の食費や光熱水費といった基礎支出、それに加え、加齢とともに避けられない保健医療費や、年金から差し引かれる税金・社会保険料といった「固定費」が大きな割合を占めています。
これらは日々の工夫で減らせる範囲が極めて狭く、近年の物価高騰がさらに追い打ちをかけているのが現状です。もはや「節約」という精神論だけで乗り切るのには限界があります。
これからの老後生活には、今の生活水準を維持するために「貯蓄をどう計画的に取り崩していくか」という、攻めのライフプランニングが不可欠と言えるでしょう。
4. 気になる「お隣の貯蓄額」は? 70歳代・二人以上世帯の分布
では、赤字をカバーするための「原資」となる貯蓄額を確認しましょう。
4.1 【貯蓄額】70歳代二人世帯の分布
平均値と中央値のギャップ
- 平均値:2416万円
- 中央値:1178万円
平均値は一部の富裕層が数字を押し上げるため、より実感に近い「中央値」を見ると約1178万円となります。
一見まとまった額に見えますが、毎月の赤字補填に加え、将来の介護費用や住宅修繕、突然の病気への備えを考えると、決して手放しで安心できる数字ではありません。
新年度が始まった今。データという「鏡」に自分たちの状況を照らし合わせ、無理のない、けれど確実な資産の守り方・使い道を話し合ってみてはいかがでしょうか。
5. まとめにかえて
本記事では、70歳代のシニア世帯にフォーカスして、平均貯蓄額や家計収支などのお金事情を確認していきました。
実際には、年金だけで日々の生活費をすべてまかなうのは難しく、「ゆとりがある」と感じられているシニア世帯は少ないのです。そして、年金にゆとりがないと感じる理由としては、物価上昇が強く影響しているという意見も多く上がっています。
こういった状況に鑑みると、老後に向けて資産運用を活用するなど、より一層自助努力が必要であると言えるでしょう。
また、資産を家族のために残すのか、自分たちの楽しみのために使い切るのか、意見は様々ですが、人それぞれの価値観が大切にされるべきでしょう。
この機会に、将来に向けてできることを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。



