この記事の読みどころ

2015年の自動車国内生産台数は2年ぶりの減少に転じ、これで7年連続の1,000万台割れとなっています。

一昔前まで、国内生産1,000万台は雇用確保のデッドラインと言われていましたが、深刻な雇用不安を耳にすることはありません。

自動車メーカーは生産現場の従業員の非正規化を進めてきましたが、現在は正規雇用へ進んでいます。正規雇用がさらに進むと、デッドライン説が再度論じられるかもしれません。

2015年の自動車国内生産台数は対前年比▲5%減の927万台に

日銀の追加金融緩和と言っていいのでしょうか、初のマイナス金利導入を発表して株価が乱高下した2016年1月29日、日本自動車工業会から2015年12月、並びに2015年暦年の国内生産台数実績が発表されました。

1台当たり平均して2万点以上の部品や素材を使用する自動車の生産台数は、その波及影響が広範囲にわたります。自動車産業の裾野が広く、ピラミッド構造と言われるゆえんです。

さて、2015年の国内生産台数は、対前年比▲5%減の927万8千台となり、2年ぶりの減少となりました。前年から約▲50万台の減少です。内訳を見ると、輸出台数はわずかに増加しましたが、軽自動車を中心に国内販売が大きく落ち込んだことが影響しました。

7年連続の1,000万台割れの2015年実績は、数字以上に厳しい印象

ここまで書くと、“あぁ、去年は▲5%減ったのだな”くらいの印象しかありません。しかし、927万台という生産台数が重要です。

まず、これで7年連続の1,000万台割れとなっています。また、1980年以降で見ると、927万台は2009年の793万台、2011年の839万台に次いで3番目に低い実績です。

ただ、2009年はリーマンショック直後の影響、2011年は東日本大震災の影響があったイレギュラーな年だったことを考えると、終わった2015年実績の厳しさが感じられます。

一昔前は“国内生産1,000万台は雇用確保のデッドライン“と言われていた

この中で注目したいのが、1,000万台割れが定着していることです。

自動車業界ではリーマンショック発生前までは、“国内生産1,000万台は雇用確保のデッドライン“というのが定説でした。今振り返ると、確固たる根拠はなかったように思われますが、自動車業界が強く意識していたことは事実です。

実は、1999年と2001年も1,000万台をわずかに割り込んだのですが、当時は、自動車メーカー各社が雇用維持に向けた抜本対策を掲げています。それくらい、深刻に受け止められていました。

1,000万台割れが定着しても雇用不安は起きず?

リーマンショック発生から今年で8年が経ちますが、いつの間にか、雇用確保のデッドラインと言われていた1,000万台割れが当たり前のようになっています。

しかし、実際に1,000万台割れが定着しつつある現在、不思議なことに、雇用確保に関する深刻な議論を耳にしません。それどころか、販売好調な一部のメーカーでは人手不足の声さえ聞こえてきます。

あの当時、つまり、今から約8年前まで信じられていた“1,000万台デッドライン説”が大げさだったのでしょうか?

見落としてはいけない非正規従業員の増加

ここで見落としていけなのは、リーマンショック発生前から自動車メーカー各社が生産現場の従業員の“変動化”、または、“フレキシブル化”を図ったことです。

言い換えると、生産現場に従事する人の“非正規化”を進めたのです。その結果、生産台数に合わせた従業員を確保する生産体制が整い、見た目には余剰雇用が発生していないのです。

正規従業員へのシフトが進んだ後に改めて議論されよう

昨年以降、安倍政権の方針等により、非正規従業員の正規雇用化が進められつつあります。これは非正規従業員にとっては嬉しいことは言うまでもありませんが、雇用する企業側に立って見ると、なかなか厳しいものがあると考えられます。

あと数年後には、この正規従業員への転換がより一層進むでしょう。その時、自動車業界では、改めて“1,000万台デッドライン説”が論じられる可能性があります。

LIMO編集部